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2016年3月20日 (日)

【増補改訂版】厳選!これだけは観て(聴いて)おきたいオペラ・ベスト25(+吹奏楽との関連も)

クラシック音楽愛好家の中でも「オペラは苦手」という人が少なくない。まず上演時間が異常に長い。ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」は休憩時間込みだと5時間半かかる。実質的演奏時間も約4時間だ。「ニーベルングの指環」だと4夜を費やす。またミラノ・スカラ座とかメトロポリタン・オペラなど一流の歌劇場の来日公演を観劇したければチケット代として最低5万円は覚悟しなければならない。ヨーロッパでオペラ座は貴族の社交場だったわけで、所詮庶民には手が届かない文化だ。言語の問題もある。歌詞対訳を片手に聴かないとチンプンカンプンで面白くもなんともない。だから通勤・通学中にイヤホンで「ながら聴き」する訳にはいかない。ある程度の集中力を要求される。

僕がオペラを聴き始めたのは中学生1年生の頃で、最初はヴェルディの「椿姫」が好きだった。考えてみればパリの高級娼婦の話(原題を直訳すると「道を踏み外した女/堕落した女」)だからませたガキだ。音源はカルロス・クライバー指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団・合唱団。イレアナ・コルトバスやプラシド・ドミンゴらの歌唱。当時は未だLPレコードの時代で、中学生に2枚組LPを買うお金もなく、FM放送をカセットテープにエアチェックして聴いていた(歌詞対訳本は購入)。

中学3年生の時にお小遣いを貯め、クライバー指揮ミラノスカラ座引っ越し公演プッチーニ「ラ・ボエーム」を観るために岡山から大阪(旧フェスティバルホール)まで新幹線で駆けつけた。演出・舞台美術はフランコ・ゼッフィレッリ、ミミがミレッラ・フレーニ、ロドルフォがペーター・ドヴォルスキーという史上最強のプロダクションだった。当時は今みたいに便利なLEDによる舞台字幕装置なんかなかったから、歌詞対訳を一生懸命予習してまる覚えしたものだ。大変な労力を要した。

だから現代の若い人たちは幸せである。DVDとかBlu-ray、あるいは映画館のライブビューイングで字幕付きのオペラを気軽に楽しめる時代になったのだから。それも3〜5千円程度で。レーザーディスク(LD)時代は1万円以下でソフトを購入することなど出来なかった。

そこで今回はオペラの醍醐味を堪能できる作品を幾つか紹介していこう。当然僕が選ぶのだから直球だけではなく、変化球クセ球を織り交ぜている。でも自信を持ってお勧め出来るものばかり取り揃えた。なお、1作曲家1作品に絞った。また吹奏楽との関連についても触れた。では早速いってみよう!

  1. ディーリアス:村のロメオとジュリエット
  2. コルンゴルト:死の都
  3. ヴェルディ:シモン・ボッカネグラ
  4. ワーグナー:ニーベルングの指環(4部作)
  5. ヤナーチェク:利口な女狐の物語
  6. プッチーニ:トスカ
  7. R.シュトラウス:ばらの騎士
  8. チャイコフスキー:エフゲニー・オネーギン
  9. J.シュトラウス:こうもり
  10. ブリテン:ピーター・グライムズ
  11. 松村禎三:沈黙
  12. ショスタコーヴィチ:ムツェンスク郡のマクベス夫人
  13. ドニゼッティ:マリア・ストゥアルダ
  14. モンテヴェルディ:オルフェオ
  15. ガーシュウィン:ポーギーとベス
  16. マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ
  17. ラヴェル:こどもと魔法
  18. ドビュッシー:ペレアスとメリザンド
  19. オッフェンバック:地獄のオルフェ
  20. ヴァイル:三文オペラ
  21. ベルク:ヴォツェック
  22. モーツァルト:ドン・ジョヴァンニ
  23. ボーイト:メフィストフェーレ
  24. ロッシーニ:湖上の美人
  25. フンパーディング:ヘンゼルとグレーテル
  26. (次点)細川俊夫:海、静かな海

 「村のロメオとジュリエット」1907年、ベルリンで初演。20世紀のオペラである。僕はディーリアスが大好きで、特に夏になると管弦楽のための音詩(tone poem)を無性に聴きたくなる。そんな一つ、サー・トーマス・ビーチャムが編曲した「楽園への道」は「村のロメオとジュリエット」間奏曲である。しかしディーリアスを取り上げるのは専らイギリスのオーケストラであり、例えばウィーン・フィルやベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ、パリ管などがディーリアスを演奏したという話はとんと聞かない。すさまじい偏見、不寛容である。つい最近まではエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトも同様の扱いだった。「村のロメオとジュリエット」は繊細で美しい旋律がたゆたう、幻想的で魅惑的なオペラなのだが、世界の歌劇場で上演される機会は滅多にない。映像ソフトもない。ただ幸いな事に映画版がある。演奏はチャールズ・マッケラス指揮のオーストリア放送交響楽団&合唱団。トーマス・ハンプソンが出演しており、極上の仕上がりだ。日本版DVDがないのが残念だが(LDでは発売され、僕は持っていた)、海外版はAmazonやHMVから入手可能(Region All)。英語字幕を呼び出せるので少々英語力があれば鑑賞に問題ない。

エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトと彼が23歳の時に書き上げた「死の都」については以前さんざん語り尽くしたので、下記をご覧あれ。

DVDはいくつか出ているが、フィンランド国立歌劇場(ライヴ)がお勧め。新国立劇場でも採用されたカスパー・ホルテンの演出がいい。

それまで上演やレコーディングされる機会が多くなかった「シモン・ボッカネグラ」の真価は指揮者クラウディオ・アバドにより《再発見》されたと言っても過言ではない。アバドはロッシーニの忘れ去られたオペラ「ランスへの旅」蘇演にも尽力した。ヴェルディ作品の特徴はバリトンが重要な役割を果すことにある。「リゴレット」然り、「マクベス」、「イル・トロヴァトーレ」のルーナ伯爵、「仮面舞踏会」の秘書レナート、「ドン・カルロ」の親友ロドリーゴ侯爵、「オテロ」のイアーゴ、「ファルスタッフ」もそう。「シモン・ボッカネグラ」のタイトルロールはバリトンで、フィエスコ役のバスも大活躍。低音の魅力を堪能出来る。初演は1857年だが1881年に改訂された。改訂版の台本は後にヴェルディとの共同作業で「オテロ」と「ファルスタッフ」という傑作を産んだアッリーゴ・ボイートの手による。「シモン・ボッカネグラ」を愉しむには、アバド/ミラノ・スカラ座のCDをまず第一にお勧めしたい。カプッチルリ(バリトン)、ギャウロフ(バス)、フレーニ(ソプラノ)、カレーラス(テノール)と歌手陣も非の打ち所がなく、掛け値なしの超名盤である。映像もいくつかあるのだが、帯に短し襷に長しといったところ。強いて挙げるならヌッチが主演したBlu-rayかな?因みに僕が好きなヴェルディ・バリトンの順位は①ピエロ・カプッチルリ②ティート・ゴッビ③レオ・ヌッチ④ディミトリ・ホヴォロストフスキー(ホロストフスキー)←イケメンである。なお、クラウディオ・アバドという人は独特のこだわりがある指揮者で、彼はミラノ・スカラ座の音楽監督/芸術監督を20年近く務めたわけだが、生涯プッチーニとヴェリズモ・オペラを指揮することはなかった。またヴェルディについても人気演目である「椿姫」「リゴレット」「イル・トロヴァトーレ」は完全無視で、「マクベス」「シモン・ボッカネグラ」「ドン・カルロ」「仮面舞踏会」などを偏愛した。

「ニーベルングの指環」は神話だ。トールキンの「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」にも多大な影響を与えた。構想から上演まで25年を費やし、ワーグナーは数多くのライトモティーフ(示導動機)を複雑に絡ませながらこの壮大な物語を紡いだ。この手法はR.シュトラウス→コルンゴルトに引き継がれ、ハリウッド映画に持ち込まれた。それを活用しているのがジョン・ウィリアムズの「スター・ウォーズ」シリーズである。

また宮﨑駿監督「崖の上のポニョ」で父親のフジモトがポニョのことを”ブリュンヒルデ”と呼ぶのだが、これは「ニーベルングの指環」のことを知っていれば理解出来るだろう。さらに嵐の場面で久石譲の音楽がどうして”ワルキューレの騎行”を模しているのかという理由も。僕がこの楽劇を全曲通して初めて聴いたのは高校生の時。カール・ベーム指揮バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団の演奏で、16枚組みのLPレコードだった。映像ソフトとしてお勧めしたいのはレヴァイン/メトロポリタン・オペラ。写実的(オーソドックス)な演出はオットー・シェンク。近年メトで上演されたロベール・ルパージュ(シルク・ドゥ・ソレイユの演出家)版も悪くない。吹奏楽コンクールでは梅田隆司/大阪桐蔭高等学校が2011年に「ワルキューレ」で全国大会金賞を受賞している。

またワーグナーで絞る時、本作にするか「トリスタンとイゾルデ」にするか、随分迷った。「トリスタン」といえば官能法悦エクスタシーを感じさせるという点で他の追随を許さない。カルロス・クライバーが生涯で指揮した唯一のワーグナー作品でもある。現在までに「トリスタン」を指揮している最中に死亡した指揮者は2人いる。うちヨーゼフ・カイルベルトは生前、口癖のように「『トリスタン』を指揮しながら死にたい」と言っていたという。そしてその願いは叶った。

バーナード・ハーマンが作曲したアルフレッド・ヒッチコック監督「めまい」の音楽は明らかに「トリスタン」を意識している。映像は1983年バイロイト音楽祭のプロダクションがイチ押し。兎に角、フランスの鬼才ジャン=ピエール・ポネルによる演出が筆舌に尽くし難いほど美しい。また第3幕の解釈が斬新で、これには唸った。

「利口な女狐の物語」1924年初演。日本初演は77年とかなり遅い。動物たちが登場し、一見民話風なのだが、非常に色っぽいオペラである。ヤナーチェクの音楽の特徴は「艶」なのだということをこの作品を通じて初めて理解出来た。彼の弦楽四重奏曲 第2番「ないしょの手紙」は不倫音楽であり、ヤナーチェクは愛人(人妻)&その息子と旅行中に病に倒れ、彼女に看取られて息を引き取った。享年74歳、とんでもないエロジジイである。ヤナーチェクのシンフォニエッタは村上春樹の小説「1Q84」で取り上げられ、CDが飛ぶように売れた。吹奏楽コンクールでは石津谷治法/習志野市立習志野高等学校が2005年に全国大会で演奏し、金賞を受賞している。

「トスカ」はスカルピアが強烈。マリア・カラスのレコーディングでこの役を演じたティート・ゴッビが素晴らしい。「オテロ」のイアーゴと並ぶ、イタリア・オペラ最強の悪役だろう。映像ではフランコ・ゼッフィレッリが演出したメト版をお勧めする。あとゲオルギュー、アラーニャ主演の映画も◯。同じプッチーニ「ラ・ボエーム」の演出もゼッフィレッリが最高。ただし、カラヤンが指揮した映像は旧演出でイマイチ。新演出は第2幕の舞台装置に大きな違いがある。「トスカ」は鈴木英史編曲による吹奏楽版があり、井田重芳/東海大学付属第四高等学校が全国大会金賞を受賞している。

僕はリヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲を全く評価しない。派手だけど詰まらない。中でも音量がうるさいだけで空疎なアルプス交響曲は唾棄すべき代物である。しかし「サロメ」「エレクトラ」などオペラは別だ。「ばらの騎士を一言で評するなら豊穣なオペラということになるだろう。全篇が馥郁たる香りに満ちている。初演はドレスデン宮廷歌劇場で1911年。この後ドイツは1914年に開戦した第一次世界大戦に敗れ、多額の賠償金を請求されて天文学的なインフレに苦しむことになる。やがてナチス・ドイツの台頭。リヒャルト・シュトラウスもナチスと関わらざるをえない状況に追い込まれる(第二次大戦後、彼はナチスに協力したかどうかで連合国の裁判にかけられたが、最終的に無罪となった)。バイロイト音楽祭を主催するワーグナー家も積極的にナチスに結びつくことになる(ジークフリート・ワーグナーの未亡人ヴィニフレートは戦後、公職追放となった)。僕は「ばらの騎士」を観ていると、一つの時代(貴族社会)の終焉をひしひしと感じる。それは貴族の末裔であるルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「山猫」や「ルートヴィヒ」「家族の肖像」を観た時の印象に近いものである。お勧めの映像はカルロス・クライバーが指揮したもの。バイエルン国立歌劇場とウィーン国立歌劇場のものと2種類ある。カルロスは他にR.シュトラウスの「エレクトラ」を振ったが、正規の録音・録画は「バラの騎士」しかない。吹奏楽編曲は森田一浩によるものがあり、宇畑知樹/埼玉県立伊奈学園総合高等学校が全国大会金賞を受賞している。

「エフゲニー・オネーギンチャイコフスキーの音楽は美しい。また「くるみ割り人形」もそうだけれど、雪の風景がよく似合う。1879年初演。「手紙の場」は名場面である。チャイコフスキーはバレエ音楽の達人だから、舞踏会の場面に流れるポロネーズも鮮烈だ。原作はプーシキンの韻文小説で、プーシキンは自分の妻(名うての美人)に言い寄る男に決闘を申し込み、敗れて亡くなった。享年37歳。「エフゲニー・オネーギン」も決闘の物語である。映像はヴァレリー・ゲルギエフが振ったものを推す。

「こうもり」はこれぞ喜歌劇!と言える作品。

人生が今宵のように 軽やかに
過ぎ去るならば 時忘れ楽しもう

久しぶりに観直して、本作の真髄はこの歌詞に凝縮されているなと感じた。映画「8 1/2」(フェデリコ・フェリーニ監督)の名台詞「人生は祭だ。一緒に過ごそう」とか、「命短し 恋せよ乙女(ゴンドラの唄)」に通じるものがある。つまり、カルペ・ディエムだ。

ウィーンでは毎年大晦日の夜、国立歌劇場で「こうもり」を上演するのが恒例となっている。国立歌劇場の前身である宮廷歌劇場の芸術監督だったグスタフ・マーラーは「こうもり」を高く評価しており、彼の手で正式なレパートリーになったという(しばしば指揮もした)。様々な登場人物たちの、ささやかな欲望や虚栄心が描かれるが、本作はそれらを全面的に肯定している。そこがいい。映像は芳醇なワインのようなオットー・シェンクが演出したものにとどめを刺す。カルロス・クライバー/バイエルン国立歌劇場か、グシュルバウアー/ウィーン国立歌劇場でどうぞ。後者はルチア・ポップ、ベルント・ヴァイクル、ブリギッテ・ファスベンダーら綺羅星の歌手が出演していて壮観である。またヴァルター・ベリー、エーリッヒ・クンツらベテランがいぶし銀の演技で魅了する。吹奏楽コンクールでは2006年に石田修一/柏市立柏高等学校が鈴木英史編曲による喜歌劇「こうもり」よりセレクションで全国大会金賞を受賞している。

「ピーター・グライムズ」ベンジャミン・ブリテンはゲイであり、生涯のパートナーは本作など多くのブリテン作品で主役を務めたテノール歌手ピーター・ピアーズだった、というのが重要。

ここを押さえておかないと、作曲家が「ピーター・グライムズ」で何を描きたかったのか判らないだろう。陰鬱なオペラである。でもそこがいい。初演は1945年。当時イギリスで、同性愛者がどういう社会的制裁を受けていたかは映画「イミテーション・ゲーム」を観ればよく判る。いやもう、本当にびっくりするよ!オーケストラがまるで通奏低音のように海のうねりを描き、それは人間の深層心理の鏡にもなっている。映像はメト版が◯。このオペラから「4つの海の間奏曲」という管弦楽曲が編纂された。吹奏楽編曲版もあり、吹奏楽コンクール全国大会で何度か演奏されている。またブリテンではシェイクスピアを原作とする歌劇「夏の夜の夢」も幻想的で、抗し難い魅力を持っている。

「沈黙なにしろ遠藤周作の原作が面白い!オペラの台本としてもかなり上位に来る出来だろう。1971年に篠田正浩監督が映画化しており、今年マーティン・スコセッシ監督版が公開予定である。主役は当初、渡辺謙が予定されていたが撮影延期で降板せざるを得ない事態となり(ブロードウェイで「王様と私」出演が決まっていたので)、浅野忠信が代演した。オペラに話を戻すと、松村禎三の音楽もいい。日本を代表するオペラといえば團伊玖磨の「夕鶴」や山田耕筰の「黒船」などが挙げられる事が多いが、僕は断固「沈黙」を推す。

「ムツェンスク郡のマクベス夫人」スターリンの逆鱗に触れ、長いことお蔵入りになった作品。詳しい事情は下記記事をご一読あれ。

激烈な内容である。第1幕終盤には強姦シーンがあり、最初観た時は目が点になった。登場人物はまるでドストエフスキーの小説のように「過剰な人」たちだ。むしろ逆に、これでスターリンの怒りを買わないと高を括っていたショスタコの方が僕は信じられない。普通、分かるだろう!いやはや、愉快な奴だ。映像はヤンソンスが指揮したネーデルラント・オペラを推奨。吹奏楽では鈴木英史による間奏曲の編曲版がある。

マリア・ストゥアルダ」(1835年初演)はイタリアでロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニが活躍した19世紀前半ベルカント(唱法)時代の代表作として挙げた。ドニゼッティなら「愛の妙薬」や「ランメルモールのルチア」の方がポピュラーだが、内容が劇的で興奮するという点において「マリア・ストゥアルダ」が上回っている。エリザベス1世とメアリー・スチュアートの確執の物語。ケイト・ブランシェットが主演した映画「エリザベス」とか中谷美紀が主演した舞台「メアリー・スチュアート」、クンツェ&リーヴァイによるミュージカル「レディ・ベス」など繰り返し取り上げられている題材である。輝かしい旋律美に乾杯!推薦ソフトはミラノ・スカラ座の公演。また「ランメルモールのルチア」に関しては、美貌のソプラノ、ステファニア・ボンファデッリがタイトルロールを務めたカルロ・フェリーチェ劇場の公演を収めたDVDが素晴らしい。特に青を基調とした衣装と美術装置は見応えがあり、空間の切り取り方が斬新。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」(1890年初演)は「道化師」と並び、ヴェリズモ・オペラの代表作である。同時代のヴェリズモ文学(自然主義、現実主義)に刺激を受け、市井の人々の日常生活や暴力衝動を描く1890年代から20世紀初頭にかけてのイタリア・オペラの新傾向のことを指す。上演時間70分とオペラにしては極めて短い!そしてイタリア・オペラの真髄がこれ1本で理解出来る。だから初心者向けと言えるだろう。僕はイタリア・オペラの特徴を「激しい嫉妬/復讐心が物語を転がしていく原動力になっている」ことだと考えている。プッチーニの「トスカ」やヴェルディの「椿姫」「アイーダ」「イル・トロヴァトーレ」「オテロ」なんか、みんなそう。「カヴァレリア・ルスティカーナ」も例外ではない。もうドロドロ。そこが魅力。あとその多くはカソリック教徒で信心深いとか、男は概ねマザコンであるとかイタリア人の特徴がこのオペラによく出ている。映像はカラヤン/スカラ座がお勧め。また宍倉晃による吹奏楽編曲版があり、大滝実/埼玉栄高等学校が全国大会金賞受賞。さらに中国映画「太陽の少年」でこのオペラの間奏曲が非常に印象的に使われていることも付記しておく。

「オルフェオ」は1607年、マントヴァ@イタリアで初演。最初期の作品の一つである。モンテヴェルディはルネサンス音楽からバロック音楽への転換点に立つ音楽家である。素朴で、これぞオペラの原点!映像では古楽界の巨匠、ジョルディ・サヴァールが指揮した2002年リセウ大歌劇場で収録されたDVDを推す。なんとも古式ゆかしい雰囲気で、指揮者も演奏家たちもまるで17世紀の宮廷楽士のような扮装をしている。当然ピリオド・アプローチ(古楽奏法)。さあ、モンテヴェルディの時代にタイム・スリップだ。

「ポーギーとベス」は1935年初演。アメリカを代表するオペラである。ガーシュウィンはその2年後に脳腫瘍で亡くなった。享年38歳。ジャズや黒人音楽のイディオムが用いられている。ほぼ全員、登場人物が黒人というのもユニーク。本作以降、アメリカには優れたオペラがないが、その代わりブロードウェイ・ミュージカルが華々しく咲き誇ることになる(ミュージカルについてはこちらの記事で大いに語った)。ソフトはサイモン・ラトルが指揮したDVDにとどめを刺す。演出は「キャッツ」や「レ・ミゼラブル」で知られるトレヴァー・ナン。吹奏楽コンクールでは1964年全国大会職場の部でソニー吹奏楽団が1位になっている。また最近「アルヴァマー序曲」で有名なジェームズ・バーンズによる編曲が出版された(グレード:4)。

「こどもと魔法」は可愛らしくユーモラスで、機知に富んだファンタスティックなオペラ。上演時間45分程度と非常に短く、同じラヴェルの「スペインの時」と同時上演されることが多い。終盤でワルツが登場するのが魅惑的。小澤征爾/サイトウ・キネン・フェスティバル松本でのパフォーマンスを収めたCDが2016年にグラミー賞を受賞したことでも話題となった。推奨する映像は大野和士が指揮したグラインドボーン音楽祭@2012のもの。演出はロラン・ペリーで実はサイトウ・キネン・フェスティバル松本との共同制作であった。

「ペレアスとメリザンド」はメーテルリンクが書いた戯曲だが、これを題材にした作品はドビュッシーのオペラ(1902年初演)の他にフォーレの劇付随音楽(1898)、シェーンベルクの交響詩(1903)、シベリウスの劇付随音楽(1905)がある。これだけ後世の作曲家に影響を与えた戯曲としてはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」くらいしか思い浮ばない(ベッリーニとグノーのオペラ、ベルリオーズの劇的交響曲とチャイコフスキーの幻想序曲、プロコフィエフのバレエ、バーンスタインの「ウエストサイド物語」とプレスギュルヴィックによるフランス産ミュージカルがある)。あと文学作品ではゲーテの「ファウスト」。詳細は下記記事をご覧あれ。

ドビュッシーは下半身がだらしない人だった。18歳で人妻と不倫。次にガブリエル・デュポンと同棲するが浮気がバレてデュポンはピストルで自殺未遂を起こす。デュポンと別れリリー・テクシエと結婚するが、またまた銀行家の妻エンマ・バルダックと不倫して駆け落ち、妻リリーは自殺未遂。エンマは娘を産み、ふたりは再婚することになるが、これが一大スキャンダルとなり彼は世間からの激しい非難に曝されることになる。そうしたドビュッシーの《恋愛観》が、「ペレアスとメリザンド」への創作意欲を掻き立てたという側面は多分にあるだろう。だから彼の音楽はヤナーチェク同様、色気があるのだ。因みにガブリエル・フォーレが作曲した組曲「ドリー」はエンマ・バルダックが前夫との間にもうけた娘エレーヌ(愛称ドリー)のために書かれた。フォーレとエンマはどうも愛人関係だったらしく、エレーヌもフォーレの子ではないかという説が有力である。一方、ドビュッシーはエンマとの間に生まれた娘をシュシュ(キャベツちゃん)と呼んで溺愛し、その娘のために組曲「子供の領分」を作曲した。一人の女を《共有》した、二人の大作曲家。なんともはや、凄まじい話である。

「地獄のオルフェ」って耳にしたとこがないけど?という貴方、日本では「天国と地獄」という俗称でも親しまれております。「椿姫」と似ていますな。モンテヴェルディ「オルフェオ」と同じギリシャ神話に基づくパロディ。この物語をオペラ化した作品として他に、グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」がよく知られている。1949年に詩人で映画監督のジャン・コクトーは「オルフェ」を撮り、1959年にマルセル・カミュ監督は出演者が全員黒人の「黒いオルフェ」を撮った。オッフェンバックやコクトー、カミュもフランス人というところが興味深い。兎に角、愉しいオペレッタだ。粋で洒落ている。映像はミンコフスキが指揮したものに尽きる。芸達者なナタリー・デセイに酔い痴れたまえ。吹奏楽コンクールでは葛飾吹奏楽団とヤマハ吹奏楽団がこの曲で全国大会金賞を受賞している。また吹奏楽アニメ「響け!ユーフォニアム」にも登場。

「三文オペラ」は文字通りオペラなのか?というのは興味深い問題である。1928年、ベルリンのシッフバウアーダム劇場こけら落とし公演として初演された。「ばらの騎士」より11年後ということになる。音楽劇であるが、少なくともミュージカルではない。ストレート・プレイでもない。オペラ/オペレッタからミュージカルへの橋渡しをした、新しいジャンルを切り開いた作品という評価こそ相応しいだろう。後に「退廃芸術」の烙印を押され、ナチス・ドイツからの執拗な上演妨害工作を経て、ユダヤ人だったクルト・ヴァイルはアメリカに渡ってブロードウェイ・ミュージカルの作曲家となり、マルクス主義者だった劇作家ベルトルト・ブレヒトはデンマーク、スウェーデン、アメリカと転々としながら亡命生活を送り(ハリウッドではフリッツ・ラング監督の映画「死刑執行人もまた死す」の脚本を執筆)、戦後は吹き荒れる赤狩りの嵐を逃れて東ドイツに亡命した(ここでスターリン平和賞を受賞)。ちなみに1933年にナチス・ドイツ政府はブレヒトの著作の刊行を禁止し、焚書の対象にした。ブロードウェイ・ミュージカル「キャバレー」は正に「三文オペラ」が初演された当時のベルリンの雰囲気を再現することを目的に創作されており、冒頭の歌”ウィルコメン(ようこそ)”は「三文オペラ」の”マック・ザ・ナイフ”と似た曲調で始まる。なお「キャバレー」のオリジナルキャストで下宿屋の主人シュナイダーを演じたのはロッテ・レーニャ、クルト・ヴァイルの未亡人である。「三文オペラ」には良い映像ソフトがないのでウテ・レンパー、ルネ・コロ、ミルバらが歌ったCDを推薦する。また作曲家自身の手による組曲「小さな三文音楽」があり、弦楽器を含まない管楽器中心の編成である事から、吹奏楽に向いている。

ヴォツェック」は新ウィーン楽派、無調音楽を代表するオペラである。初演は1925年。指揮したエーリヒ・クライバーが137回のリハーサルを敢行したことは今でも語り草になっている。「死の都」20年、「利口な女狐の物語」24年、「三文オペラ」28年初演なので、同時代の作品といえるだろう。エーリヒの息子カルロス・クライバーもしばしばこのオペラを取り上げた。正規レコーディングがないのが惜しまれる。カルロスの本当の父親は「ヴォツェック」を作曲したアルバン・ベルクだという噂が、未だにまことしやかに囁かれている(彼の伝記でも言及されている)。ちなみにベルクの「抒情組曲」は不倫音楽であったことが現在では判明している(詳しくは→こちら)。「ヴォツェック」は1時間40分の上演時間中、悪夢と狂気の中を彷徨うようなヒリヒリする体験を観客に強いる。救いはない。ある意味オペラ版「レ・ミゼラブル」とも言えるが、最後に希望の光が差す分、「レ・ミゼ」の方がマシかもしれない。あとベルクが第2幕まで作曲したところで亡くなり、未完に終わった「ルル」はヒロインが途轍もないファム・ファタールで、すこぶる面白い。第3幕は後年、他者の補筆で完成した。こちらもお勧め!

「ドン・ジョヴァンニ」に殺された騎士長(ドンナ・アンナの父)の石像が彼を地獄に引きずり落とす場面はモーツァルトの作品中、最も劇的な音楽である。映画「アマデウス」では死んだモーツァルトの父親像に重ねられた。ドン・ジョヴァンニは女たらしだが、必ずしも悪党として切り捨てられない魅力を湛えている。騎士長の亡霊が「悔い改めよ!」と迫っても、「私は何も悪いことをしていない」と決して非を認めない態度が凄く格好いい。モーツァルトはフリーメイソンの会員であり、キリスト教(カトリック教会)的価値観に対する反骨精神をここに感じるのはあながち見当外れではないだろう。

「メフィストフェーレ」はヴェルディ「シモン・ボッカネグラ(改訂)」「オテロ」「ファルスタッフ」の台本を手がけたアッリーゴ・ボイートが台本&作曲したオペラ。1868年(26歳の時)ミラノ・スカラ座での初演は歴史的な大失敗で、その後76年と81年の2度に渡る大改訂を経て現在の形となった。ゲーテ「ファウスト」を原作に、メフィストフェレスを主人公に持ってきている。

「セビリアの理髪師」を観ても、どうもロッシーニの面白さが判らなかったが、「湖上の美人」で初めて開眼した。ベルカント・オペラの魅力炸裂である。テノールの2人がハイ・Cを連発する超絶技巧の応酬、歌合戦が実にスリリング。ロッシーニ・ルネサンスの白眉と言える作品。なんとMET初演だった2015年のプロダクションが素晴らしい。ジョイス・ディドナート、ファン・ディエゴ・フローレス、ジョン・オズボーン、ダニエラ・バルチェッローナら歌手陣の充実ぶりが圧巻。

お子さん向けにはフンパーディングのメルヘンオペラ「ヘンゼルとグレーテル」をどうぞ。フンパーディングはワーグナーと交流があり、ライトモティーフ(示導動機)の手法も用いられている。ヨーロッパではクリスマスの定番で、家族で揃って観に行く習慣がある。吹奏楽コンクールでは井田重芳/東海大学付属第四高等学校がこのオペラから「夕べの祈り」「パントマイム」を演奏し、全国大会金賞を受賞している。

「海、静かな海」は2016年にドイツで初演されたばかりの最新作。東日本大震災と福島原発事故をモティーフにしたレクイエム(鎮魂歌)である。細川俊夫の音楽はひたすらに静謐で美しい。海が主題になっている点でも武満徹に近いなと感じて調べてみたら、細川が高校生の時、小澤征爾が指揮する「ノヴェンバー・ステップス」のレコードを聴いて武満に憧れるようになったという。「海、静かな海」はまた、能「隅田川」と深い関連にあるが、「隅田川」に触発されてブリテンはオペラ「カーリュー・リヴァー」を作曲している。両者を聴き比べてみるのも一興だろう。 

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コメント

はじめまして。
「カヴァレリア・ルスティカーナ」「埼玉栄」で検索しておりましたら、こちらにたどり着きました。
吹部所属の娘(中3)の今年の自由曲がカヴァレリアで・・。
顧問の先生に、
「オペラも観て、曲のイメージをしっかり膨らませなさい!」
と言われたそうなので、おすすめのカラヤンを早速娘と観たいと思います。
吹奏楽カテゴリーを覗いておりましたら、ジュビラーテ等の懐かしい曲目が目白押し。
汗で楽器が滑った、コンクール一直線の中学時代を思い出しました。

投稿: 春の猟犬 | 2016年6月 1日 (水) 12時25分

春の猟犬さん、コメントありがとうございます。ハンドル名はアルフレッド・リード由来ですね。

拙ブログがお役に立てれば幸いです。イメージを膨らませるには是非、中国映画「太陽の少年」の方も御覧ください(多分顧問の先生もご存じない筈)。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」はそれほど難易度が高くないので、コンクールで評価されるためにはしっかりと歌い、ピッチを合わせることがとても大切だと想います。お嬢さんのご健闘をお祈りしております。

投稿: 雅哉 | 2016年6月 1日 (水) 13時07分

「三文オペラ」を「オペラ」として取り上げるのはちょっと無理があります。僕は芝居として、とオペラとしてとして両方見たことがります。芝居の方はとても面白かった。世田谷パブリックシアターの制作で、この公演の為に新しく翻訳しなおした台本を使っていました。大谷亮介、銀粉蝶など芸達者が一杯出演していて、メッキーは吉田栄作でしたが、彼が一番下手で単なる「人寄せパンダ」でした。ただ、歌の出来はあまり良くない。歌だけなら抜群に良かったのはびわ湖ホール公演です。声楽アンサンブルが中心になってオペラとして上演されたのですが、まぁ、八百屋の店先に来たような感じ、そう、「大根大安売り」でした。ただ、楽しいフィナーレが着いていたので許せました。これが無かったら「税金泥棒」と叫んでいたところ。
これは「歌入り芝居」なんです。

投稿: 最後のダンス | 2016年8月 6日 (土) 10時14分

最後のダンスさん、僕は「無理がある」とは全く思いません。例えば交響曲の定義は何でしょうか?複数楽章を有し、第1楽章がソナタ形式の管弦楽曲?それは違います。単一楽章の交響曲もあればソナタ形式を欠く交響曲もある(例えばシベリウスの第7番)。つまり、作曲家が「これは交響曲だ」と言えばそれが交響曲なのです。ですから「三文オペラ」も作者がオペラと名付けているのだから、紛れもないオペラです。「歌入り芝居」といえばミュージカルもそうですよね。だからこの作品はミュージカルとも明確に区別出来ません。そのボーダレスなところが魅力の一つでもあるのです。

投稿: 雅哉 | 2016年8月 9日 (火) 13時46分

面白い記述を見つけました。ちょっとミュンヘンのStaatstheater am Gaertnerplatz と言う劇場について調べていました。ここで「三文オペラ」が上演されると言う予定がアップされていました。その扱いが、ドイツ語では、Ein Stueck mit Musik (音楽付き作品)、英語版では a play with music になってました。つまり、「オペラ」にするか「芝居」にするかはやり方次第、と言う事でしょうね。

これ、べつにupしていただかなくても結構です。ちょっと面白い物を見つけたから、お知らせしたくなっただけです。

投稿: 最後のダンス | 2016年8月22日 (月) 00時22分

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