佐藤しのぶ 主演/オペラ「夕鶴」と左翼思想
3月5日、フェスティバルホールで團伊玖磨作曲のオペラ「夕鶴」を観劇。
演奏は現田茂夫(指揮)大阪交響楽団、池田ジュニア合唱団、キャストは
- つう:佐藤しのぶ
- 与ひょう:倉石 真
- 運ず:原田 圭
- 惣ど:高橋啓三
最もよく知られた日本のオペラである。上演回数も800回以上とダントツに多い。劇作家・木下順二の「一言一句戯曲を変更してはならない」という条件の下、1951年に完成した(56年改訂)。
作品としての第一印象は「古臭い!」。まず團伊玖磨の音楽はメロディアスで、随所に童謡が挿入されるので、プッチーニの「蝶々夫人」を彷彿とさせる。良く言えば古色蒼然、朴訥な味わいがあるが、とても20世紀半ばに作曲された近代オペラとは思えない。最後が与ひょうの「つう・・・つう・・・」という呼びかけで終わるのも、「蝶々夫人」の幕切れでピンカートンが"Butterfly! Butterfly! Butterfly!"と3回叫ぶのに凄く似ている。
あと問題は木下順二の台本である。全篇から左翼臭がプンプン漂う。真っ赤っ赤である。「鶴の恩返し」という民話を、《金の亡者になった主人公の人間性が失われていく恐怖》に読み替えている。要するに資本主義=悪という構図だ。アホくさ。世の中そんな単純じゃねーよ。
帰宅して調べてみと案の定、木下順二はバリバリの左翼だった。彼と日本共産党の関係を示す証拠記事は→こちら。彼の戯曲は「劇団民藝」でしばしば上演され、同団の宇野重吉とは生涯の同士であった。九条の会に賛同し、東京都名誉都民賞をに選ばれるが辞退し、国家的名誉は一切受けずに左翼として筋を貫いたという。
なので「夕鶴」は日本を代表するオペラとして海外に紹介できるような代物ではない。時代遅れで恥ずかしい。僕としてはやはり、松村禎三の「沈黙」を推したい。
しかしながら今回のプロダクション、質としては素晴らしかった。佐藤しのぶの過剰なヴィブラートは僕の好みでないが、たっぷりした声量はあるし、つう役として不満はない。倉石 真はいい声しているし、その他のキャストも及第点である。
また森英恵の衣装が実にお洒落で目を惹いた。特に鶴を連想させるつうの衣装が素敵で、機を織った後、尾っぽの方がボロボロになるのも印象深かった。
特筆すべきは市川右近の演出である。八百屋舞台(傾斜をつけた台)で中央に盆(回転舞台)があるという極めて簡素なセット(美術は日本画家の千住 博)。与ひょうの家もなければ夕食を食べる場面でも卓袱台すら出てこない。小道具としては鶴の羽一枚と最後に完成した織物のみ。しかし観終わった感想としては細かい具象は全く不要で、観客にはちゃんと「見えた」のである。これこそが演劇の力であろう。大量の紙吹雪や照明がとても美しく、そこには「日本の美」があった。また正円の盆は時に宇宙(星空)に対する地球の暗喩となり、時に外界と内界を仕切る結界となった。その使い方が絶妙であった。
今回のプロダクションは是非、映像として残して欲しい。NHKさん、テレビで放送してくれないかな?
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