君の名は。アニメーション映画がマニア/ヲタクの領域を超え、社会的認知を得る瞬間(とき)。
あまりにも突然の状況の変化に古くからの新海誠のファン(例えば僕)が戸惑っている。それは劇的/爆発的と表現してもいい。
新海誠が(監督・脚本・作画・美術・編集・アフレコなど)全てほぼひとりで完成させた処女作「ほしのこえ」(25分)は【セカイ系】と言われた(その代表作と見做され、Wikipedia【セカイ系】の項にも記載されている)。それはすなわちサブカルチャーであった。subcultureとは日本語で「下位文化」であり、つまり文化未満・日陰の身ということだ。
僕が大好きな「秒速5センチメートル」(単館上映、興行収入1億円)も、前作「言の葉の庭」(観客動員数12万人、興行収入1.5億円)もごく少数の熱心なファンに支持されたが、所詮はマニア/ヲタク向けのアニメーションだった。
細田守監督作品と比較してみよう。「時をかける少女」(2006):観客動員数18.8万人、興収2.6億円。「サマーウォーズ」(2009):動員数123万人、興収16.5億円。「おおかみこどもの雨と雪」(2012):動員341万人、興収42.2億円。そして「バケモノの子」(2015)は動員459万人、興収58.5億円となった。「時かけ」と「バケモノ」の観客数の差は実に24倍である。
因みに宮﨑駿監督「ルパン三世 カリオストロの城」:動員90万人、興収6.1億円。「風の谷のナウシカ」:動員91.5万人、興収14.8億円。「天空の城ラピュタ」:動員77万人、興収5.8億円。いずれも「サマーウォーズ」が上回っている。
新海誠の最新作「君の名は。」は週末(土日2日間)の全国映画動員ランキングで初登場1位となり、興行収入は金土日3日間で動員96万人、興収12.8億円に達し、東宝は最終的に60億円を狙えると鼻息が荒い。また世界85の国と地域での公開も決まった。
考えてもごらんよ、【あの】新海アニメがたった3日間で「カリ城」「ナウシカ」「ラピュタ」の記録をあっさり抜いたんだぜ。信じられる??「サマーウォーズ」超えは時間の問題で、「バケモノの子」ですら射程圏に入った。まさに化けた。モンスター級の大ヒットであり、今や社会現象と言える。新海誠は一夜にして宮﨑駿や細田守同様、日本の文化(クール・ジャパン)を担う存在となったのだ。
ロックバンド・RADWIMPSが手掛けたサウンドトラックも9/5付オリコン週間アルバムランキングで1位に初登場した。
10年前の7月、関西では単館上映だった細田の「時をかける少女」を僕がテアトル梅田で観た時、観客の9割以上は成人男子だった。むさ苦しいことこの上ない!その時の様子を監督自身もこう語っている→客層の変化に細田守監督ビックリ!(シネマトゥデイ)。
しかし「サマーウォーズ」→「おおかみこども」→「バケモノの子」になるに従い女性率が増え(今や5割)、年齢層も広がった。つまり一般(社会)的認知度の広がりは観客の女性率で推定出来るのだ。
最近の作品で言えば、「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ」とか、「劇場版 響け!ユーフォニアム」なども観客の男性率は9割だった。これらはまだ、ヲタクの世界に留まっていることを意味する。一般へ浸透しているかどうかは女性率が3割を超えるラインにあると僕は考えている。そして「君の名は。」公開初週の男女比は64対36だった(シネマトゥデイより)。
編集者やライターの間では「新海監督の新作、見た?」が挨拶代わりとなるほど映画業界内で話題が沸騰している。作品に対する評判が抜群に良いので、今後口コミで裾野が広がってゆけば女性率は更にグングン伸びていくだろう。
「君の名は」は紛れもなく、新海誠の集大成である。映画後半、高校生の主人公・瀧(たき)が走る電車の窓からプラットホームに立つ三葉(みつは)を垣間見る場面はそっくりそのまま「秒速5センチメートル」にあるし、「言の葉の庭」に登場する国語の教師・雪野百香理(ユキノ)は「君の名は。」の田舎の高校でやはり古典(万葉集)を教えている。声優はどちらも花澤香菜。
以下ネタバレあり!!!未見の方は要注意。
最後に、【セカイ系】の定義はこうだ。
主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性の問題が、具体的な中間項(国家・国際機関・社会)を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」といった抽象的な大問題に直結する作品群のこと
これって処女作「ほしのこえ」のみならず、何と「君の名は。」にもそっくりそのまま当てはまるよね。つまり新海誠は今や押しも押されもせぬメジャー監督になったけれど、本質(根っこの部分)は全く変わっていない。考えてみれば凄いことだね。
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