ブリッジ・オブ・スパイ
評価:A
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細かいこと言うようだけれど、原題は"Bridge of Spies"。スパイ交換のお話だから当然複数形なのである。どうして邦題は単数なの?馬鹿じゃない?原題を尊重するのなら「ブリッジ・オブ・スパイズ」にするべきだし、スパイズが日本語として判り辛いというのなら「スパイの架け橋」「スパイたちに架ける橋」など日本語らしくする努力をすべきである。同じスピルバーグ映画のSaving Private Ryan(ライアン一等兵の救出)→「プライベート・ライアン」の悪夢を想い出した。意味不明。
スティーヴン・スピルバーグという人はスタッフを頑なに変えない監督である。例えば編集を担当しているマイケル・カーンとは「未知との遭遇」(1977)以降、ずーっと一緒に仕事をしている(「レイダーズ/失われた聖櫃」「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」でアカデミー編集賞受賞)。撮影監督は初期に試行錯誤があったが、「シンドラーのリスト」(1993)でポーランド出身のヤヌス・カミンスキーと出会い、漸く固定された(「シンドラー」と「プライベート・ライアン」でアカデミー撮影賞受賞)。そして一番付き合いが長いのがジョン・ウィリアムズで、これは劇映画デビュー作「続・激突!カージャック」(1974)からである(「ジョーズ」「E.T.」「シンドラー」でアカデミー作曲賞受賞)。ジョンが音楽を担当しなかったのはオムニバス映画「トワイライトゾーン/異次元の体験」とクインシー・ジョーンズがプロデューサを兼ねた「カラーパープル」の2作品だけ。ところが今回、久しぶりにジョンがスピルバーグ組から外れた。高齢(83歳)であることと、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」と重なった為である。代わりにトーマス・ニューマンが担当した。いや、悪くはないんだけれど、やはりジョンで聴きたかったな。
本作を観て感じたのは、テーマが「リンカーン」(2012)の続きなのだなということ。つまりアメリカ合衆国憲法の精神とは何か?ということを問い質しているのだ。またトム・ハンクス演じる弁護士ジェームズ・ドノバンの姿が「アラバマ物語」(1962)におけるグレゴリー・ペックの勇姿にピッタリ重なった。「アラバマ物語」の原作はピューリッツァー賞を受賞。主人公のアティカス・フィンチは人種偏見が根強いアメリカ南部で白人女性への暴行容疑で逮捕された黒人青年の弁護を引き受ける。冷戦下のアメリカでソ連のスパイを弁護するドノバンと状況が似ている。つまり両者は何事にも屈しない《信念の人》が描かれているのである。2008年アメリカ映画協会(AFI)は映画史上最も偉大な法廷ドラマの第1位に「アラバマ物語」を選出した。アティカス・フィンチは「アメリカの良心」であり、「理想の父親」なのだ。スピルバーグや脚本を書いたコーエン兄弟が本作で狙ったのはアティカス・フィンチの再現だったのではないだろうか?そしてその目論見は見事に成功した。
ソ連のスパイ役を演じアカデミー助演男優賞にノミネートされたマーク・ライランスが素晴らしい。彼の口癖"Would it help?"(「怖くないか?」とトム・ハンクスに尋ねられ、「それがなにか役に立つのか?」と答える)がすごく印象に残った。
あとスピルバーグは宮﨑駿と同じく戦闘機フェチだから(「1941」ではコックピットでしか燃えない女が登場。また「太陽の帝国」で零戦を見つめる少年の瞳を見よ!)、やっぱりU-2偵察機が登場すると盛り上がるね!「リンカーン」に欠けていたのはこの高揚感だ。
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