ウルバンスキ/大フィル「もうひとつのオケコン」
5月20日(金)フェスティバルホールへ。
ポーランドの俊英クシシュトフ・ウルバンスキ指揮、大阪フィルハーモニー交響楽団で、
- チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
- ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
- ショスタコーヴィチ:ワルツ=スケルツォ(ソリスト・アンコール)
- ルトスワフスキ:管弦楽のための協奏曲
ピアノ独奏はロシア生まれで、エリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝したアンナ・ヴィニツカヤ。
ウルバンスキは過去3回聴き、レビューを書いている。
協奏曲以外は暗譜で指揮。「ロメオとジュリエット」はスタイリッシュで流麗。修道士ロレンスを描写した導入部は清浄な響き。愛の主題は濃厚に歌ったりすることなく、あっさりしている。一寸拍子抜けだった。
ラフマニノフで登場したヴィニツカヤは民族衣装のようなけったいなドレスで趣味が悪い。テンポは速く、ピアノのタッチは豪快。ギレリス、リヒテル、ベルマンらに連なるロシアのピアニスト固有のダイナミズムを感じた。曖昧さはなく、このコンチェルトで陥りがちな「甘さ」や「霧/靄(もや)に包まれた雰囲気」とは対局にある演奏。大いに気に入った。
「管弦楽のための協奏曲」=”オケコン”(Concerto for Orchestra)といえば、通常バルトークのそれを指す。バルトークとルトスワフスキの演奏頻度を比べれば、恐らく20対1、いやそれ以上の開きがあるだろう。CDで考えてもバルトークにはライナー、フリッチャイ、ドラティ、オーマンディ、セル、ショルティ、ドホナーニなどハンガリー出身の指揮者は勿論のこと、非ハンガリー系でもカラヤン、小澤、クーベリック、アンチェル、ブーレーズなど名盤は多い。一方のルトスワフスキを有名指揮者が振った音源は、僕の知る限り小澤、バレンボイム、ドホナーニ、サロネン、ヤンソンス、パーヴォ・ヤルヴィくらい。非常に貧相である。しかし実際に聴いてみると中身の充実度においては遜色ない。それなのにこれだけの格差があるのはルトスワフスキの故国ポーランド出身で世界を股にかけた指揮者が少ないことに起因しているだろう。だからウルバンスキはしっかりアピールし、布教活動に努めてもらいたい。
ウルバンスキの解釈は明晰。第2楽章 カプリッチョ・ノットゥルノ(夜の奇想曲)は繊細な表現で羽虫のようにすばしっこい。第3楽章パッサカリアはおもちゃ箱をひっくり返したよう。軍隊行進曲のような響きも聴こえてくる。僕は「プラハの春」を題材にしたチェコの作曲家カレル・フサの「プラハ1968年の音楽」(吹奏楽版/管弦楽版あり)との親和性を感じた。つまり圧倒的軍事力による民衆の鎮圧である。このイメージはポーランドの映画監督アンジェイ・ワイダの「灰とダイヤモンド」や「地下水道」に通じている。そんなことどもが、脳裏を駆け巡った。
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