アカデミー作品賞受賞「スポットライト 世紀のスクープ」
評価:A+
アカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞。映画公式サイトはこちら。
新聞記者が地道な取材で巨悪を追い詰めていくというプロットはウォーターゲート事件を扱った「大統領の陰謀」(1976)を彷彿とさせる。世間で名作と言われる「大統領の陰謀」(作品賞・監督賞を含む8部門でアカデミー賞にノミネート、4部門受賞)を僕は我慢して3回観たのだけれど、未だにその面白さがサッパリ理解出来ない。しかし「スポットライト」は違った。ワクワクした。前者がロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマン演じる2人の記者にスポットライトを当てているのに対し、後者はチーム・プレイ、群像劇になっており、アンサンブルの妙が最大の魅力である。
さて今年のアカデミー賞は作品賞が「スポットライト」、監督賞が「レヴェナント」のアレハンドロ・G・イニャリトゥだという僕の予想は的中した。両者を当てた人は極めて少なく、例えばアメリカの業界紙Varietyの予想では作品賞が「マネー・ショート 華麗なる大逆転」、日本の総合映画サイト オスカーノユクエや、映画評論家・清水節 氏の予想は「レヴェナント」だった。
ではどうして僕は「スポットライト」だと判ったのか?論理的に説明しよう。
今年の全米製作者組合(Producers Guild)賞は「マネー・ショート 華麗なる大逆転」、全米監督組合(Directors Guild)賞は「レヴェナント」のアレハンドロ・G・イニャリトゥ、そして全米映画俳優組合(Screen Actors Guild)のキャスト賞は「スポットライト」が受賞した。つまり三者三様の大混戦となったのである。
上記組合員たちはほぼ全員アカデミー会員に一致し、アカデミー賞の投票権を持っている。そして作品賞は会員全員の投票で決まる。では何処の部門が最も沢山の票を握っているか?言うまでもなく役者たちである。それは1本の映画を考えた時、プロデューサー、監督、役者のクレジットでどれが1番人数が多いかを考えれば自明のことであろう。
2005年度のアカデミー作品賞は「クラッシュ」が受賞したが、この年の全米製作者組合賞は「ブロークバック・マウンテン」、全米監督組合賞は「ブロークバック・マウンテン」のアン・リー、全米映画俳優組合のキャスト賞は「クラッシュ」だった。役者たちの意向が反映されたのである。「ブロークバック・マウンテン」はゲイ映画であり、この点が嫌われた原因と思われる。
「ロード・オブ・ザ・リング」のガンダルフ役で知られるイアン・マッケランは英ガーディアン紙のインタビューで次のように語った。「ゲイであることを公表している俳優(マッケランもそう)がアカデミー賞を受賞したことはない。これは偏見によるものなのかな。それとも単なる偶然なのかな」
また僕はVariety誌が予想した「マネー・ショート 華麗なる大逆転」の作品賞受賞は絶対にないと確信していた。頭がいい人が役者になることは稀だ。概ね数字に弱い。経済のことに関してはチンプンカンプンだろう。だから票は集まらないと踏んだのだ。結果はご覧の通りである。
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