井上道義/大フィルのレニングラード
11月27日(金)フェスティバルホールへ。
井上道義/大阪フィルハーモニー交響楽団で
- ベートーヴェン:序曲「コリオラン」
- ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」
僕がクラシック音楽に親しみ始めたのは小学生の頃である。しかし当初、ショスタコーヴィチは退屈だった。ユニゾンの多用も稚拙(単純)なオーケストレーションだと想った。僕にとって20世紀最高の作曲家はジョン・ウィリアムズだと信じて疑わなかったし、それは今でも些かも変わりない(「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」でジョンが6度目のアカデミー賞に輝きますように。May the Force be with him !)。
しかし後にオペラ「ムツェンクス郡のマクベス夫人」でスターリンを激怒させ、以降ソビエト共産党政府と戦い続けたショスタコの生き様を知り、次第に彼の音楽に対する見方は変化していった。
一筋縄ではいかない作曲家である。芯の部分にソビエト政府への批判があるのだが、それが表面に出ると命の危険があるのでバレないように徹底的な擬装をしている。だから分かり辛い。上っ面を漫然と聴いていただけでは絶対に真理に到達出来ない。その特徴は「アイロニー(皮肉)」「パロディ精神」「虚無感」に集約されるだろう。実にひねくれ、屈折している。
「レニングラード」第1楽章半ばから登場する軍楽隊の行進はレハールのオペレッタ「メリー・ウィドウ」のパロディである。「メリー・ウィドウ」を愛したヒトラーをおちょくっているのだ。さらにラヴェル「ボレロ」のパロディにもなっている。単純なメロディの繰り返し、それが次第に大音響になることで「ナチス・ドイツは単細胞のアホ!」と哄笑している。
表面的に見ればこのシンフォニーはヒトラーのソ連への侵略、レニングラードでの攻防戦、そしてソ連の勝利を描いている。しかし、それに留まる作曲家であろうはずがない。
ベートーヴェンは変ホ長調の「英雄」交響曲でナポレオンを描き、皇帝になった彼に対する幻滅の想いを平行調のハ短調で序曲「コリオラン」に託した。民衆の英雄は権力を手に入れるやいなや豹変し、独裁者となる。「レニングラード」のドイツ軍も変ホ長調として登場し、終楽章はハ短調となる。これはヒトラーだけではなく、ソ連のレーニンやスターリンの姿をも暗示している。多層的で奥が深いのだ。
ミッキー率いる大フィルは大健闘。クラシカル・ティンパニが使用され、猛烈なテンポで荒れ狂うような激しい「コリオラン」、そして「レニングラード」では暴力的な第1楽章から、何かに駆り立てられるかのような焦燥感に満ちた終楽章まで、万全の演奏であった。
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