大林宣彦監督とその【映画の血を分けた息子たち】
檀一雄原作、大林宣彦監督の映画「花筐(はなかたみ)」が佐賀県唐津市で現在、撮影中である。
これは監督のライフワークであり、桂千穂と共同執筆したシナリオは既に40年前に完成していた。当初出演者は全員ファッションモデル、台詞は声優による吹替、という企画だった。16mm自主映画(アンダーグラウンド・ムービー)の旗手、CMディレクターとして華々しく活躍していた監督が劇場映画デビュー作として考えていたものだった。しかし純文学の映画化という地味な企画は中々進捗せず、結局「HOUSE ハウス」(1977)が第1作となる。
「HOUSE ハウス」に檀一雄の娘・檀ふみが友情出演しているのは「花筐」の縁である。
大林監督にはもうひとつライフワークがある。福永武彦の小説「草の花」の映画化である。「さびしんぼう」の後、尾美としのりと富田靖子の主演で企画されたが、こちらも頓挫した。
僕は18歳の時に大林映画「廃市」(1983)を観て、その原作者・福永武彦を知った。20代は福永の小説を読んで過ごした(全小説を読破した)。そして「草の花」の舞台となった東京都大森駅近くの暗闇坂、清瀬市にある国立療養所東京病院、信濃追分、伊豆西海岸の戸田などを訪ね歩いた。正に新海監督「君の名は。」でいうところの聖地巡礼である。その詳細は「福永文学と草の花」としてWebに上げている。
映画「ふたり」のラスト、原稿を書いている石田ひかりの部屋の本棚にはひそやかに「花筐」と「草の花」が置かれていた。その主題歌「草の想い」(作詞:大林宣彦、作曲:久石譲)の歌詞には「花の形見」という言葉があって、「草の想い」と併せると「くさのはな」「はなかたみ」という言葉が全て隠されている。それから記憶が定かではないが、確か「異人たちの夏」の風間杜夫の部屋にも「花筐」と「草の花」があった筈。
大林監督は現在78歳。果たして映画「草の花」は実現するだろうか?第二次世界大戦中の東京が舞台となるので、もし忠実に再現するならオープンセットに膨大なお金が掛かるだろう。大ヒットも期待出来ない。なかなか難しいところである。
さて、「バケモノの子」の細田守監督は大学生の時に学園祭で「大林宣彦ピアノ・コンサート」を企画したという過去があり、大林監督は彼のことを【映画の血を分けた息子】と言っている。細田版「時をかける少女」(アニメ)は事実上、大林版「時をかける少女」の後日談であり、大林版のヒロイン芳山和子は細田版で「魔女おばさん」として登場する。細田はその声優として大林版と同じ原田知世を希望したが、断られたそう。
新海誠監督のアニメに大林映画「転校生」「時をかける少女」が与えた影響については既に書いた。
高橋栄樹監督が撮ったAKB48のミュージック・ビデオ(MV)「永遠プレッシャー」(島崎遥香センター)は「HOUSE ハウス」へのラブ・レターである。また大林監督がAKB48「So long !」MVを撮った時、高橋監督は手弁当で撮影現場に馳せ参じ、手伝ったという。
僕が思うAKB48最高のMVは、大林宣彦監督の「So long!」(全長版)。
— 高橋栄樹 (@eikitakahashi) 2013年10月30日
「踊る大捜査線」「サマータイムマシン・ブルース」の本広克行監督はももいろクローバーZ主演の映画「幕が上がる」を撮るにあたり、大林宣彦と山田洋次が若手の監督を呼んで語り合う「渋谷シネマ会」に参加し、アイドル映画を撮る極意について指南を仰いだ(詳細はこちら)。大林監督からの助言は「(被写体を)愛すればいいんだよ」だったという。そして「幕が上がる」のミュージカル仕立てのカーテンコールは「時をかける少女」へのオマージュになっている。
現在映画「青空エール」が公開中の三木孝浩監督も熱狂的な大林映画ファンだ。高校生の時に大林監督の「ふたり」をどうしても観たくて修学旅行先の東京で集団行動から抜けだし映画館に行ったそう。また尾道三部作への愛も告白している→こちら。三木監督の「陽だまりの彼女」は「HOUSE ハウス」にインスパイアされているし(化け猫映画)、「ホットロード」は三木版「彼のオートバイ、彼女の島」であり、「くちびるに歌を」には「ふたり」「はるか、ノスタルジィ」の石田ひかりが登場し、オルガンを弾く。また彼は「敬愛する大林宣彦監督のように、いずれ古里(徳島)を舞台にした映画を撮影したい」と語っている→徳島新聞の記事へ。
僕は長年、大林監督が映画「草の花」を撮る日を待ち続けてきた。でも、もし監督がその想いを果たせなかっとしても、今では沢山の立派な【映画の血を分けた息子たち】が第一線で活躍しているので、彼等のうちの誰かがきっと実現してくれるだろうと信じる。アニメーションによる「草の花」も観てみたい気がするな。
たとえ肉体が滅んでも、人はいつまでも誰かの心の中に、その人への想いと共に生き続けている。だから、愛の物語はいつまでも語り継がれていかなければならない。 愛する人の命を永久に生きながらえさせるために。永久の命、失われることのない人の想い、たったひとつの約束、それは愛。(映画「HOUSE ハウス」より)
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