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2016年4月12日 (火)

シューベルトと性病〜キアロスクーロ・カルテットで聴く「死と乙女」@兵庫芸文

4月10日(日)兵庫県立芸術文化センター小ホールへ。

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アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)率いるキアロスクーロ・カルテットを聴く。曲目は、

  • モーツァルト:ディヴェルティメント K.137
  • ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第4番 作品18-4
  • シューベルト:弦楽四重奏曲 第14番「死と乙女」
  • モーツァルト:ディヴェルティメント K.138(125c)
    〜第2,3楽章(アンコール)

イブラギモヴァについては「決定版!ヴァイオリンの名曲・名盤 20選」のメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲の項で語った。キアロスクーロ・カルテットは全員が(通常のスティール弦ではなく)ガット弦を張り、ピリオド・アプローチをする団体である。今回は弓もモダン・ボウではなくモーツァルト/ベートーヴェン時代のクラシカル・ボウを使用(弓の変遷はこちらのブログに詳しい。バロック→クラシック→モダンになるに従い、弓の反りが逆になり、段々長くなっていることがお分かり頂けるだろう)。

ヴィオラ奏者は顎当てがない楽器を使用、チェロ奏者はプログラム前半に(床に刺して楽器を固定する)エンドピンを用いず、シューベルトのみ使用。アンコールでは再びエンドピンなしとなった。

モーツァルトは子鹿のようにしなやかで俊敏。勿論ほぼノン・ヴィブラートで、(装飾音など)必要最小限に留めている。

ベートーヴェンは張り詰めた緊張の糸が最後まで緩むことがない。終楽章は畳み掛けるような演奏。

シューベルトで感じたのは激情の嵐。音楽用語のfurioso(猛烈に)がピッタリ。第2楽章「死と乙女」の変奏曲には諸行無常/虚無感があった。

シューベルトは1822年12月(25歳)に梅毒と診断され、大きな衝撃を受けている(→指揮者・藤岡幸夫氏のブログより)。弦楽四重奏曲第14番は1824年に作曲されたので、その時は既に死の影に怯えていたことになる。なお、シューベルト(享年31歳)の死因は梅毒治療で使用された水銀中毒であることが現在、確実視されている(→国際フランツ・シューベルト研究所機関紙より)。このレポートによると、水銀塗布治療は1823年から開始されたものと推定される。だから第14番に歌曲「死と乙女」の変奏曲を入れたことと、彼の闘病の苦しみ・絶望とは決して無関係ではないだろう。そのことを今回、痛感した。

前半のプログラムと比較すると、シューベルトではヴィブラートを増やして演奏された。この時代のピリオド・アプローチによる解釈は初めて聴いたので、とても新鮮だった。

現在ではベートーヴェンやシューベルトの交響曲をピリオド・アプローチで弾くことは当たり前になった。しかし室内楽の分野では非常に立ち遅れていて、例えばベートーヴェンの前期弦楽四重奏ではモザイク四重奏団やクイケン四重奏団の録音があるが(ラズモフスキー第3番まで)、第10番以降になると古楽器による演奏は皆無と言っていい状態である。

故に今後、キアロスクーロ・カルテットに期待したいのはベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲(特に13−15番)やシューベルトの第15番(←名作!)に是非取り組んでもらいたいということである。

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