映画「ジャングル・ブック」と【野生の思考】
1962年にフランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースは【野生の思考】という著書を発表した。未開社会の【野生の思考】の中で最も重要なのは人間と動物がお互いに同胞のように付き合い、語り合い、渡り合い、結婚したり、命のやり取りをすること。かつて人間と動物は全く対等な存在だったし、神話は「動物たちはかつてみんな言葉を喋っていた」とも言っている。
でここまで書いてきてお気づきだろうが、【野生の思考】の解説はそっくりそのまま映画「ジャングル・ブック」にも当てはまるのである。
評価:A
ウォルト・ディズニーの死後完成した長編アニメーション「ジャングル・ブック」が公開されたのは1967年。今回は「アイアンマン」「アイアンマン2」のジョン・ファヴロー監督が実写映画化した。
アニメ版で主人公の少年モーグリは最後にジャングルに突如現れた少女の後を追い、人間世界に帰るのだが、今回はそうではない。これが新しかった。動物より人間のほうが上ーこれはユダヤ教徒やキリスト教徒が囚われている愚かな思想である。神は自分に模して人間(アダム)を造った。そしてアダムの鎖骨からイヴを生み出した、と旧約聖書(創世記)には書かれている。だから人間は他の動物より上位であり、男は女より上というのが彼等の根本的考え方である(神やイエス、その使徒も男)。「モーグリはジャングルより人間社会で暮らすほうが幸せだ」ー(全人口の半数以上がカトリック信徒である)アイルランド系移民の息子ウォルト・ディズニーは結局、キリスト教的価値観の範疇を逸脱することが出来なかった。しかし21世紀に創作された実写版は、ついに殻を打ち破った。このことを高く評価したい。
モーグリ以外の生物はフルCGだが、テクノロジーの進歩には目を見張るものがある。何という実体感だろう!言葉を喋っているから「偽物」だと辛うじて解るが、それがなかったら本物にしか見えない。恐れ入りました。
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