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3回目の鑑賞で気付いたこと。〜「君の名は。」超マニアック講座

これは

と対を成すものである。

また下記記事も併せてお読みください。

「君の名は。」は週末興行成績で公開初週(8月27、28日)の動員数が68万8000人、興行収入が9億3000万円でトップに躍り出たが、第2週(9月3日、4日)は動員数86万7000人、興収11億6000万円で、初週の124.8%という驚異的数字を記録した。そして第3週(9月10日、11日)は動員85万2000人、興収11億3500万円と第2週の成績をほぼ維持し、V3を達成。累計動員は481万人、興収は62億円を突破し、細田守監督「バケモノの子」の記録(動員459万人、興収58.5億円)をたった17日(2週間と3日)であっさり抜いてしまった。映画公開当初、東宝は「最終興収が60億行くのではないか」という見込みを発表したが、どうしてどうして、現在は100億円に達するだろうと予想されている。正に社会現象であり、新海誠監督は時代の寵児国民的作家になった。

スタジオジブリの歴代興収ランキングを見てみよう。

  1. 千と千尋の神隠し 304億円
  2. ハウルの動く城 196億円
  3. もののけ姫 193億円
  4. 崖の上のポニョ 155億円
  5. 風立ちぬ 120億円
  6. 借りぐらしのアリエッティ 92.5億円
  7. ゲド戦記 76.5億円

つまり100億円を突破したアニメーション作家は宮﨑駿ただ一人なのである。新海が史上二人目になるか、大いに注目したい。

僕は先週土曜日に「君の名は。」3回目を観に行ったのだが、新たな発見が色々とあったのでここに報告する。微に入り細を穿つ内容なのでネタバレあります。未見の方はご注意ください。




1)彗星の軌道

映画公開直後からSF作家からの指摘もあり、話題になっている彗星の軌道問題だが、テレビに映る最初のニュース映像では彗星が太陽の引力に引っ張られて弧を描いているので正しい。しかし2回目以降、彗星の軌道は弧を描きながら太陽と地球の間を通ることになっているから物理学的に間違っている。これは単なる作画ミス(チェック漏れ)と思われ、英語版を製作する時までには修正しておいた方が無難だろう。

2)高山ラーメン屋の主人の原型、過剰なモノローグの由来

主人公・瀧を山の麓まで軽トラックで送ってくれたラーメン屋の主人が最後にボソッと「アンタの書いた糸守、あらぁ良かった」という場面を観ながら、僕は何だかデジャヴ(既視感)に襲われた。いつか、どこかで見た夢の感触。その漠然としたイメージが3回目で漸く明確な形になった。倉本聰脚本「北の国から '87初恋」だ。そのラストシーンで古尾谷雅人演じる長距離トラックの運転手が純くん(吉岡秀隆)に「泥のついた壱万円札」を渡す。彼が言う台詞が実に感動的なのだが、未見の方のためにここには書かない。お楽しみはこれからだ(You ain’t heard nothin’ yet )!余談だが古尾谷雅人(代表作:映画「ヒポクラテスたち」)は2003年に首吊り自殺した。享年45歳だった。また「北の国から '87初恋」が新海の「秒速5センチメートル」に与えた影響については既にここに書いた。

新海は「北の国から」が幼い頃から大好きで、自身の作品にモノローグが多いのもそのせいだと語っている。そして「雲のむこう、約束の場所」では吉岡秀隆にモノローグを語らせている。

「君の名は。」の終盤、瀧は建築デザイナーを目指して就職活動している。考えてみれば彼の心の支えとなっているのはラーメン屋主人の「アンタの書いた糸守、あらぁ良かった」の一言だったのではないだろうか?初めて他者から認めてもらった、自分を肯定してくれたという歓び。それは「秒速5センチメートル」の主人公が中学生の時、大好きだった明里から別れ際に言われた、「貴樹くんは、きっとこの先も大丈夫だと思う。ぜったい!」という言葉だけを心の拠り所にして生きていくことに呼応している。

新海誠監督は長野県小海町に生まれた。父親は建設会社の社長。故郷に残り家業を継ぐか、上京して自分の道を探すか悩んだという。その記憶が三葉の友人、テッシーに投影されている。そして建設会社に入社したいと希望している瀧は、せめて映画(=夢)の中だけでも、(自分が果たすことが出来なかった)父親の願いを叶えてあげたいという新海の祈りが籠められているのではないだろうか?

3)扉が開く/閉まる

「君の名は。」前半では扉を開けるショットが繰り返される。扉は画面中央に置かれ、その左右に「こちら」と「あちら」の世界が描かれる。これは男女入れ替えの回路が開いていることを象徴している。しかし入れ替わりが止まった(回路が閉じた)途端、今度は扉が閉まる映像が登場するのだ。

4)糸守町に隕石が落ちるのは3回目?

宮水神社のご神体がある山頂はクレーターのように落ち窪んでいる。これが死火山の火口である可能性は低い。もしそうなら土が火山灰だから、草木は育たない筈だからである。ならばここにも隕石が落ちたと考えるべきだろう。ということは今から1200年前に隕石が落ちて糸守湖が出来たわけだが、更に遡る1200年前にも落ちた?そして12という数字にも多分意味があって、十二支とか、古代中国天文学における天球分割法、十二辰と関係しているのかも知れない。ちなみに十二支のうちの本義は“紐”で、生命エネルギーの様々な結合を意味しているという。組紐に繋がっている。

「糸守」という名前自体にも、組紐(結び)を守るという意味があるのだろう。

5)川上未映子「あこがれ」

新海誠と芥川賞作家・川上未映子の対談がNHK "SWITCH"で放送された。それによると新海は川上が書いた小説「あこがれ」で主人公の少女が走って転ぶ場面に感動して泣いた。そしてそれを「君の名は。」に引用したという。なお、新海監督はインタビューで次のように語っている。

終盤に三葉が走って転んでしまうシーンですが、あそこを担当いただけたのが『人狼JIN-ROH』や『ももへの手紙』の監督を手がけた沖浦啓之さんという、たぶん日本で一番巧いアニメーターなんですよね。その沖浦さんがやったことで、走って転ぶという絵コンテ通りの芝居ながらも、想定よりも何倍もエモーショナルなシーンになっていて、それはもう、ちょっと単純にビビりましたよね(笑)。すごいんですよ。(出典はこちら

6)「転校生」との違い

大林宣彦監督の「転校生」はふたりが抱き合った状態で階段を転がり落ちることが男女入れ替わりの契機となるが、「君の名は。」のふたりは距離が離れており、眠るということが契機になる。それはつまりだ。本作は『古今和歌集』に載っている小野小町の和歌『夢と知りせば覚めざらましを』をモチーフとし、企画書では『夢と知りせば(仮)-男女とりかえばや物語』というタイトルだったという。フロイトの「夢判断」でも判る通り、はヒトの無意識深層心理に関わっている。瀧が糸守という町名を覚えていないのも、三葉という名前が失われていくのも夢だからだ。しかし糸守の絵は書けるので、言語(聴覚)記憶よりも映像(視覚)記憶の方がより長く残るということなのだろう。言葉は意識に所属し、自我が生み出す。一方、無意識)はイメージの世界である。

7)彗星や鳥の影

神木隆之介くんが言うとおり、新海誠は「光と影の魔術師」だが、「君の名は。」でも、例えば糸守湖の上空に鳥が飛んでいる何気ない場面にも鳥の影が形成されている。あと彗星の影が美しい!「秒速5センチメートル」第2話「コスモナウト」のロケット雲のことを想い出した。

8)ゴジラとのシンクロニシティ

シンクロニシティ(共時性)とは「意味のある偶然の一致」のこと。スイスの精神科医・心理学者であるカール・ユスタフ・ユングにより提唱された概念で、コンステレーション(布置、星座という意味もある)と言い換えても良い。今年は「シン・ゴジラ」が興行収入で第1位になるかと思いきや、「君の名は。」にあっさり敗れた。そして「ゴジラ」第1作が公開された1954年も「君の名は(第三部)」が配給収入第1位となった。こちらの「君の名は」は東京大空襲をテーマに男女のすれ違いを描いている。そして「ゴジラ」は水爆実験が大きなモチーフだが、ゴジラが東京を破壊する場面には戦争による人々の心の傷跡が残っている。つまり根っこは同じなのだ。一方、「シン・ゴジラ」と「君の名は。」の根底には3・11東日本大震災がある。だからこの偶然には大いなる必然性があるのである。

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