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2016年9月 5日 (月)

明日海りお主演 宝塚花組「仮面のロマネスク」とラクロの危険な関係

9月4日(日)梅田芸術劇場へ。

宝塚花組「仮面のロマネスク」とグランド・レビュー「Meodia -熱く美しき旋律-」を観劇。

Kiken

「仮面のロマネスク」の原作はフランスの作家コデルロス・ド・ラクロの小説「危険な関係」。今まで8回映画化されている(日本で1回、韓国は2回)。

僕が観たのはスティーヴン・フリアーズ監督、グレン・クローズ、ジョン・マルコヴィッチが主演した1988年版。これはアカデミー賞で脚色賞、美術賞、衣装デザイン賞を受賞した。さらに現代のアメリカに舞台を移したサラ・ミシェル・ゲラー、ライアン・フィリップ主演の「クルーエル・インテンションズ」(1999)、とペ・ヨンジュン(「冬ソナ」のヨン様)主演の「スキャンダル」(2003)の3本である。88年版は格調が高く、見応えあり。「クルーエル・インテンションズ」はサラ・ミシェル・ゲラーの絶頂期で、彼女の悪女っぷりが愉しかった。

原作小説が出版されたのは1782年なので、1789年のフランス革命前ということになる。「仮面のロマネスク」の台本を執筆した柴田侑宏は時代を王政復古の1830年に移した。この年に民衆が蜂起し七月革命が勃発、本作のクライマックスとなっている。ミュージカル「レ・ミゼラブル」と比較すると、ジャン・バルジャンが市長を務めた第1幕が1823年、バリケードが築かれる第2幕が1832年だからその間ということになる。

僕は本作を宝塚歌劇のオリジナル作品としては屈指の傑作だと想っている。ちなみにベスト3(ショー/レビューを除く)は「仮面のロマネスク」「王家に捧ぐ歌」「翼ある人びと ーブラームスとクララ・シューマンー」。和物を加えるなら「若き日の歌は忘れじ」と「星逢一夜」かな。

「仮面のロマネスク」はまず楽曲がいい。胸に滲みる。そして柴田の潤色が卓越している。原作でヴァルモン子爵はダンスニー男爵との決闘で惨めに死ぬ。しかし宝塚版では死なず、遠く戦火の炎が窓ガラスに映える中、メルトゥイユ侯爵夫人との「ふたりだけの舞踏会」で幕を閉じる。この後ヴァルモンは軍人として負け戦に出陣するわけで、やはり死という運命が確実に待ち受けている。一寸時間が伸びただけで彼の末路は変わらない。幕切れの舞踏会シーンは貴族社会の終焉も意味しており味わい深い。それは貴族の末裔であったルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「山猫」(1963)や、華族の没落を描く新藤兼人脚本、吉村公三郎監督の「安城家の舞踏会」(1947)に繋がっている。

またタイトルが秀逸だ。主人公のふたりは延々と恋愛ゲームを続けているわけだが、本心を隠し、ペルソナ(仮面)をかぶり続けている。最後にとうとう脱ぐのだが、時既に遅し。「危険な関係」よりよっぽど優れている。

ヴァルモンを演じた明日海りおは宝塚歌劇102年の歴史上、「最も美しい男役」だと僕は確信している。ただ彼女はロミオとか光源氏とか「白い」「無垢な」役が一番合うのだが、ヴァルモンは「黒い」「下衆な」男なので多少の違和感を覚えたことは否めない。メルトゥイユの花乃まりあはそもそも老け顔なので、役柄に似合っていた。初演の花總まりに匹敵すると想った。

レビューの方は可もなく不可もなしという印象。JAZZに乗ってニューヨークの場面が展開され、続いてエル・ドラード(黄金郷)→スペインのフラメンコ・シーンといった具合に「どこかで見た宝塚」が続く。マンネリズムではあるが退屈はしない。

ただ全ツ(全国ツアー公演)で物足りないのは音楽がカラオケであることと、大階段がなく、フィナーレがたった5段でしょぼいこと。ま、詮ないことだけれど。

それでも「仮面のロマネスク」がすこぶる良かったので、DVDが出たら買いたい!

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コメント

ご無沙汰しております!
仮面のロマネスクご覧になったんですね?かなりのみりおちゃんファンのようで(^^)
わたしもみりおちゃんが、黒いヴァルモン子爵は似合うのかなぁ、、となかなか思いつかずにおりました。
私はいまは田舎にいるのでなかなかフットワーク軽くみれないので、映像をまたいつかみれたらなーと思っています。


ところで今ご近所の大劇場では北翔さんのサヨナラ公演をやっています。
わたしは子供たちの夏休み、帰省中に初日をみましたが
今回の斉藤吉正くんのオリジナル。宝塚の場合サヨナラオリジナルは駄作、という定番を覆してくれました。

驚くほどのかなりの良作品です。すこーし場面展開が早くて一瞬ついていくのが大変ですが、「星逢一夜」と同じくらいの涙が流れると評判です。
周辺みなさんすすり泣く声がかなり聞こえて、男性方もかなり涙をぬぐう姿が多かったです。

齋藤吉正君と北翔さんは相性がいいのですが(最近だとlove&dreamのレビューもちょっと驚くほど演出がよくて感動しました)組子の出番も多く、薩摩会津とどちらから見ても後味が悪くなく、北翔さん、礼真琴さんと今の劇団で屈指の歌手が2人もいて本当によくできていました。殺陣も女性がやっていると思えないほど迫力がありました。

わたしは最近は柴田先生の跡継ぎは齋藤吉正くんではなかろうかと思っています。
とにかくその組の生徒を使うのがうまい。1番手二番手三番手という縛りのある宝塚の中でもそれをうまくつかい、さらに娘役も若手も本当に多くを上手に配役して台詞を与えています。全盛期の柴田先生同様なんです。
お芝居のお好きなブログ主さまにも一度彼の作品をみていただきたいなぁと思ってコメントしました。


ショーは古典的なロマンチックレビューです。色々指摘したいところが細かいところでありますが、名場面もいくつかあって、それで満足できる感じ。北翔さんの歌は少な目かもしれないけどダンスをみたい私は満足しました。

わたしは本来宝塚は外部ミュージカルよりオリジナルの芝居とショーの二本立てが基本だと思っているんですが、今回これで良作品が見れて本当によかった。


お近くですし、まだ日にちはありますので是非ご覧くださいね~

投稿: ムコ | 2016年9月 6日 (火) 01時16分

ムコさま、お久しぶりです。コメントありがとうございます。

「サヨナラオリジナルは駄作、という定番」で様々な作品を想い出します。麻路さきの「皇帝」は余りにも芝居がつまらないので、退屈したファンが舞台の星の数を数えたという伝説を残しました。姿月あさと「砂漠の黒薔薇」は途中で観ることを放棄しましたし、紫吹淳「薔薇の封印」、春野寿美礼「アデュー・マルセイユ」、香寿たつき「ガラスの風景」など酷い作品ばかりで、死屍累々たる有様です。極めつけは蘭寿とむ「ラスト・タイクーン」。生田大和が台本を書く作品は一生観ないと固く決意しました。

しかしそれはサヨナラに限ったことではなく、「宝塚のオリジナルは宝くじみたいなものでハズレが多い」ということでもあるのかも知れません。「仮面のロマネスク」は高嶺ふぶきのサヨナラですから、必ずしも駄作ばかりでもないのでしょう。

齋藤吉正はWOWOWで観た「風の次郎吉 - 大江戸夜飛翔 -」がイマイチでした。僕は江戸落語もそうなのですが、人情噺が大嫌いなんです。ただ、「カラマーゾフの兄弟」は面白かったので、彼に対する評価が未だ定まっていません。お勧めの「桜華に舞え」を観に行くかどうかは、しばらく考えてみます。

投稿: 雅哉 | 2016年9月 6日 (火) 08時49分

おお!江戸落語と人情噺が大嫌いとな。
それは、、、ジロキチは無理でしょうね。おもいっきり単純なお江戸の人情話です。でもあれはとても受けが良くてチケットをとれないほどの人気公演だったのですよ。譲渡サイトでは高騰しまくってしまい、梅田のチケットがとれなくて大変な思いをしました。

いつも拝読していて思っていたのですが、雅哉さまはヅカファン、、ではないんですよね。お花様ファンではいらっしゃるようですが。
お芝居の方を重視してらっしゃる。だから時々ヅカファンの一般的な評判とは違うことがあるんでしょうね。

わたしは子供のころから長く見ているということと、もともと芝居にはあまりストーリーを求めていないのでお年寄りのヅカファンとほぼ同じ感想なんです(笑 芝居がダメでもショーが楽しくてエトワール含めて、フィナーレがよかったらそれでいいや、みたいな。
ですから、上に挙げられた駄作の中で、薔薇の封印はさほど悪いと思わなかったなぁ、、イケコの色彩感覚、舞台装置の立体的な使い方とあとテーマソングがよかったので、あれは駄作とは思わなかったです。そこそこチケットもちゃんと売れていたと思います。

あと駄作だなーと思っても、それをうまくスターが料理してくれて、組子がたくさん出ていれば結構OKなんです。話が破たんしていても気にならない。あと柴田先生の場合は、当時の宛書がうまくいったとしても、再演だと宛書ではないのでうまくいかないこともあり。。
そこがオリジナル作品が駄作なのかどうなのか?というところだと思うのですよね。
ちなみにエリザベートは我儘な女の話としか思わないのですが、音楽と群舞がいいな、と思います。

ラストタイクーンは確かにヅカファンの間でも評判が悪かったようでチケットがなかなか捌けなかったようですね。でもそのあとの今年の頭のシェイクスピアはとてもよかったそうで、皆さん「生田さんどうしたの?」と言う方が多かったですよ。確かにチケットもそこそこでした。


話が長くなりましたが、今回の桜華は歴史ものです。ちょっと詰め込み過ぎて忙しい気もしますがよくもここまで、一本物でないのにちゃんと入れたなと思っています。
さらに北翔さん個人のスターのファンからみると、斎藤さんがいろんなセリフやストーリーに入れ込んだ裏プロットが一回見ただけでも見えてきて、彼女の宝塚人生に照らし合わせるとさらに涙が出る、という仕組みになっています。

・・とまぁそれは個人のファンでなかったら関係ないですが。
とりあえず星逢一夜のように涙が出ると言われています。

ただ、上田さんのように芝居、ストーリーありきで、そこに役を入れ込んだか、斎藤さんのように、まず生徒の配役ありきで、世界を作って行ったか、、の違いはあるようです。

はー長くなってしまって失礼いたしました。

そういえば先日Eテレ知識の泉、で小林一三をやっていました。今度は宝塚歌劇だそうで。最近よく特集されていますねぇ。
昔の阪急電車の街並みを見るのは面白いです。

投稿: ムコ | 2016年9月 7日 (水) 18時07分

ムコさま

人情噺は大嫌いですが(ベタベタして気持ち悪い)、三遊亭圓朝と柳家喬太郎の創作落語は高く評価しています。そして上方の滑稽噺は好きですね(カラッとしている)。来年宝塚で上演される「幕末太陽傳」は数々の江戸落語を編纂していますが、人情噺ではないので観たいと想っています。

僕は小池修一郎のヴァンパイアものなら「蒼いくちづけ」がすごく好きです。でも「薔薇の封印」は救いようのない駄作。小池さんには今度萩尾望都の「ポーの一族」をやって欲しいのですが、宝塚歌劇に合うでしょうか?

それから小池さんは来年外部(梅芸)で「グレート・ギャツビー」を演出するのですが(主演は井上芳雄)、台本・演出・音楽を一新するとのことで期待に胸を膨らませています(作曲家はフランク・ワイルドホーンを強く希望!)。宝塚にもフィードバックされたらいいですね。

投稿: 雅哉 | 2016年9月 7日 (水) 19時57分

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