« 「RENT」のアダム・パスカルも参加!〜フランク・ワイルドホーン & フレンズ | トップページ | 2015年 映画ベスト48 »

ルーティンワークを打ち破る、革命的ベートーヴェン第九〜上岡敏之/読響

12月26日(土)ザ・シンフォニーホールへ。上岡敏之/読売日本交響楽団による大阪定期演奏会を聴く。

  • ベートーヴェン:交響曲 第9番「合唱付き」

これは日本独自の風習なのだが、年末になると世間は第九で溢れる。オーケストラにとっても稼ぎどきである。例えば読響は今月だけでも7回第九の本番がある。楽員にとっては来る日も来る日も第九ばかりで食傷気味だろうし、ルーティンワーク/マンネリに陥ることは避けがたい。

コンパクトディスク(CD)はソニーとフィリップスにより共同開発された。CD初期の最大収録時間(74分42秒)を決めるに際し、当時ソニーの副社長だった大賀典雄氏は親交があったヘルベルト・フォン・カラヤンに相談した。カラヤンの答えは「ベートーヴェンの第九が1枚に収まったほうがいい」だった。カラヤンの演奏が65分前後、フルトヴェングラーが指揮する「バイロイトの第九」が74分32秒、ベームやバーンスタインの演奏も大体それくらいだった(ベーム最後の録音が79分)。

さて、自筆譜を徹底的に研究したという上岡/読響の演奏は開始されてから終了までなんと1時間を切る、58分程度。歌手の出入りなど楽章間のロスタイムを考えると実質的演奏時間は55分弱だった!「バイロイトの第九」より20分短い

ちなみに上岡がヴッパータール交響楽団を指揮したブルックナー:交響曲第7番のCDは演奏時間が90分で史上最長である。チェリビダッケが79分、カラヤン/ウィーン・フィルが66分、オーマンディに至っては55分(上岡より35分短い)。だから今回の第九も90分位を覚悟していたのだが、その真逆だった!とある業界関係者が彼のことを(いい意味で)「変」と評しておられたが、言い得て妙である。全く予断を許さない指揮者だ。

古典的対向配置ではなく通常配置。第1楽章は滑らかな軽みで開始される。しかし展開部に移行すると渦を巻くような熱狂に呑み込まれる。上岡は下に叩きつけるような棒さばき。スタイリッシュで無駄がない。僕は「もしカルロス・クライバーが第九を指揮していたら、こんな感じだったのでは?」と想った。

第2楽章スケルツォは猛烈なテンポ。上岡の指揮ぶりは農作物(小麦とか)をザッ、ザッと刈り取っていくよう。それは鎌を持った死神のイメージにも繋がる。一転して柔らかい中間部との対比が鮮烈。また最後の音をフッと抜く解釈が新鮮だった。

第3楽章はアンダンテ。一貫して速めだが、ちゃんとビロードの肌触りがあり、天国的。

第4楽章は力むように手綱を締める場面と、緩める場面とが交差し躍動感溢れる。音楽は決して弛緩しない。そしてどんどんテンポが早まり再び熱狂へ。終盤にさしかかり二重フーガ直前に来るとそれまで普通にヴィブラートをかけていた弦がノン・ヴィブラートに。突如古楽のような響きとなり、僕はそこに神の声を聴いた。そしてクライマックスのPrestissimo(Presto)。この楽章の最後について上岡はインタビュー記事で「収拾がつかないほどの狂騒状態」「音楽は大混乱のまま終わる」と語っているが、まるで宇宙の大爆発=ビッグバンみたいだと度肝を抜かれた。

つい先日引退を表明したニコラウス・アーノンクールが古楽で培ったノウハウを引っ提げてロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団などモダン・オーケストラに殴り込みをかけたのが1980年代初頭、あれから30余年が経過した。その間、指揮者たちとオケの楽員たちは「カラヤン・ベーム・バーンスタイン時代のオーソドックスな演奏」に固執するのか(守旧派)、「ピリオド・アプローチ(古楽奏法)」による新しい波に乗るのか(革新派)、激しい闘争や抵抗、摩擦が展開され、百花繚乱の時代であったと言えるだろう。しかし今回の上岡/読響の演奏を聴くと、最早事態は「ピリオド・アプローチを採用するか否か」という2元論で語れるようなものではなく、次の段階に足を踏み入れたのだということが実感として判った。新な価値観、地平を目指して彼らは高らかに飛翔する。それを我々もしっかりとこの眼で見届けたい。史上最速・最高の第九だった。

|
|

« 「RENT」のアダム・パスカルも参加!〜フランク・ワイルドホーン & フレンズ | トップページ | 2015年 映画ベスト48 »

クラシックの悦楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/212850/62953383

この記事へのトラックバック一覧です: ルーティンワークを打ち破る、革命的ベートーヴェン第九〜上岡敏之/読響:

« 「RENT」のアダム・パスカルも参加!〜フランク・ワイルドホーン & フレンズ | トップページ | 2015年 映画ベスト48 »