シリーズ《映画音楽の巨匠たち》第5回/知られざるジョン・ウィリアムズの世界
過去のシリーズは下記。
さて「スター・ウォーズ エピソード7 フォースの覚醒」公開を記念して、皆さんお待ちかね、満を持してのジョン・ウィリアムズ登場である。紛れもなく20世紀最高の作曲家。彼の成し遂げた偉業に比べれば、ストラヴィンスキーやラヴェル、バルトーク、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフなど足元にも及ばない。
しかしここで「スター・ウォーズ」「スーパーマン」「ハリー・ポッター」など誰でも知っている名曲を取り上げても仕方がない。故にこうしたSF・ファンタジー分野のブロックバスター超大作、さらに「ジョーズ」「未知との遭遇」「E.T.」「ジュラシック・パーク」などスティーヴン・スピルバーグ監督の全作品を除外し、知られざる作品群にスポットライトを当てることにした。僕が好きな順ではなく、公開年順に推したい作品を並べている。ディープな世界へようこそ。
- おしゃれ泥棒(1966)ジョニー・ウィリアムズ名義
- 華麗なる週末(1969)
- ジェーン・エア(1970)
- 屋根の上のヴァイオリン弾き(1971)
- 11人のカウボーイ(1971)
- タワーリング・インフェルノ(1974)
- フューリー(1978)
- ドラキュラ(1979)
- イエス、ジョルジョ(1982)
- イーストウィックの魔女たち(1987)
- ホーム・アローン(1990)
- 遥かなる大地へ(1992)
- サブリナ(1995)
- セブン・イヤーズ・イン・チベット(1997)
- SAYURI(2005)
- やさしい本泥棒(2013)
因みにジョンの父ジョニー・ウィリアムズはジャズ奏者でレイモンド・スコット・クインテットでドラム&パーカッションを担当していた。また息子のジョセフ・ウィリアムズはロック・バンド TOTOのヴォーカリスト(謙、作曲家)である。
「おしゃれ泥棒」 今では想像がつかないだろうが、1960年代のジョンのスタイルはお洒落で都会的、ヘンリー・マンシーニ(ピンク・パンサー、ムーン・リヴァー)のタッチに近かった。マンシーニが音楽を担当した「ピーター・ガン」(1958)のサントラにはピアニストとして参加している。その頃の代表作がオードリー・ヘップバーン主演の「おしゃれ泥棒」。軽やかで粋だね!ウキウキする。
「華麗なる週末」 スティーブ・マックイーン主演。現在に繋がるシンフォニックなスタイルを確立しつつある時期の作品。曲調としては”アメリカ音楽の祖”アーロン・コープランド(ロデオ、アパラチアの春)に近い。スピルバーグは映画監督デビュー作「続・激突!/カージャック」(1974)からジョンと組んでいるが、「華麗なる週末」や「11人のカウボーイ」の音楽をスティーヴンが気に入っていたことが二人の出会いの切っ掛けとなった。最初彼は音楽の印象からすごいお爺ちゃん作曲家なのだろうと想像していた。ところが現れたジョンが若かったので驚いたという。当時ジョンが41歳、スティーヴンは27歳だった。「華麗なる週末」は後にジョン自身がボストン・ポップスのためにアレンジし、録音している。アカデミー作曲賞ノミネート(これが自身初)。なお、「スター・ウォーズ」の作曲家を探していたジョージ・ルーカスにジョンを紹介したのはスティーヴンである。
「ジェーン・エア」 テレビ映画。これもボストン・ポップスのためにアレンジされた組曲がある。たおやかで美しく、僕は凄くケルト的な音楽だなと感じる。ムーア(荒野)が見渡す限り何処までも続いている風景が目に浮かぶ。そういう意味で後に作曲された「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」に繋がっている。あとジョンが音楽を担当したテレビ映画でお勧めなのが「アルプスの少女ハイジ」(1968)。
「屋根の上のヴァイオリン弾き」 ブロードウェイ・ミュージカルの映画化で、舞台版の作曲はジェリー・ボック。ジョンは本作でアカデミー編曲賞を受賞した。冒頭のクレジット・タイトルで演奏されるヴァイオリン協奏曲は映画オリジナルであり、これが素晴らしい。ユダヤ・テイストたっぷりで、後の「シンドラーのリスト」に繋がってゆく。映画で弾いたのがユダヤ人ヴァイオリニスト、アイザック・スターン。ジョンはボストン・ポップスともレコーディングしている。因みに「シンドラーのリスト」のサントラはヴァイオリン・ソロをイツァーク・パールマンが弾いた。
「11人のカウボーイ」 ジョン・ウエイン主演。ジョン・ウィリアムズ流西部劇の音楽。やはりコープランド風である。ボストン・ポップスとのレコーディングあり。冒頭のホルンの咆哮がめっちゃ格好いい!!実はこれ、吹奏楽の世界でも人気があり、全日本マーチングコンテストでも演奏されている。→こちら!
「タワーリング・インフェルノ」 1970年代のジョンはパニック映画(Disaster Movie)の巨匠として名を馳せ、「ポセイドン・アドベンチャー」や「大地震」など一手に引き受けた(「ジョーズ」だっていわばパニック映画だ)。その代表作が「タワーリング・インフェルノ」。映画冒頭、上昇するヘリコプターの背後で低弦が「ダーン、ダダダッ、ダダダ。ダーン、ダダダッ、ダダダ」とリズムを刻み始めるだけで否が応でも期待と興奮が高まるのだ。アカデミー作曲賞ノミネート。
「フューリー」 カーク・ダグラス主演でブライアン・デ・パルマ監督の超能力(念力)映画。2014年に公開されたブラピ主演の同名映画もあるのでお間違いなく。ここでのジョンはスリラー/サスペンス・タッチでアルフレッド・ヒッチコックと組んでいたバーナード・ハーマンを模したスタイルに徹している。「スター・ウォーズ」「スーパーマン」同様、サントラの演奏を名門ロンドン交響楽団が担当している。因みにデ・パルマとハーマンは「悪魔のシスター」「愛のメモリー」で2度組んでいる。「フューリー」が製作された時、ハーマンは既に故人だった。
「ドラキュラ」 何と言っても「ドラキュラ 愛のテーマ」が好きだ!耽美的で濃密な浪漫の香りが漂う。こちらもロンドン交響楽団が演奏。
「イエス、ジョルジョ」 日本未公開。なんと「3大テノール」ルチアーノ・パヴァロッティが主演!映画でもテノール歌手役だ(当然、演技は拙い)。アカデミー歌曲賞にノミネートされた主題歌 "If We Were In Love" がとっても甘く美しくて素敵。パバロッティがイタリア訛りの英語で歌っている。このサントラ、日本でもLPレコードが発売され、僕も持っていた。海外ではCDが発売されたようだが既に廃盤。ただし映画の北米版DVDは現在でも入手可能。僕も所有している。
「イーストウィックの魔女たち」 アカデミー作曲賞にノミネート。監督は「マッドマックス」で話題沸騰のジョージ・ミラー。ちょっとユーモラスな悪魔の音楽である。後にヴァイオリンとピアノのための独奏曲に編曲され、イスラエル出身の名ヴァイオリニスト、ギル・シャハムが「悪魔のダンス」というアルバムに収録している。→こちら!
「ホーム・アローン」 アカデミー賞で作曲賞及び、主題歌 "Somewhere in My Memory"が歌曲賞にノミネート。至福のクリスマス音楽。愛らしい "Somewhere in My Memory" や "Star of Bethlehem" などの歌が僕はダ・イ・ス・キ・ダー!何だかほっこりした気持ちになれる。
「遥かなる大地へ」 当時夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンが共演。アイルランドから米国に渡った移民の物語。「風と共に去りぬ」の前日譚(スカーレット・オハラの両親の物語)でもある。クライマックスとなるランド・ラン(土地獲得レース)は1931年にアカデミー作品賞を受賞した「シマロン」の再現だ。ジョンの音楽はアイリッシュ・テイスト満載でアイルランドのバンド「ザ・チーフタンズ」もフィーチャーされている。因みに主題歌はやはりアイルランド出身のエンヤが作詞・作曲している。余談だがジェームズ・キャメロンは「タイタニック」の音楽をまずジョン・ウィリアムズに、次にエンヤに依頼してどちらからも断られているのだが、キャメロンには本作のイメージがあったのではないだろうか?(最終的にジェームズ・ホーナーが「要するにエンヤもどきの曲を書けばいいんだろ?」と引き受け、アカデミー作曲賞・歌曲賞を受賞した。)吹奏楽用にも編曲され、なにわ《オーケストラル》ウィンズが演奏したCDがある。
「サブリナ」 アカデミー作曲賞及び歌曲賞にノミネート。まるでピアノ協奏曲みたいな、なんともロマンティックで可憐な楽曲。
「セブン・イヤーズ・イン・チベット」 ヨーヨー・マを独奏者に迎えた、チェロ協奏曲仕様である。記事「決定版!チェロの名曲・名盤 20選」をご参照あれ。
「SAYURI」 アカデミー作曲賞にノミネート。「シンドラーのリスト」のイツァーク・パールマンと「セブン・イヤーズ・イン・チベット」のヨーヨー・マを迎えた、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲になっている。琴や尺八も登場し、日本風味なのが新鮮。
「やさしい本泥棒」 日本未公開。アカデミー作曲賞にノミネート。静謐な叙情。詳しくはこちらに書いた。
番外編として、スピルバーグとのコラボレーションから1作品だけご紹介しよう。レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスが共演した「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」。ジョンとしては珍しく、サクソフォンが主役のJAZZYな音楽である。ある意味、「おしゃれ泥棒」時代のスタイルに帰還したと言えるだろう。この映画からアルト・サクソフォンとオーケストラのための「エスカペイズ Escapades」という独立した楽曲が生まれた。ピアノ伴奏版や吹奏楽伴奏の編曲もあり。
また映画音楽以外では1984年ロサンゼルス・オリンピックのために書かれた「オリンピック・ファンファーレとテーマ」(グラミー賞受賞)と1996年アトランタ・オリンピックのために書かれた「サモン・ザ・ヒーロー(Summon The Heroes)」が格好いい楽曲なのでお勧めしたい。どちらも作曲家自身の指揮/ボストン・ポップス・オーケストラの演奏によるCDがある。
2010年、シェーンブルン宮殿夏のコンサートでウェルザー=メスト指揮する天下のウィーン・フィルは「スター・ウォーズ」メイン・タイトルや帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)を演奏した。そして2015年、今度はヴァルトビューネ野外コンサートにおいてサイモン・ラトルがベルリン・フィルを指揮し、「スター・ウォーズ」「レイダーズ/失われた聖櫃」「E.T.」を披露した。ついに世界はジョン・ウィリアムズの前にひれ伏したのである!
ジョンは今までに「屋根の上のヴァイオリン弾き」「ジョーズ」「スター・ウォーズ」「E.T.」「シンドラーのリスト」で5回、アカデミー賞を受賞している。もし「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」でノミネートされれば、これが記念すべき50回目となる。6度目のオスカーをジョンに!御年83歳。エピソード9完結まで(あと4年)是非健康でいて欲しい。May the Force be with him(フォースと共にあらんことを) !
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