イザベル・ファウスト/無伴奏ヴァイオリン・リサイタル
1月13日(木)京都・青山音楽記念館バロックザールへ。
イザベル・ファウストのヴァイオリンで、オール J.S.バッハ・プログラム。
- 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番
- 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第1番
- 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番
- 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第3番よりラルゴ(アンコール)
このホールは初めて訪れたのだが、とても小さくて驚いた。横20席×10列=たった200席!兵庫県立芸術文化センター小ホールが417席だから半分以下。ザ・フェニックスホール@大阪市が301席である。なんという贅沢な空間だろう!勿論、満席。
ファウストの使用楽器は1704年製のストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティ」。これをバロック・ボウ(弓)で弾く。モダン・ボウより短く、ボウイング(運弓)も変わってくる。勿論、ヴィブラートを抑えたピリオド奏法である。
ちなみに現代ではバッハをピリオド・アプローチで弾くのは常識になっている。例えば名盤として名高いギドン・クレーメルがソナタ&パルティータ全曲をフィリップスに録音した1980年の旧盤はふつーにヴィブラートをかけていたが、20年後の2001-2年に録音したECMの新盤ではヴィブラートは極力抑制されている。完全にスタイルが違う。
昨年は五嶋みどりが弾く禁欲的なソナタ&パルティータのCDが発売されたが、これもほぼノン・ヴィブラートだった。彼女はライナーノーツの中で「何年にもわたって、私はバロックスタイルの奏法に惹かれてきました」と書いている。
さて、ファウストの演奏はしなやかで気品に満ちていた。装飾的に用いられる繊細なヴィブラートは「かそけき(幽かな)」雰囲気。緩-急-緩-急で構成されるソナタの「急」の楽章は軽やかで、肩の力が抜けた印象。クレーメルの「激しく」「厳しい」演奏に対してファウストは「孤高」。女性らしいしっとりとした潤いがあり、音楽の息吹が感じられた。
僕が五嶋みどりのCDから受けた印象は「諦念」と「寂寞」だった。それは尼僧のイメージに繋がり、例えば藤沢周平の小説「蝉しぐれ」で最後に出家するヒロイン・お福とか、佐々木守(脚本)・実相寺昭雄(監督)の「怪奇大作戦 京都買います」に登場する《仏像を愛した女》美弥子、あるいは瀬戸内寂聴のことを想起させた。一方、ファウストのバッハはむしろ《バージン・クイーン》エリザベス1世のような芯の強さがあった。「パルティータ 第2番」クライマックスのシャコンヌはまるで急流下りのよう。どんどん風景が変わっていって、一気呵成に終止符に到達する。その後長い、水を打ったような沈黙が会場を包む。聴衆は彼女が弓を下ろすまで固唾を呑んで見守った。
クレーメル、ファウスト、五嶋みどり。三者三様で全く性質の異なる音楽を創り出しているのだが、いずれも紛れもなくバッハであり、掛け替えのない未来への遺産である。ぜひ聴き比べてみてください。
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