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2016年8月19日 (金)

シン・ゴジラとエヴァンゲリオン/あるいは、樋口真嗣監督の軌跡

評価:AA (当サイトの最高評価はAAA

Sin

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文句なし今年の日本映画ベスト・ワン。冗談抜きで米アカデミー外国語映画賞の日本代表に選んでもいいんじゃないだろうか?

平成ガメラシリーズは画期的作品だった。脚本:伊藤和典、監督(本篇):金子修介、特技監督:樋口真嗣という3人の才能が結集した成果である。しかし「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」のあたりから3者の関係はおかしくなり、その後2度と一緒に仕事することはなくなった。

樋口真嗣【監督】の劇場長編映画第一作「ローレライ」(2005)には大いに期待したが、その分落胆も大きかった。シナリオが壊滅的にお粗末で、特撮もショボかった。福井晴敏の原作小説とは雲泥の差。その後、短編「巨神兵東京に現わる」が良かったので「こ、これは!」と胸が高ぶったが、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」で再び徹底的に裏切られることになる。AKB48「真夏のSounds good !」MVの演出も酷かった。こうして【監督】樋口真嗣には辛酸を嘗めさせられ続けてきたので、「シン・ゴジラ」に対しては懐疑的だった。

一方、庵野秀明は「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズ(日本SF大賞受賞)で名を馳せたが、エヴァを離れると全く駄目な奴で、一生これにしがみついて生きていくのかと看做していた。庵野が撮った実写映画「キューティーハニー」は劇場で観たが、惨憺たる出来だった。

ところが、だ。庵野【総監督・脚本・編集】×樋口【監督・特技監督】が組むと、途轍もない大傑作が生まれた!「何なんだこれは……」唖然とした僕は上映が終了してもしばらく放心状態だった。庵野と樋口は「ふしぎの海のナディア」やTV版「新世紀エヴァンゲリオン」時代から共同作業をしてきた朋友だが(エヴァの碇シンジという名前が樋口真嗣に由来することはあまりにも有名)、両者が相見えるとそこに化学反応(chemistry)が生じるのだろうか?「シン・ゴジラ」は本多猪四郎【監督】×円谷英二【特技監督】という伝説のコンビが生み出した元祖「ゴジラ」(1954)に匹敵する作品に仕上がった。

まず庵野が編集権を握ったのが功を奏した。短いカットの積み重ねで非常にテンポが良い。キャスト全員で328人。膨大な台詞の数だ。完成された台本は普通撮ったら3時間掛かる。しかし東宝は2時間以内に収めることを要望した。そこで庵野が選択した戦略は台詞をカットすることなく、役者に早口で喋らせる手法である。当然感情を排した口調になるが、風通しがよく清々しい。そして完成した作品は見事に上映時間119分に留まった。

圧倒的情報量で密度が濃く、一度観ただけでは耳から入る内容を脳が処理しきれない。「カイジ(海上自衛隊)」「ローテ(ローテーション)」「レク(レクチャー)」「キンキカライ(金帰火来:国会議員が金曜に自分の選挙区に帰り、火曜に東京に戻ること)」など耳慣れない略語・熟語が何の説明もなくバンバン出てくるが、多少判らなくても一向に構わない。

タイトルの「シン」は多義的である。「新」であり「神」であり、「true」や樋口真嗣の「真」でもある。

元祖「ゴジラ」は水爆実験(第五福竜丸事件)の申し子であり、「怒れる神」の雷(いかずち)だ。そして台風や津波など日本を襲う自然災害のメタファーでもある。「シン・ゴジラ」は明らかに3・11東日本大震災と福島原発事故を彷彿とさせる要素に満ちている。ここに現代に問う意義がある。

本作は平成ガメラシリーズの脚本を執筆した伊藤和典から多くを学んでいる。特に「もし東京でクーデターが発生したら?」というシュミレーションを描く押井守監督のアニメ「機動警察パトレイバー2 the movie」からの影響が顕著だ。それは怪獣以外のマスコミや政府の対応をドキュメンタリー・タッチで描く手法である。事前に官公庁や自衛隊に徹底的なリサーチを敢行したらしい。非常時の対応が実にリアルで、バーチャルな躍動感に満ちている。

また映画「激動の昭和史 沖縄決戦」を100回以上観たと豪語する庵野の岡本喜八監督(故人)へのオマージュも強烈だ。特にテロップの多用は「日本のいちばん長い日」のひそみに倣っている。

あとゴジラが第1から第4まで形態変化をしていくのが新鮮である。まるでエヴァの使徒みたい。またスサノオがヤマタノオロチを退治する神話に由来する「ヤシオリ(八塩折)作戦」で世界中の国々が協力するというアイディアはエヴァで葛城ミサトが立案した「ヤシマ作戦」を彷彿とさせる(その原点は庵野がこよなく愛する「宇宙戦艦ヤマト」発進シーンにある)。

伊福部昭が作曲したテーマ曲が、なんとオリジナルのモノラル音源のまま流れたのには驚かされた。他にも「キングコング対ゴジラ」「メカゴジラの逆襲」「三大怪獣 地球最大の決戦」「怪獣大戦争」「ゴジラVSメカゴジラ」「宇宙大戦争」などの楽曲が次々に登場する。伊福部への敬意が溢れ、胸熱である。鷺巣詩郎による新テーマも違和感なく溶け込んでいる。

樋口真嗣【特技監督】の功績も特筆に値する。平成ガメラシリーズと比較すると5倍以上進化しているのではないか?日本版初となるフルCGのゴジラには圧倒的な存在感があった。街並みにも安っぽいミニチュア感が全くなかったし、お世辞抜きでギャレス・エドワーズ監督によるレジェンダリー版「GODZILLA ゴジラ」と互角の勝負であった。日本映画はまだまだやれる!

「ローレライ」「日本沈没」「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」「進撃の巨人」と【ぼんくら監督】樋口真嗣に付き合ってきた國村隼が漸く報われた。「進撃の巨人」ではトホホだった長谷川博己も見違えるほど格好いい。石原さとみは色っぽくて最高!この落差には開いた口が塞がらない。

是非庵野&樋口コンビは、「平成の本多猪四郎&円谷英二」として、今後もコラボレーションを続けて欲しい。でも単体で仕事するのは、絶対ダメよ

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