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2016年7月17日 (日)

祝!ウルトラマン放送開始50年

初代「ウルトラマン」の放送がTBSで始まったのは1966年(昭和41年)7月17日のことだった。つまり今日でちょうど50年である。

僕は「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」(1967)、「帰ってきたウルトラマン」(1971)、「ウルトラマンタロウ」(1973)の主題歌を歌えるのだが、話の内容は全く覚えていない。怪獣の名前も言えない。年齢的にリアルタイムで体験しているとは考え難く、恐らく幼年期に夕方の再放送を観ていたのだと思われる。

小学校3-4年生の頃にはすっかり卒業して、その後は無縁の暮らしをしていた。再び興味を持ったのは10年前に関西に引っ越してきて、落語を聴くようになってからである。噺家の桂文三が熱烈なウルトラマン・ファンで、マクラでよくその話をした。東京から来演した柳家喬太郎も出囃子で「ウルトラQ」を使ったり、ウルトラマンの怪獣を登場させる「抜けガヴァドン」(古典「抜け雀」のパスティーシュ)を高座に掛けたりした。この噺を初めて聴いたのが2015年だが、その時はガヴァドンという名前すら知らなかった。

僕の息子は現在5歳だが、3歳頃から恐竜やウルトラマンの怪獣が好きになりフィギュアを集め始めた(僕自身は親に買って貰ったことがない)。そこでTSUTAYA DISCUSでDVDをレンタルし、「ウルトラマン」全39話と「ウルトラセブン」全49話を息子と一緒に観た(ただし佐々木守脚本、実相寺昭雄監督のセブン第12話「遊星より愛をこめて」はある事情により欠番になっている。画質は悪いが幾つかの動画サイトで試聴可能)。現在は「帰ってきたウルトラマン」を途中まで観ているところである。

元祖「ウルトラマン」のシリーズ中、突出して面白いのは佐々木守脚本、実相寺昭雄監督の回である。ファン投票でトップの人気を誇る「故郷は地球」や、ガヴァドンが登場する「恐怖の宇宙線」もそう。このコンビによる「怪奇大作戦 京都買います」はテレビドラマ史上最高傑作だと信じて疑わないのだが、どうしてなかなかウルトラマンも負けてはいない。

佐々木脚本が傑出しているのは価値観の反転を行っていることにある。ガヴァドンは子どもたちの描いた画が宇宙線を浴びて実体化した怪獣であり、彼等はウルトラマンに「ガヴァドンを殺さないで!」と懇願する。つまりウルトラマン&科学特捜隊は【子どもたちの想像力を踏みにじる大人たち】に成り下がり、どちらが正義でどちらが悪かこんがらがってくるのである。父性原理で「断ち切る」性質を持つ欧米人(キリスト教徒&ユダヤ教徒)の思想は光と闇、天国と地獄、天使と悪魔に分ける二元論がその根幹を成している。しかし「世界はそんな単純な二元論で割り切れるものではない」という立場に立つのが我々日本人なのだ。考えてみればゴジラ(Godzilla)も人間にとっての敵であると同時に、台風や津波、地震など自然災害にも似た「荒ぶる」であり、水爆実験による「被害者」でもある。その多義性に魅力の本質がある。

「故郷は地球」(2016年8月21日午後5時よりNHK BSプレミアムで放送予定)に登場するジャミラも宇宙にひとりぼっちで取り残された宇宙飛行士の成れの果ての姿だ(映画「オデッセイ」のマット・デイモンと同じ)。彼は本当に退治すべき「悪」なのだろうか?それとも……。

「怪獣墓場」では科学特捜隊が今まで倒した怪獣たちを弔うために戒名をつけ、坊さんを呼んでお経を唱える怪獣供養が行われる。そのユニークな発想にびっくりした。そして怪獣墓場から落っこちてくる亡霊怪獣シーボーズ(←坊主?)は空を見上げて泣き叫ぶばかりで破壊行動もせず、もののあはれを感じさせる。余談だが怪獣墓場をもじった怪獣酒場が神奈川県川崎市にあり、大阪・難波にも元祖怪獣酒場があった。後者は惜しまれつつ閉店したのだが。

実相寺監督独特の凝りに凝った構図も見どころのひとつである。

また第一期を企画立案し、メインの脚本家として活躍したのが金城哲夫(きんじょうてつお)。沖縄県出身である。「ウルトラセブン」や「帰ってきたウルトラマン」の多くを執筆した上原正三も沖縄県出身である。彼等は幼少期に凄絶な沖縄戦を体験し、その後アメリカ合衆国に統治された故郷を憂えた。沖縄が返還されたのは1972年、「帰ってきたウルトラマン」放送終了後のことである。そもそも琉球王国は1609年に薩摩藩に征服され付庸国となり、明治維新の時に沖縄県として再編された。つまり彼等にとっては日本人も侵略者なのである。そういう屈折した複雑な想いがシリーズに込められている。

今回初めて「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」の明確なコンセプトの違いを知った。マンが戦う相手は怪獣だが、セブンの敵は宇宙人。つまり後者はSF要素が色濃い。セブンにはウルトラホーク1号から3号までのメカの魅力も加味され、ウルトラ警備隊の専用車「ポインター」のデザインも格好いい。また主人公がマンに変身すると必ず巨大化するが、セブンは①人間と等身大のまま、②巨大化するという2段階のプロセスが有る。

「ウルトラセブン」になると佐々木守が2本しか執筆していないのが哀しい。しかもうち1本(「遊星より愛をこめて」)は永久欠番だし。セブンの最高傑作は金城哲夫脚本、実相寺昭雄監督「狙われた街」(2016年8月28日午後5時よりNHK BSプレミアムで放送予定)であることは論を俟たないだろう。卓袱台を挟んでウルトラマンとメトロン星人が対峙するのは史上屈指の名場面である(これぞ昭和!)。また上原正三脚本、実相寺明雄監督「第四惑星の悪夢」は後の映像作家たちに多大な影響を与えた。例えばアニメ「宇宙戦艦ヤマト 2199」の第14話「魔女はささやく」は「第四惑星の悪夢」への熱烈なラヴ・レターである。

セブンに参加した新しい才能で特筆すべきは「快獣ブースカ」で脚本家デビューを果たした市川森一である。「盗まれたウルトラ・アイ」は詩的かつ叙情的な逸品だ。市川は後にTBSの金曜ドラマ「淋しいのはお前だけじゃない」で第1回向田邦子賞を受賞する。また市川が執筆したNHK大河ドラマ「黄金の日日」は三谷幸喜のお気に入りで、松本幸四郎演じる主人公・呂宋助左衛門(るそんすけざえもん)は本日放送される「真田丸」にも特別出演する運びとなった。

あとセブンで注目すべきはアンヌ隊員(菱見百合子)のエロさである。この役は映画出演決定を理由に降板した豊浦美子の代役として急遽決まったため、コスチュームのサイズが合わず体にぴったりとフィットしたものになったという。市川森一や評論家・森永卓郎らが「アンヌは初恋の人」と告白している。また落語家・立川談志も写真集「アンヌへの手紙」に寄稿している。

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「ウルトラセブン」はモロボシ・ダンとアンヌの悲恋物語として観ることも出来る。最終話(2016年9月11日午後5時よりNHK BSプレミアムで放送予定)でシューマンのピアノ協奏曲が流れる趣向はとてもロマンティックで、胸がキュン!とする。一方、「ウルトラマン」の紅一点、フジ・アキコ隊員(桜井浩子)はお色気ゼロだ。

金城哲夫は1969年に円谷プロを退社し沖縄に帰った。「帰ってきたウルトラマン」では第11話のみ脚本を執筆している。佐々木守は完全に撤退し、実相寺昭雄は第28話のみ監督した。その代わり初代「ゴジラ」の名匠・本多猪四郎が第1話・最終話など全5話を監督していることが「帰ってきた」の白眉である。

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