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【考察】「君の名は。」で新海誠はどう進化したのか?

スピルバーグ×ディズニーという強力ブランド「BFG」京アニ「聲の形」を蹴散らして、週末興行成績ランキングは新海誠監督「君の名は。」がぶっちぎりで4週連続1位を獲得した。劇場は、やって来たものの満席で観れない「君の名は。」難民で溢れている。累計興行収入は、9月19日時点(公開から25日間)で91億円を突破しており、今週中に100億円に達するのは確実な状況(アニメーション監督として宮﨑駿に次いで史上2番目の快挙)。これはもう誰も想像もつかなかった事態であり、封切り当初、東宝が「興収60億円も狙える」と声明を発表していたことからも判る→シネマトゥデイの記事へ。インターネットや学校(中学・高校・大学)での口コミの効果が如何に凄まじく、業界(プロ)の予想を遥かに上回るものだったかということを示している。

だから最近「『君の名は。』は、何故ここまでヒットしたのだろうか」といった趣旨の分析記事が散見されるようになった。しかしそれは所詮【後付】【コロンブスの卵】に過ぎない。果たして映画公開前に「100億円いける」と予言した人が誰かいただろうか?賭けてもいいが東宝の敏腕プロデューサー・川村元気氏ですら驚いている筈だ。作品が大化けするとは正にこれだろう。

①「分かりやすい恋愛映画」だからヒットしたという意見がある。じゃあ広瀬すずの「四月は君の嘘」は大当たりした?恋愛映画なんて腐るほどあるわけで。新海監督の「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」だって恋愛映画だ。②「3・11をテーマに据えたのがキャッチーだったから」というのも見かけたが、観に行った人の殆どがそのことを事前に知らないよね。それに同じ震災を扱った園子温監督「希望の国」をどれだけの人が観た?じゃ③RADWINPSの音楽が良かったから?でも例えば大コケした「ファンタスティック・フォー」の音楽をRADWINPSが担当していたらヒットしていたと思う?全てこじつけ、ナンセンスである。

結局、真の理由は誰にも判らない。それが真実。ただひとつ言えるのは作品の出来が極めてよく、評判による波及効果が絶大だったということ。インターネット/SNSが普及する以前だったら、ここまでの社会現象にはらなかっただろう。そして東日本大震災とそれに続く福島原発事故で落ち込んでいた(心的外傷後ストレス障害 = PTSD状態だった)大人たちや、社会構造が変わりニートや派遣社員の割合が増え、ぼんやりした閉塞感を感じている若い人たちが、希望とか新しい神話を求めていた、そういうことなのだろう(「シン・ゴジラ」のヒットもそれに当てはまる)。

新海誠監督の前作「言の葉の庭」の最終興収は1.3億円だったという(Wikipediaでは推定1.5億円となっている)。単純に計算すると「君の名は。」を観た観客のうち、99%は過去の新海アニメを知らないことになる。途轍もないjump upである。

僕が働く職場で、小学校6年生のお子さんが友達3人と「君の名は。」を観に行って感動し、「もう一度観たい!お母さん一緒に行こうよ」と言っているという話を聞いた(満席に近く、4人バラバラで座ったそう)。映画館が高校生で一杯だとは風の便りで聞いていたけれど、今や小学生にまで裾野が広がりつつある。恐るべしだ。

では「言の葉の庭」まで極一部のマニアヲタクしか知らなかったカルト監督・新海誠が、「君の名は。」でどう変わり、一般客に浸透して行ったのか?そこを検証してみたい。

まず今までunhappy endしか撮らなかった新海が、happy endに舵を切ったことは大きい。彼は初めてファンタジーの力(物語る力)を信じた。コメディ・タッチも今までの作品には全く無かった作風だ(物語が深刻な方向に動き始めた時、三葉の体に憑依した瀧が滂沱の涙を流しながら胸を揉む場面ではいつも映画館内が爆笑で包まれる)。同人誌に投稿し続けてきた青臭い文学青年が一夜にしてエンターティナーに豹変したようなものだ。

デビュー作「ほしのこえ」から新海はセカイ系の旗手と呼ばれていた。「ぼく」と「君」の関係が地球/人類の危機に対峙する。そこに「社会」は一切コミット(介在)しない。「秒速5センチメートル」の貴樹と明里はふたりぼっちだ。「手紙から想像する明里は、なぜか、いつもひとりだった」という貴樹のモノローグすらある。「言の葉の庭」の雪乃先生も、高校生の主人公も孤独だ。閉じている。しかし「君の名は。」の瀧と三葉は違う。いつも気遣ってくれる仲間がいる。そしてクライマックスで三葉は町長である父と面と向かい合い、その協力(政治的決断)を請う。つまり積極的に社会にコミット(関わろうと)しているのだ。劇的な変化である。

「秒速5センチメートル」のファンはほとんど男なのだが、女性観客が受け入れがたい要素として、過剰なまでの自己陶酔モノローグにも一因があるだろう。「僕が」「僕が」というアピールに辟易するのである(くどい)。「ケッ!」となる。音楽で言えばマーラーの交響曲みたいだ。新海によるとモノローグの多用は倉本聰脚本の「北の国から」の影響だそうだ。しかし「君の名は。」で彼は思い切った。モノローグが非常に少なく、簡潔になっている。これが女子にも作品の魂がガツン!と伝わった理由の一つなのではないだろうか。川村元気プロデューサーの功績も大きいだろう。

後は何といっても「君の名は。」の疾走感だろう。よくぞ1時間47分の間にこれだけの内容を詰め込みましたという印象。実写で同じことをしたら2倍掛かるに違いない(これは「シン・ゴジラ」にも当てはまり、3時間必要な台詞を役者に早口で喋らせることにより、2時間以内にぎゅうぎゅう詰めにした)。テンポの良さが若い世代に受けた。RADWINPSの曲が先に出来ていて、それに合わせて編集したということも大きな要因なのではないだろうか?RADとの共同作業は1年半に及んだという。アニメ業界には極めて稀な事例であり、まるでミュージカル映画のような贅沢さだ。

数々の幸運や、作品に携わった人たちの想いが「君の名は。」を光り輝かせているのである。

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コメント

こんにちは。
最近やっと「君の名は。」見てきました。
平日にもかかわらず、TOHO梅田のスクリーン1が満席でした。

私は、新海監督作品は「秒速5センチメートル」しか見ていなかったので、ハッピーエンドで驚きました。
秒速5センチメートルの新海監督だったら、絶対、最後はすれ違いさせる!
または、三葉が変わってしまってるとか。
ハッピーエンドでなかったら、これほどヒットはしてなかっただろうな、というのは、私も見終わって一番最初に思ったことでした。

投稿: ものび | 2016年9月19日 (月) 23時39分

ものびさま

コメントありがとうございます。happy endは最初から決めていたと監督が語っています。3・11で日本国民が受けた衝撃、心の傷を癒やしたいという願いが強かったのではないでしょうか?せめて映画という「夢」の中だけでも希望の光を灯したいと。「世間のことなんか知らねーよ。『僕』と『君』の関係が全て」というセカイ系・新海誠が積極的に自分に与えられた社会的役割を果たしていこうという姿勢に転じた。その飛躍に僕は感動を覚えるのです。

投稿: 雅哉 | 2016年9月20日 (火) 09時05分

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受信: 2016年9月19日 (月) 16時04分

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受信: 2016年9月20日 (火) 00時35分

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