鈴木秀美のJ.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲(連日公演)
12月3日(木)、4日(金)、大阪倶楽部へ。
鈴木秀美(バロック・チェロ)で、
- J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 全曲
(1日目:1,3,5番 /2日目:2,4,6番)
何度も書いてきたが念のため。モダン楽器とバロック楽器の違いは、まず弦がスチール弦か、裸のガット弦を張っているかにある。スチール弦が真っ直ぐな単音(pure tone)を奏でるのに対し、ガット弦には雑みや掠れがある。それが木目のような肌触りを感じさせる。また弓の形もモダン・ボウとバロック・ボウでは異なり、後者の方が短い(故にボウイング=運弓が変わってくる)。またバロック・チェロには床に固定するエンドピンがない。チェリストの膝に挟まれて宙に浮いた状態で演奏される。
鈴木秀美は当然、ピリオド・アプローチ(時代奏法)なので、基本的にはノン・ヴィブラート。装飾的に一瞬(ほぼ1秒以内、長くて2秒)、掛けることがたまにあり。
大バッハのオルガン曲や受難曲、ミサ曲などは基本的に教会音楽であり、神への捧げ物である。また無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータも「シャコンヌ(パルティータ 第2番)」に代表されるように、崇高で、神の御座す高みを目指したものと言えるだろう。
ところが一方、無伴奏チェロ組曲はのびやかで軽快な舞曲集であり、鈴木の演奏も弾んでスキップするような印象を受ける。こちらはむしろ「人間賛歌」だなと想った。バッハの他の作品で言えば「農民カンタータ」「コーヒー・カンタータ」のような世俗カンタータに近い感じ。
しかし短調の第2番、第5番はちょっと様子が違っていて、思索的かつ瞑想的。夜更け、ひとりコーヒーでも飲みながら自らの人生を振り返っているような雰囲気を醸し出す。
また5弦で演奏することを指示された(通常のチェロは4弦)第6番は18世紀に製作されたチェロ・ピッコロで弾かれた。楽器はやや小さめで、甲高い声を持つ。これを聴きながら草原の輝きとか空の青みをイメージした。トルーマン・カポーティの小説「草の竪琴」や宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」に通じる世界だなと感じた。
ただ現在、この無伴奏ソナタ集は肩掛け(小型)チェロ=ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの為に作曲されたと考えられていて、僕も寺神戸亮の生演奏を聴いたことがあるのだけれど、少なくとも第6番に関してはチェロ・ピッコロよりも肩掛けチェロの音色の方が楽想に合っているなと感じた。
2日目のアンコールはチェロ・ピッコロで弾く無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番の第3楽章だった。
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