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日本人はクラシック音楽に一体、何を見出して来たのか?

日本人のクラシック音楽に対する姿勢に疑問を感じることが多い。その感を強くしたのが佐村河内守絡みの一連の報道であった。

一体、人々は彼が作曲した(ことになっていた)交響曲第1番《HIROSHIMA》に何を聴いていたのであろう?もし本当に楽曲自体に魅力があるのであれば、作曲家が佐村河内某であろうが、新垣隆であろうが関係ない。創作者がFAKE(偽物)であろうと作品の価値は減じない。今でもコンサートで演奏され、CDが売れている筈である。結局彼等が感動していたのは【被爆二世の全聾の作曲家が、激しい耳鳴りに苦しみながらも魂を絞り出すように故郷・広島への思いを交響曲にした】という架空の物語だったのではないだろうか?端から誰も音楽なんか聴いていなかったのである。

日本人は昔からヴィヴァルディの「四季」が大好きである。1970〜80年代のクラシック・チャートは常にイ・ムジチが演奏する「四季」のレコードがトップセラーを走っていた。僕も「四季」からクラシック音楽に入門したクチだが、何しろ標題音楽だから判り易い。「春が来た。小川はせせらぎ、羊飼いは微睡む」とか、「ここは狩りの場面なんだな」とか想像しながら聴くことが出来る。つまり物語がある。ところが、「四季」以外の標題のないヴィヴァルディの協奏曲は全く人気がなく、誰も聴かない。では作品の質に差があるだろうか?答えは明白、No.だ。

オーケストラのコンサートでしばしば取り上げられるハイドンの交響曲に目を向けてみよう。「告別」「軍隊」「時計」「驚愕」「太鼓連打」「ロンドン」……。ニックネームが付いたものばかり。ベートーヴェンの場合も「英雄」「運命」「田園」「合唱付き」とタイトルがある作品の演奏頻度が明らかに高い。ここ数年、交響曲第7番が加わったが、それには明白な理由がある。「のだめカンタービレ」という物語により付加価値が増したからである。ベートーヴェンの3大ピアノ・ソナタといえば「悲愴」「月光」「熱情」、6大だと「ワルトシュタイン」「テンペスト」「告別」が加わるが、むしろ僕はタイトルのない後期ソナタ(第30−32番)こそが彼の最高傑作だと信じて疑わない。

炎のコバケンこと小林研一郎と大阪フィルハーモニー交響楽団は毎年、「3大交響曲の夕べ」というイベントを開催している。これは「運命」「未完成」「新世界より」を指す。会場は2,700席のフェスティバルホールで、毎年チケットは完売と聞く。

そもそもベートーヴェンの交響曲第5番を「運命」、ショスタコーヴィチの5番を「革命」と呼んでいるのは日本人だけ。如何に標題が大好きかが伺い知れよう。タイトル付きのほうがチケットやCDが売れる。つまり商売上の理由でそうなっているのだ。ドヴォルザークの交響曲第8番が「イギリス」(最初にイギリスで出版されたから)、マーラーの4番が「大いなる喜びへの讃歌」と呼ばれていたこともあった。さすがにそれは酷すぎると最近ではなくなったのだが。

結局、標題を拠り所にしないと音楽の内容が理解出来ない、想像の翼を羽ばたかせることが出来ない、愉しめないということなのだろう。実に情けない話だ。その安直な姿勢、(分かったような顔をする)見栄っ張りの行き着いた先が交響曲《HIROSHIMA》だったというわけだ。そういう輩の虚像を剥いだという点において、僕は佐村河内守に感謝したい。

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コメント

僕がこの「佐村河内守事件」を知って思ったのは、結局我々は音楽そのものよりも「聾唖の作曲家」「ベートーベンの再来」と言う「物語」を消費していたのだ、と言う事でした。又、そういう物語を離れてこの楽曲自体の値うちはどうなのだろうか、と言う事でした。この「詐欺」が成功した理由は、人が望むわかりやすい物語を提供したからでしょう。

投稿: 最後のダンス | 2016年6月25日 (土) 10時33分

最後のダンスさん

仰るとおりです。しかしベートーヴェンの「物語」をそっくりそのまま引用し、さらに風貌まで似せているのですから盛り過ぎ、too muchで、却って胡散臭い印象を僕は受けたのです。

投稿: 雅哉 | 2016年6月25日 (土) 20時31分

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