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2015年12月

2015年12月31日 (木)

2015年 映画ベスト48

対象となるのは今年日本で初めて公開された作品である。映画タイトルをクリックすると各々のレビューに飛ぶ。ただし、「完全なるチェックメイト」と「クリード チャンプを継ぐ男」は直近で観たからレビューを未だ書いていない(後日更新予定)。

  1. スター・ウオーズ/フォースの覚醒
  2. イミテーション・ゲーム
  3. セッション
  4. はじまりのうた
  5. 幕が上がる
  6. フォックスキャッチャー
  7. バクマン。
  8. ジュラシック・ワールド
  9. バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡)
  10. イントゥ・ザ・ウッズ
  11. ナイトクローラー
  12. ソロモンの偽証
  13. クリード チャンプを継ぐ男
  14. マッドマックス 怒りのデス・ロード
  15. 駆込み女と駆出し男
  16. インサイド・ヘッド
  17. グローリー ー明日への行進ー                
  18. アメリカン・スナイパー
  19. 博士と彼女のセオリー
  20. きっと、星のせいじゃない。
  21. シンデレラ
  22. さよなら歌舞伎町
  23. バケモノの子
  24. ふたつの名前を持つ少年
  25. 新宿スワン
  26. 寄生獣
  27. ビッグ・アイズ
  28. I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE
  29. 雪の轍
  30. リトルプリンス 星の王子さまと私
  31. 心が叫びたがってるんだ。
  32. ミッション・インポッシブル ローグ・ネーション
  33. アイドルの涙 DOCUMENTARY of SKE48
  34. キングスマン
  35. あの日の声を探して
  36. ラスト5イヤーズ
  37. コードネームU.N.C.L.E.
  38. 海街diary
  39. 薄氷の殺人
  40. ターナー、光に愛を求めて
  41. 花とアリス殺人事件
  42. 007 スペクター
  43. サンドラの週末
  44. 完全なるチェックメイト
  45. この国の空
  46. チャッピー
  47. くちびるに歌を
  48. 百日紅 ~Miss HOKUSAI~

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2015年12月28日 (月)

ルーティンワークを打ち破る、革命的ベートーヴェン第九〜上岡敏之/読響

12月26日(土)ザ・シンフォニーホールへ。上岡敏之/読売日本交響楽団による大阪定期演奏会を聴く。

  • ベートーヴェン:交響曲 第9番「合唱付き」

これは日本独自の風習なのだが、年末になると世間は第九で溢れる。オーケストラにとっても稼ぎどきである。例えば読響は今月だけでも7回第九の本番がある。楽員にとっては来る日も来る日も第九ばかりで食傷気味だろうし、ルーティンワーク/マンネリに陥ることは避けがたい。

コンパクトディスク(CD)はソニーとフィリップスにより共同開発された。CD初期の最大収録時間(74分42秒)を決めるに際し、当時ソニーの副社長だった大賀典雄氏は親交があったヘルベルト・フォン・カラヤンに相談した。カラヤンの答えは「ベートーヴェンの第九が1枚に収まったほうがいい」だった。カラヤンの演奏が65分前後、フルトヴェングラーが指揮する「バイロイトの第九」が74分32秒、ベームやバーンスタインの演奏も大体それくらいだった(ベーム最後の録音が79分)。

さて、自筆譜を徹底的に研究したという上岡/読響の演奏は開始されてから終了までなんと1時間を切る、58分程度。歌手の出入りなど楽章間のロスタイムを考えると実質的演奏時間は55分弱だった!「バイロイトの第九」より20分短い

ちなみに上岡がヴッパータール交響楽団を指揮したブルックナー:交響曲第7番のCDは演奏時間が90分で史上最長である。チェリビダッケが79分、カラヤン/ウィーン・フィルが66分、オーマンディに至っては55分(上岡より35分短い)。だから今回の第九も90分位を覚悟していたのだが、その真逆だった!とある業界関係者が彼のことを(いい意味で)「変」と評しておられたが、言い得て妙である。全く予断を許さない指揮者だ。

古典的対向配置ではなく通常配置。第1楽章は滑らかな軽みで開始される。しかし展開部に移行すると渦を巻くような熱狂に呑み込まれる。上岡は下に叩きつけるような棒さばき。スタイリッシュで無駄がない。僕は「もしカルロス・クライバーが第九を指揮していたら、こんな感じだったのでは?」と想った。

第2楽章スケルツォは猛烈なテンポ。上岡の指揮ぶりは農作物(小麦とか)をザッ、ザッと刈り取っていくよう。それは鎌を持った死神のイメージにも繋がる。一転して柔らかい中間部との対比が鮮烈。また最後の音をフッと抜く解釈が新鮮だった。

第3楽章はアンダンテ。一貫して速めだが、ちゃんとビロードの肌触りがあり、天国的。

第4楽章は力むように手綱を締める場面と、緩める場面とが交差し躍動感溢れる。音楽は決して弛緩しない。そしてどんどんテンポが早まり再び熱狂へ。終盤にさしかかり二重フーガ直前に来るとそれまで普通にヴィブラートをかけていた弦がノン・ヴィブラートに。突如古楽のような響きとなり、僕はそこに神の声を聴いた。そしてクライマックスのPrestissimo(Presto)。この楽章の最後について上岡はインタビュー記事で「収拾がつかないほどの狂騒状態」「音楽は大混乱のまま終わる」と語っているが、まるで宇宙の大爆発=ビッグバンみたいだと度肝を抜かれた。

つい先日引退を表明したニコラウス・アーノンクールが古楽で培ったノウハウを引っ提げてロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団などモダン・オーケストラに殴り込みをかけたのが1980年代初頭、あれから30余年が経過した。その間、指揮者たちとオケの楽員たちは「カラヤン・ベーム・バーンスタイン時代のオーソドックスな演奏」に固執するのか(守旧派)、「ピリオド・アプローチ(古楽奏法)」による新しい波に乗るのか(革新派)、激しい闘争や抵抗、摩擦が展開され、百花繚乱の時代であったと言えるだろう。しかし今回の上岡/読響の演奏を聴くと、最早事態は「ピリオド・アプローチを採用するか否か」という2元論で語れるようなものではなく、次の段階に足を踏み入れたのだということが実感として判った。新な価値観、地平を目指して彼らは高らかに飛翔する。それを我々もしっかりとこの眼で見届けたい。史上最速・最高の第九だった。

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2015年12月25日 (金)

「RENT」のアダム・パスカルも参加!〜フランク・ワイルドホーン & フレンズ

12月23日(水・祝)梅田芸術劇場へ。

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ブロードウェイで活躍する作曲家フランク・ワイルドホーンとその仲間たちによるコンサート。

ワイルドホーン自らピアノを弾き、ドイツからトーマス・ボルヒャート(「モーツァルト!」レオポルト役のオリジナル・キャスト。他に「ジキル&ハイド」「ドラキュラ」「モンテ・クリスト伯」)とサブリナ・ヴェッカリン(ドイツ版「ウィキッド」初演のエルファバ役)、ブロードウェイからジャッキー・バーンズ(「ウィキッド」のエルファバ役、リバイバル版「ヘアー」オリジナル・キャスト)とアダム・パスカル(「RENT」ロジャー役オリジナル・キャスト、「アイーダ」ラダメス役オリジナル・キャスト)、そして元・宝塚宙組トップスター和央ようかが出演した。和央は宝塚退団公演「NEVER SAY GOODBYE」で楽曲を提供したワールドホーンと知り合い、今年彼と結婚した。彼女の方が背が高い!当初は「スカーレット・ピンパーネル」のオリジナル・キャスト、ダグラス・シルズが出演予定だったがキャンセルとなり、アダム・パスカルはその代演である。

セットリストは以下(順不同)。ミュージカル作品ごとにまとめて記載した。

  • 「スカーレット・ピンパーネル」炎の中へ(アダム/トーマス)・あなたこそ我が家(サブリナ/アダム)
  • 「デスノート」ハリケーン(アダム)・愚かな愛(ジャッキー)
  • 「アリス・イン・ワンダーランド」鏡の国へ(全員)・イカれた帽子屋(ジャッキー/サブリナ)・今日やりたいこと Finding Wonderland(ジャッキー)
  • 「ドラキュラ」長く生きるほど(トーマス=ドイツ語/和央)
  • 「ジキル & ハイド」罪な遊戯 Dangerous Game(ジャッキー/トーマス)・あんなひとが(サブリナ=ドイツ語)・新な生活(ジャッキー)・時が来たThis Is The Moment(トーマス=ドイツ語)
  • 「NEVER SAY GOODBYE」メドレー(和央)・One Heart(アンコール、全員)
  • 「モンテ・クリスト伯」地獄に落ちろ!(トーマス)
  • 「ルドルフ・ザ・ラスト・キス」私という人間(トーマス)
  • 「MITSUKO」後ろを振り向かずに(和央)
  • 「南北戦争」サラ(アダム)
  • 「カミーユとロダン」Gold(サブリナ)~2002年冬期五輪開会式演奏曲
  • 「ハバナ」Havana(ジャッキー/サブリナ/和央)日本未上演
  • ホイットニー・ヒューストン提供楽曲〜Where Do Broken Hearts Go(サブリナ)

ワイルドホーン以外の作曲家の楽曲も歌われた。

  • 「RENT」One Song Glory(アダム)
  • 「シカゴ」All That Jazz(和央)
  • 「ウィキッド」自由を求めて Defying Gravity(ジャッキー=英語/サブリナ=ドイツ語)

因みに僕が観たことがあるワイルドホーンのミュージカルは「ジキル&ハイド」「スカーレット・ピンパーネル」「NEVER SAY GOODBYE」「MITSUKO 〜愛は国境を超えて〜」「モンテ・クリスト伯」「スコット&ゼルダ」そして「デスノート」である。

アダム・パスカルの歌声を生で聴くのはこれが3回目。2001年にブロードウェイでディズニー版「アイーダ」を鑑賞したのと(タイトルロールはこれでトニー賞を受賞したヘザー・ヘッドリー)、2010年には「RENT」で共演したアンソニー・ラップとのライヴを聴いた(その時のレビューはこちら)。アダムのハスキーでワイルドな歌声は健在。「まだまだロジャー演れるよ!」と想った。

トーマス・ボルヒャートは朗々とした歌唱で高音に伸びがあった。

ジャッキー・バーンズとトーマスが共演した「ジキル&ハイド」の"Dangerous Game"は悪魔的でセクシー。また「デスノート」の《愚かな愛》は死神レムのナンバーだが、ジッキーの声には張りがあり、日本で同役を演じた濱田めぐみの実力とは雲泥の差があるなと感じた。

サブリナ・ヴェッカリンはとても高音が綺麗。"Where Do Broken Hearts Go"はホイットニー・ヒューストン並に上手かった。

和央ようかが黒い燕尾服で登場し、「NEVER SAY GOODBYE」を歌うと、宝塚大劇場で観劇した時(2006年)のことが鮮やかに蘇ってきた。歌詞に「君」という言葉が出てくる度に、彼女の視線の先に相手役だった花ちゃん(花總まり)が幻視される。ふたりは同時退団で、その後暫くの間花ちゃんは和央のマネージャーを甲斐甲斐しく務め仲睦まじかった。ところが今では和央がワイルドホーンと結婚し、花ちゃんは別事務所で「モーツァルト!」や「レディ・ベス」「エリザベート」に出演している……。一体、どうなってんの??まぁ僕は花ちゃんのファンだからミュージカル界復帰は大歓迎である。あと和央は宝塚男役時代からそうなのだが、歌詞の滑舌が悪い。

女子3人で歌われた「ハバナ」はラテン調でノリノリの曲だった。

楽曲もいいし、欧米の実力派揃いで「本物」を堪能した。ただ歌詞の字幕スーパーが付いている方がより理解が深まり、ありがたかったかなとも想った。

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2015年12月23日 (水)

僕のカルト映画ベスト20

まずカルト映画の定義をしよう。《公開時、興行的に成功せず、批評家からの評判も芳しくなかったのに、後に一部の熱狂的ファンを生み出した映画》つまり、「エル・トポ」とか「イレイザーヘッド」「ロッキー・ホラー・ショー」が一般的によく知られた代表例と言えるだろう。

本当は岩井俊二監督「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」とか、キャロル・リードの「フォロー・ミー」ヤノット・シュワルツの「ある日どこかで」もカルト映画の範疇に入れたいのだが、既に「我が生涯、最愛の映画(オールタイム・ベスト)」篇で語ったので、ここでは割愛する。あちらが表ベストでこちらが裏ベスト、そんな関係と思って頂ければ幸いである。

「カルト映画の巨匠」として僕がまず脳裏に思い浮かべる監督は大林宣彦増村保造鈴木清順ロジャー・コーマンマリオ・バーバである。この5人は絶対外せない。では「カルト映画の名優(怪優)」なら?答えは自ずと決まっている。言うまでもなくクリストファー・リーヴィンセント・プライス、そして岸田森だ。ただここで問題が発生する。クリストファー・リーとヴィンセント・プライスならいくらでも代表作を挙げられるが、「和製ドラキュラ」俳優・岸田森は正直、映画に恵まれなかった。強いて挙げるなら「血を吸う薔薇」など”血を吸う”シリーズなのだろうが、僕には作品的に弱いと感じられる。岸田森の魅力が全開しているのは佐々木守(脚本)実相寺昭雄(監督)のテレビドラマ「怪奇大作戦 京都買います」(上映時間正味25分)にとどめを刺す。絶対観てください。しかし今回のお題は「カルト映画」なので、泣く泣く岸田森出演作は外した。

順不同で

  • ブレードランナー
  • 血とバラ
  • 白い肌に狂う鞭
  • 恐怖の振り子
  • 愛のイエントル
  • 日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群
  • HOUSE ハウス
  • 赤い天使
  • ズーランダー
  • 幻の湖
  • 月曜日のユカ
  • けんかえれじい
  • 鴛鴦歌合戦
  • 狩人の夜
  • オール・オブ・ミー
  • ヒズ・ガール・フライデー 
  • 天国の日々 
  • いつも二人で 
  • 風と共に散る 
  • フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ

「ブレードランナー」(1982) 

Bladerunner

泣く子も黙るカルトSF映画の代表作。誰も文句ないでしょ?ノワール感たっぷりの夜を主体とする特撮(「未知との遭遇」のダグラス・トランブルが担当)や、ヴァンゲリスの音楽がいい。ハリソン・フォード演じるデッカードはレプリカントなのか?長年議論されてきたこの命題もリドリー・スコット監督の発言でケリがついた(勿論Yes !)。「劇場公開版」「完全版」「最終版」と3つのバージョンがあるのでややこしい。スピルバーグの「未知との遭遇」みたいだね(「劇場公開版」「特別版」「ファイナル・カット版」がある)。ちなみにブレードランナー「劇場公開版」「完全版」にあるラスト・シーンの車でのデッカードとレーチャルの逃避行はスタンリー・キューブリック監督「シャイニング」で使用されなかったカットを撮影所の倉庫から発掘したものというエピソードはあまりにも有名。現在、続編の企画が進行中。

「血とバラ」(1960) 

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ロジェ・ヴァディム監督の耽美的怪奇映画。女吸血鬼の物語である。大林宣彦監督の16mmカルト映画「EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ」(1967)はのっけから「血とバラ」へのオマージュを高らかに宣言する。後に大林監督と組む脚本家・桂千穂もこの映画に私淑しており(新人シナリオコンクール入賞作が「血と薔薇は暗闇のうた」)、作家・赤川次郎も「血とバラ 懐かしの名画ミステリー」という短編小説を書いている。この3者(大林・桂・赤川)が共犯した(一堂に会した)のが映画「ふたり」と「あした」である。

「白い肌に狂う鞭」(1963) 

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クリストファー・リー主演。サディスティックな逸品である。監督のジョン・M・オールドとはマリオ・バーヴァ(イタリア)の別名。バーバラ・スティール主演の「血ぬられた墓標」(1960)や、「モデル連続殺人!」(1964)、「呪いの館」(1966)が有名。大林宣彦監督は「HOUSE ハウス」でデビュー当時、マリオ・バーヴァをもじって馬場鞠男というペンネームを考えていたという。で監督の少年時代を描く映画「マヌケ先生」では主人公の名前もズバリ馬場鞠男となっている。

「恐怖の振り子」(1961) 

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ロジャー・コーマン監督によるエドガー・アラン・ポー・シリーズの1篇。「穴と振子」「早すぎた埋葬」の2つを合わせて映画化している。兎に角、クライマックスに登場する振り子に度肝を抜かれる。主演はヴィンセント・プライスとバーバラ・スティール。バーバラ・スティールは上述した「血ぬられた墓標」も印象的だった。コーマンとプライスのコンビ作は「アッシャー家の惨劇」(フロイド・クロスビー撮影監督によるカラー映像が美しい)や「赤死病の仮面」も捨てがたい魅力がある。あ、あと魔法合戦が愉しい「忍者と悪女」やオムニバス「黒猫の怨霊」も……まぁ、みんな観てください。ちなみにティム・バートンの初監督作品「ヴィンセント」(6分の短編アニメ)とはずばりヴィンセント・プライスのことであり、本人がナレーションを担当。「シザーハンズ」でプライスはマッド・サイエンティスト(狂った科学者)として出演している。さらにプライスはマイケル・ジャクソン「スリラー」のMVでもナレーションを担当している。

「愛のイエントル」 前代未聞、バーブラ・ストライザンドの《ひとりミュージカル映画》である。詳しくはこちらの記事に書いた。

「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群 (夕子悲しむ)」は広島県尾道市と福山市鞆の浦を舞台にした大林宣彦監督作品であり、「HOUSE ハウス」(1977)はCMディレクターや16mm自主映画(アングラ = Underground film)の旗手として活躍してきた大林監督の劇場映画デビュー作である。

「おかしなふたり」

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本作は1988年公開だが、僕は1987年夏に尾道映画祭で先行上映された際に観ている。主演は三浦友和、竹内力、南果歩。この3人のおかしな三角関係が描かれる。竹内力といえば今やすっかりミナミの帝王のイメージだが、実は大林映画「彼のオートバイ、彼女の島」がデビュー作であり(爽やかな青春映画の傑作)、当時の彼ははにかんだ笑顔のえくぼが印象的な好青年だった。切ない映画だ。「愛は勝つ」でブレイクする前のKANがシンセサイザーで音楽を担当している。

「HOUSE ハウス」

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おもちゃ箱をひっくり返したような化猫映画。公開当時、小学生にバカ受けしたというのも頷ける。映画は花も実もある絵空事、正に「電気紙芝居」である。松本潤、上野樹里主演、三木孝浩監督「陽だまりの彼女」は「HOUSE ハウス」への熱烈なオマージュとなっている。

「赤い天使」(1966) 

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増村保造監督で好きな作品は沢山ある。本格的スパイ映画「陸軍中野学校」を筆頭に「卍」「黒の試走車(テストカー)」「黒の報告書」……。しかし、1本だけ選ぶとしたら、若尾文子は絶対に外せない。増村映画に登場する若尾は驚異的にエロい。な、なんなんだ、このお色気ムンムンは!決して脱ぐわけじゃない(背中とか露出する場面は全てボディダブルである)。でも、うなじとかが官能的なんだよなぁ。「赤い天使」はフランスで最も人気がある増村映画。「フランス人、何考えてるんだ?」と観ていて可笑しくなる。これで若尾に悩殺された貴方、お次は「清作の妻」「刺青」「妻は告白する」あたりをどうぞ。

「ズーランダー」(2001) 

Zoo

ベン・スティーラーが原案・脚本・監督・主演を兼任している。抱腹絶倒のお馬鹿コメディ。大体、ベン・スティーラーとオーエン・ウィルソンがファッションモデル界のスーパースターという設定からしてぶっ飛んでいる。もしも主人公のキメ顔「ブルー・スティール」に大爆笑しない者がいたとしたら、人間として何か間違っている。デヴィッド・ボウイ、パトリス・ヒルトン、ウィノナ・ライダー、ナタリー・ポートマンなどカメオ出演の錚々たる顔ぶれも凄い。2016年には「ズーランダー2」が公開予定で、今度はベネディクト・カンバーバッチが物凄いことになっている!

「幻の湖」 数々の伝説を残した橋本忍(原作・脚本・監督)作品。何の予備知識もなく観て欲しい。最後は目が点、口をあんぐり開けたまま終わることは間違いない。(悪い意味で)想像を絶する映画だ。1982年に東宝創立50周年記念作品として公開されたが客足が全く伸びず、たった2週間と5日で打ち切られることとなった。本作で完全に信用を失った橋本(過去に「羅生門」「生きる」「七人の侍」「切腹」「白い巨塔」「砂の器」「八甲田山」など数々の名シナリオを執筆)は事実上、完全に干されることとなる。長らくビデオ化もテレビ放送もされず、文字通り「幻の」作品だったが、今ではDVDで観ることが出来る。

「月曜日のユカ」(1964) 監督は「狂った果実」の中平康。この映画の編集のリズムって、正にJazzなんだよね。また加賀まりこ(撮影当時20歳)が小悪魔的魅力を発散している。

「けんかえれじい」(1966) 鈴木清順監督でカルト映画として名高いのは宍戸錠主演「殺しの烙印」だろう。日活の社長は完成した作品を観て激怒。翌年の年頭訓示において「わからない映画を作ってもらっては困る」と本作を名指しで非難し、同年4月、鈴木に対し電話で一方的に専属契約の打ち切りを通告した。これを受けて映画人や学生有志による「鈴木清順問題共闘会議」が結成され、裁判沙汰になるなど大騒ぎとなった。「殺しの烙印」を観て「わけがわからない」と僕は全く思わないが、ただ面白くもない。「けんかえれじい」の方が(新藤兼人の脚本がよく練られており)優れている。子供たちの喧嘩=わんぱく戦争がいつしかエスカレートし、大人の戦争に膨張してゆく。まるでモンスターのように。

「鴛鴦歌合戦」(1939) 日本で製作されたミュージカル(オペレッタ)映画の金字塔。脳天気で最高に可笑しい!信じられる、あの志村喬(「生きる」「七人の侍」)が歌うんだぜ!?

「狩人の夜」(1955) 

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「戦艦バウンティ号の叛乱」「ノートルダムの傴僂男」「情婦」(ビリー・ワイルダー監督)などで知られる名優チャールズ・ロートン生涯唯一の監督作品。公開当時不評だったというのが俄に信じられないフィルム・ノワールの傑作。そのせいで日本では長らくお蔵入りで、漸く公開されたのが1990年だった。ロバート・ミッチャム演じる偽伝道師の狂気がひたすら怖い。考えてみれば本作はミッチャムが7年後に出演する「恐怖の岬」(1962)や、マーティン・スコセッシによるそのリメイク「ケープ・フィアー」にも強烈な影響を与えている。また白黒映像による影絵のような光と影の交差が素晴らしい。先日観直していたら、デヴィッド・リンチの「ツイン・ピークス」とそっくりのショットがあって驚いた。勿論、リンチの方が影響を受けているわけだ。あと被写体の全てにピントを合わせるパン・フォーカス(ディープ・フォーカス)の手法が採られているが、調べてみると撮影監督のスタンリー・コルテスはオーソン・ウェルズ監督「偉大なるアンバーソン家の人々」(1942)を撮った人だった。以前BSで観た時は縦横比1:1.33のスタンダードサイズ(撮影時のまま)だったが、現在は上下をカットした1:1.66のヨーロピアン・ビスタサイズが流通している。このビスタ版が監督が本来意図した画角であり、2010年に北米クライテリオン・コレクションがリリースした愛蔵盤ブルーレイでも1:1.66の画角を採用しているらしい。

「オール・オブ・ミー」 

All

日本未公開。スティーブ・マーティンはどうも日本で人気がない。ジョン・ベルーシとかダン・エイクロイドとかアメリカのコメディアンってそういう人が多い。やはりこれは言葉の問題なのだろう。例えば明石家さんまや笑福亭鶴瓶のお喋りを英語字幕にして海外の人々に見せても、彼らには何が面白いのかさっぱり判らないだろう。体の半身が男で、半身が女になるという設定がバカバカしいやら可笑しいやら。スティーブ・マーティンの演技がシュールで、笑いすぎて涙が出ちゃう。

「ヒズ・ガール・フライデー」 新聞社を舞台としたスクリューボール・コメディ。マシンガンのように早口でまくし立てる会話が凄い。後にビリー・ワイルダーが「フロント・ページ」(1974)というタイトルで再映画化しているが、ハワード・ホークス版(1940)の方が断然良い。

「天国の日々」 

Days

映画全編をマジック・アワー(日没後に20分程体験できる薄明の時間帯を指す)に撮影した伝説の映画。ネストール・アルメンドロスがアカデミー撮影賞を受賞。ただし、三谷幸喜 脚本・監督の「ザ・マジックアワー」は痛い映画だった。同じテレンス・マリック監督「ツリー・オブ・ライフ」は難解な映画だがやはり映像美の極み。撮影監督は後に「ゼロ・グラビティ」と「バードマン」でアカデミー賞を連続受賞することになるエマニュエル・ルベツキ。

「いつも2人で」 

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監督は「雨に唄えば」「シャレード」のスタンリー・ドーネン。キネマ旬報社から発行された「私の一本の映画」という本があり、そこに村上春樹がエッセイを書いたのが本作なのである。彼は高校生の時、当時のガールフレンドと神戸の映画館でこれを観たそうだ。主演はオードリー・ヘップバーンとアルバート・フィニー(「オリエント急行殺人事件」のポアロ役)。中年夫婦の危機を描くが、ふたりの12年間を5つの時間軸が交差する形で描く凝った構成になっている。何より僕は"Two for the Road"という原題が好き!味がある。

「風と共に散る」 

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《メロドラマの巨匠》ダグラス・サーク監督(本名:ハンス・デトレフ・ジールク。ナチスを逃れドイツからアメリカに亡命)の作品を1本に絞るのは難しい。「風と共に散る」は冒頭の疾走感が凄い!あと「天はすべて許し給う」(日本未公開、上掲したポスターはこちら)は窓や鏡を効果的に使った画面設定に唸らされる。そして鹿!(←観れば判る)「キャロル」(2016年日本公開予定)で話題沸騰のトッド・ヘインズ監督の「エデンより彼方に」(2002)は徹底的な「天はすべて許し給う」へのオマージュである(詳しくはこちら)。またクエンティン・タランティーノはダグラス・サークの「心のともしび」を激賞している(ちょっと僕には理解し難い選択だ)。なお「風と共に散る」「天はすべて許し給う」「心のともしび」で主演したロック・ハドソンは同性愛者(ゲイ)で、後にAIDSで亡くなった。著名人として世界で初めてAIDSであることを公言(カミング・アウト)した人物である。

「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」 

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映画「進撃の巨人」の樋口真嗣監督や原作の諫山創氏はトラウマ映画として「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」(監督:本田猪四郎、特技監督:円谷英二という初代「ゴジラ」コンビ)を挙げている(樋口監督が語る「サンダ対ガイラ」は→こちら)。「進撃の巨人」の原点がここにある。また映画「パシフィック・リム」のエンド・クレジットに”モンスター・マスター”本田猪四郎への献辞を書いたギレルモ・デル・トロ監督はメキシコでの少年時代、バスで45分かけて映画館に行って「サンダ対ガイラ」を観たと語っている(→こちら)。

ここまで書いてきてアニメが入っていないことに気が付いた。それならまず押井守監督で

「攻殻機動隊」とその続編「イノセンス」 

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「マトリックス」に多大な影響を与えたということで今やメジャーな作品だけれど、日本公開当時は全く話題にならなかったし、興行的にも当たらなかった。現在スカーレット・ヨハンソン主演でハリウッド実写映画化の企画が進行中。押井作品でもっとマイナーなところを攻めると、「迷宮物件」とか「天使のたまご」でどうだ!文句あるまい。

「空飛ぶゆうれい船」 

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子供の頃これを観て、トラウマになったという映画人を何人か知っている。映画評論家・町山智浩氏は小学校1年生の時にこれを観て、その後の映画の見方、世の中の見方に大きな影響を受けたと告白している。また映画監督の岩井俊二は次のようにツィートしている。

原作は石ノ森章太郎。若き日の宮﨑駿が原画で参加していることはあまりにも有名。何しろ「ボアジュース」が強烈!僕はオウム真理教が使っていた「ポア」という言葉を想い出した。

最後に新海誠監督「秒速5センチメートル」も究極のカルト映画で僕は死ぬほど好きなのだが、こちらは既に「我が生涯、最愛の映画(オールタイム・ベスト)」篇に入れてしまった……。

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2015年12月21日 (月)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 サンタコンサート2015

吹奏楽アニメの傑作「響け!ユーフォニアム」の劇場版(映画)公開と、2nd シーズン放送が決まり狂喜乱舞している今日このごろ、12月19日(土)大阪ビジネスパーク TWIN21アトリウムへ足を運んだ。

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部によるX-mas「180人のサンタコンサート 2015」を聴く。 無料。総監督・指揮者は梅田隆司先生。昨年のレポートはこちら

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息子を連れて行ったので、Kid's stage中心に鑑賞。

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演奏されたのは、

  • 鉄腕アトム
  • ゲゲゲの鬼太郎
  • アンパンマン
  • ドラえもん
  • プリンセスプリキュア
  • ニンニンジャー
  • 赤鼻のトナカイ
  • ホワイトクリスマス
  • リクエスト・コーナー
  • すてきなホリデイ
    ケンタッキーフライドチキン/クリスマスCMソング)

など。

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「ホワイトクリスマス」では子どもたちが指揮台に立ち、指揮をした。

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「リクエスト・コーナー」では100曲位あるリストの中から、まず小学生の女の子が「アナ雪」を指名し、続いて男の子が「ライオンキング!」と言った。上の写真は女子生徒が"Let It Go"を歌っているところ。僕は桐蔭が演奏する「アナと雪の女王」のアレンジがお気に入りなので、とても嬉しかった。数多いレパートリーから即座に演奏し、歌えるんだから凄いなと感心することしきり。

毎年、桐蔭のサンタコンサートと定期演奏会を聴きに行っているのだが、考えてみれば「ライオンキング」は初めて聴いた気がする。冒頭、"Circle of Life"はアカペラで始まり、アフリカン・テイストたっぷり。スケールが大きくて格好良かった!帰宅して息子に「どの曲が一番愉しかった?」と訊くと、「ライオンキング」と返答が帰ってきた。大阪四季劇場にも連れて行っているので(初ミュージカル体験がこれ)、何か琴線に触れるものがあったのだろう。

あと、C.T.スミスの「フェスティバル・バリエーションズ」があった。桐蔭のホルン軍団、上手い!聴き惚れた。この曲は普門館で生演奏を聴いた藤重佳久/精華女子高等学校が史上最強だと想っているのだが、僕が知るかぎりその次くらいに良かった。ちなみに本作は「ホルンいじめ」の曲として有名で、作曲を委嘱した空軍バンドの首席ホルン奏者が大学時代スミスのライバルであったことから、いじわるで難しく書いたと言われている。あとチューバ・ソロが女子生徒だったので驚いた。そういえば「響け!ユーフォニアム」の葉月もチューバを吹いていたね。定演でまた聴けるかな?

来年の大阪桐蔭定期演奏会は2月14日(日)16時、15日(月)18時半開演という日程で開催される@フェスティバルホール。チケットは現在e+で発売中。ファミリーマートで購入可。

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2015年12月19日 (土)

観たぜ!!「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」日本最速上映レポート

評価:AAA(これ以上はありません)

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12月18日18時30分、日本最速上映を鑑賞。

第1作「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」は米国で1977年5月に公開されたが、日本公開は78年7月1日だった。僕は当時小学生で、子供だけで観ることは叶わないので父親に引率を頼み、同級生の男の子4,5人を引き連れて映画館に観に行った。北米公開から1年以上間が空いたので先にどんどん情報が日本に入ってきており、映画を観る前に僕は既に原作小説を読んでいた(公式には著者がジョージ・ルーカスとなっているが、実際はゴーストライターのアラン・ディーン・フォスターが書いたもの)。ジョン・ウィリアムズの音楽もFMでエア・チェックしたズービン・メータ/ロサンゼルス・フィルが演奏する組曲をカセットテープで繰り返し聴いていた。「エピソード5/帝国の逆襲」の場合は中学生だったがキネマ旬報誌の特集記事を貪るように読んでいたので、映画を観る前からルークの父親がダース・ベーダーだということを知っていた。今回は世界同時公開ということで、予備知識が全く無いまっさらな気持ちで観ることが出来た。事前にジョン・ウィリアムズのサントラを聴いていないというのも初めてのことである。

予告編一切なしで定刻になるといきなり本編が始まった。冒頭、Lucasfilm Ltd.のロゴが登場すると、自然に場内から拍手が沸き起こる。そして「ジャーン!」とジョン・ウィリアムズの音楽が鳴り響き、STAR WARSのタイトルが現れると、もう一度拍手。

本編の後、長いエンドクレジットの途中で退席する人は数人で9割以上の人々は最後まで私語もなく静かに残っていた。スマホの画面を光らせる人も皆無。上映が終わり場内が明るくなる瞬間に三度目の拍手。何だか神聖な儀式に参加しているような錯覚に囚われた。熱心でありながら礼節をわきまえた日本のファンに深い感銘を受けた。同志たちよ!僕は君たちのことを誇りに思う。

観終わってまず言いたいのは「宇宙戦艦ヤマト」の沖田十三艦長が、地球に帰還した時の最後の言葉と同じである。「何もかも、みな懐かしい。」映画全編がエピソード4から6までのオマージュに満ちている(以下、多少のネタバレはお許し頂きたい)。

そもそもある使命を帯びたドロイドを帝国軍(ザ・ファースト・オーダー)が追うというプロットはエピソード4そのまんまだし、BB-8の地図映写、砦に囚われたお姫様救出作戦、XウィングとTIEファイターのドックファイト(空中戦)、強力なビームを使って惑星粉砕、ミレニアム・ファルコン号のホログラム・チェスボードなど既視感(デジャヴ)満載。オビ・ワンとダース・ベイダーの決闘(エピソード4)、あるいはルークとダース・ベイダーの対峙(エピソード5)を髣髴とさせる場面もあり。レイヤとハン・ソロの別れ(エピソード5)もバリエーションとして再現されている。さらにアクバー提督(エピソード6)が出てくるし、ハン・ソロの名台詞"I have a bad feeling about this."も飛び出した。また今回の舞台となる砂の惑星ジャクーには氷の惑星ホス(エピソード5)に登場する帝国軍の装甲歩行兵器がジャンクとして放置(野ざらしに)されている(もしかしてジャクーは温暖化したホスの成れの果ての姿!?)。

「スター・ウォーズ」は皆さんご存知の通り神話なのだけれど、J.J.エイブラムスが「フォースの覚醒」で打ち出した新機軸はそれにギリシャ悲劇の要素を加えること。これ以上書くと核心を突くネタバレになるので差し控えるが、ヒントを書いておくと……パゾリーニ、ストラヴィンスキー。分かる人には分かるだろう。またCGを一切感じさせず、徹底的にアナログ(実物大のセットやミニチュア)に拘ったVFXも素晴らしい。J.J.は最高の仕事をした。本当にありがとう!

最後にジョン・ウィリアムズの音楽について触れたい。レイアが登場する場面でまず流れるのが「王女レイアのテーマ」(エピソード4)。そして、ハン・ソロとの会話が始まると、それが「ハンとレイア」(エピオード5)に移行する。いやもう、本当に至福の時だった。生きててよかった。ジョン、エピソード9で完結するまで(あと4年)息災でいてください。貴方じゃないと駄目なんだ。心からお願いします。

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2015年12月16日 (水)

シリーズ《映画音楽の巨匠たち》第5回/知られざるジョン・ウィリアムズの世界

過去のシリーズは下記。

さて「スター・ウォーズ エピソード7 フォースの覚醒」公開を記念して、皆さんお待ちかね、満を持してのジョン・ウィリアムズ登場である。紛れもなく20世紀最高の作曲家。彼の成し遂げた偉業に比べれば、ストラヴィンスキーやラヴェル、バルトーク、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフなど足元にも及ばない。

しかしここで「スター・ウォーズ」「スーパーマン」「ハリー・ポッター」など誰でも知っている名曲を取り上げても仕方がない。故にこうしたSF・ファンタジー分野のブロックバスター超大作、さらに「ジョーズ」「未知との遭遇」「E.T.」「ジュラシック・パーク」などスティーヴン・スピルバーグ監督の全作品を除外し、知られざる作品群にスポットライトを当てることにした。僕が好きな順ではなく、公開年順に推したい作品を並べている。ディープな世界へようこそ。

  • おしゃれ泥棒(1966)ジョニー・ウィリアムズ名義
  • 華麗なる週末(1969)
  • ジェーン・エア(1970)
  • 屋根の上のヴァイオリン弾き(1971)
  • 11人のカウボーイ(1971)
  • タワーリング・インフェルノ(1974)
  • フューリー(1978)
  • ドラキュラ(1979)
  • イエス、ジョルジョ(1982)
  • イーストウィックの魔女たち(1987)
  • ホーム・アローン(1990)
  • 遥かなる大地へ(1992)
  • サブリナ(1995)
  • セブン・イヤーズ・イン・チベット(1997)
  • SAYURI(2005)
  • やさしい本泥棒(2013)

因みにジョンの父ジョニー・ウィリアムズはジャズ奏者でレイモンド・スコット・クインテットでドラム&パーカッションを担当していた。また息子のジョセフ・ウィリアムズはロック・バンド TOTOのヴォーカリスト(謙、作曲家)である。

おしゃれ泥棒」 今では想像がつかないだろうが、1960年代のジョンのスタイルはお洒落で都会的、ヘンリー・マンシーニ(ピンク・パンサー、ムーン・リヴァー)のタッチに近かった。マンシーニが音楽を担当した「ピーター・ガン」(1958)のサントラにはピアニストとして参加している。その頃の代表作がオードリー・ヘップバーン主演の「おしゃれ泥棒」。軽やかで粋だね!ウキウキする。

華麗なる週末」 スティーブ・マックイーン主演。現在に繋がるシンフォニックなスタイルを確立しつつある時期の作品。曲調としては”アメリカ音楽の祖”アーロン・コープランド(ロデオ、アパラチアの春)に近い。スピルバーグは映画監督デビュー作「続・激突!/カージャック」(1974)からジョンと組んでいるが、「華麗なる週末」や「11人のカウボーイ」の音楽をスティーヴンが気に入っていたことが二人の出会いの切っ掛けとなった。最初彼は音楽の印象からすごいお爺ちゃん作曲家なのだろうと想像していた。ところが現れたジョンが若かったので驚いたという。当時ジョンが41歳、スティーヴンは27歳だった。「華麗なる週末」は後にジョン自身がボストン・ポップスのためにアレンジし、録音している。アカデミー作曲賞ノミネート(これが自身初)。なお、「スター・ウォーズ」の作曲家を探していたジョージ・ルーカスにジョンを紹介したのはスティーヴンである。

ジェーン・エア」 テレビ映画。これもボストン・ポップスのためにアレンジされた組曲がある。たおやかで美しく、僕は凄くケルト的な音楽だなと感じる。ムーア(荒野)が見渡す限り何処までも続いている風景が目に浮かぶ。そういう意味で後に作曲された「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」に繋がっている。あとジョンが音楽を担当したテレビ映画でお勧めなのが「アルプスの少女ハイジ」(1968)。

屋根の上のヴァイオリン弾き」 ブロードウェイ・ミュージカルの映画化で、舞台版の作曲はジェリー・ボック。ジョンは本作でアカデミー編曲賞を受賞した。冒頭のクレジット・タイトルで演奏されるヴァイオリン協奏曲は映画オリジナルであり、これが素晴らしい。ユダヤ・テイストたっぷりで、後の「シンドラーのリスト」に繋がってゆく。映画で弾いたのがユダヤ人ヴァイオリニスト、アイザック・スターン。ジョンはボストン・ポップスともレコーディングしている。因みに「シンドラーのリスト」のサントラはヴァイオリン・ソロをイツァーク・パールマンが弾いた。

11人のカウボーイ」 ジョン・ウエイン主演。ジョン・ウィリアムズ流西部劇の音楽。やはりコープランド風である。ボストン・ポップスとのレコーディングあり。冒頭のホルンの咆哮がめっちゃ格好いい!!実はこれ、吹奏楽の世界でも人気があり、全日本マーチングコンテストでも演奏されている。→こちら

タワーリング・インフェルノ」 1970年代のジョンはパニック映画(Disaster Movie)の巨匠として名を馳せ、「ポセイドン・アドベンチャー」や「大地震」など一手に引き受けた(「ジョーズ」だっていわばパニック映画だ)。その代表作が「タワーリング・インフェルノ」。映画冒頭、上昇するヘリコプターの背後で低弦が「ダーン、ダダダッ、ダダダ。ダーン、ダダダッ、ダダダ」とリズムを刻み始めるだけで否が応でも期待と興奮が高まるのだ。アカデミー作曲賞ノミネート。

フューリー」 カーク・ダグラス主演でブライアン・デ・パルマ監督の超能力(念力)映画。2014年に公開されたブラピ主演の同名映画もあるのでお間違いなく。ここでのジョンはスリラー/サスペンス・タッチでアルフレッド・ヒッチコックと組んでいたバーナード・ハーマンを模したスタイルに徹している。「スター・ウォーズ」「スーパーマン」同様、サントラの演奏を名門ロンドン交響楽団が担当している。因みにデ・パルマとハーマンは「悪魔のシスター」「愛のメモリー」で2度組んでいる。「フューリー」が製作された時、ハーマンは既に故人だった。

ドラキュラ」 何と言っても「ドラキュラ 愛のテーマ」が好きだ!耽美的で濃密な浪漫の香りが漂う。こちらもロンドン交響楽団が演奏。

イエス、ジョルジョ」 日本未公開。なんと「3大テノール」ルチアーノ・パヴァロッティが主演!映画でもテノール歌手役だ(当然、演技は拙い)。アカデミー歌曲賞にノミネートされた主題歌 "If We Were In Love" がとっても甘く美しくて素敵。パバロッティがイタリア訛りの英語で歌っている。このサントラ、日本でもLPレコードが発売され、僕も持っていた。海外ではCDが発売されたようだが既に廃盤。ただし映画の北米版DVDは現在でも入手可能。僕も所有している。

イーストウィックの魔女たち」 アカデミー作曲賞にノミネート。監督は「マッドマックス」で話題沸騰のジョージ・ミラー。ちょっとユーモラスな悪魔の音楽である。後にヴァイオリンとピアノのための独奏曲に編曲され、イスラエル出身の名ヴァイオリニスト、ギル・シャハムが「悪魔のダンス」というアルバムに収録している。→こちら

ホーム・アローン」 アカデミー賞で作曲賞及び、主題歌 "Somewhere in My Memory"が歌曲賞にノミネート。至福のクリスマス音楽。愛らしい "Somewhere in My Memory" や "Star of Bethlehem" などの歌が僕はダ・イ・ス・キ・ダー!何だかほっこりした気持ちになれる。

遥かなる大地へ」 当時夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンが共演。アイルランドから米国に渡った移民の物語。「風と共に去りぬ」の前日譚(スカーレット・オハラの両親の物語)でもある。クライマックスとなるランド・ラン(土地獲得レース)は1931年にアカデミー作品賞を受賞した「シマロン」の再現だ。ジョンの音楽はアイリッシュ・テイスト満載でアイルランドのバンド「ザ・チーフタンズ」もフィーチャーされている。因みに主題歌はやはりアイルランド出身のエンヤが作詞・作曲している。余談だがジェームズ・キャメロンは「タイタニック」の音楽をまずジョン・ウィリアムズに、次にエンヤに依頼してどちらからも断られているのだが、キャメロンには本作のイメージがあったのではないだろうか?(最終的にジェームズ・ホーナーが「要するにエンヤもどきの曲を書けばいいんだろ?」と引き受け、アカデミー作曲賞・歌曲賞を受賞した。)吹奏楽用にも編曲され、なにわ《オーケストラル》ウィンズが演奏したCDがある。

サブリナ」 アカデミー作曲賞及び歌曲賞にノミネート。まるでピアノ協奏曲みたいな、なんともロマンティックで可憐な楽曲。

セブン・イヤーズ・イン・チベット」 ヨーヨー・マを独奏者に迎えた、チェロ協奏曲仕様である。記事「決定版!チェロの名曲・名盤 20選」をご参照あれ。

SAYURI」 アカデミー作曲賞にノミネート。「シンドラーのリスト」のイツァーク・パールマンと「セブン・イヤーズ・イン・チベット」のヨーヨー・マを迎えた、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲になっている。琴や尺八も登場し、日本風味なのが新鮮。

やさしい本泥棒」 日本未公開。アカデミー作曲賞にノミネート。静謐な叙情。詳しくはこちらに書いた。

番外編として、スピルバーグとのコラボレーションから1作品だけご紹介しよう。レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスが共演した「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」。ジョンとしては珍しく、サクソフォンが主役のJAZZYな音楽である。ある意味、「おしゃれ泥棒」時代のスタイルに帰還したと言えるだろう。この映画からアルト・サクソフォンとオーケストラのための「エスカペイズ Escapades」という独立した楽曲が生まれた。ピアノ伴奏版や吹奏楽伴奏の編曲もあり。

また映画音楽以外では1984年ロサンゼルス・オリンピックのために書かれた「オリンピック・ファンファーレとテーマ」(グラミー賞受賞)と1996年アトランタ・オリンピックのために書かれた「サモン・ザ・ヒーロー(Summon The Heroes)」が格好いい楽曲なのでお勧めしたい。どちらも作曲家自身の指揮/ボストン・ポップス・オーケストラの演奏によるCDがある。

2010年、シェーンブルン宮殿夏のコンサートでウェルザー=メスト指揮する天下のウィーン・フィルは「スター・ウォーズ」メイン・タイトルや帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)を演奏した。そして2015年、今度はヴァルトビューネ野外コンサートにおいてサイモン・ラトルがベルリン・フィルを指揮し、「スター・ウォーズ」「レイダーズ/失われた聖櫃」「E.T.」を披露した。ついに世界はジョン・ウィリアムズの前にひれ伏したのである!

ジョンは今までに「屋根の上のヴァイオリン弾き」「ジョーズ」「スター・ウォーズ」「E.T.」「シンドラーのリスト」で5回、アカデミー賞を受賞している。もし「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」でノミネートされれば、これが記念すべき50回目となる。6度目のオスカーをジョンに!御年83歳。エピソード9完結まで(あと4年)是非健康でいて欲しい。May the Force be with him(フォースと共にあらんことを) !

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2015年12月15日 (火)

駆込み女と駆出し男

評価:A

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ブルーレイで鑑賞。映画公式サイトはこちら

井上ひさしの小説『東慶寺花だより』を原案とした作品。原田眞人はボグダノヴィッチの「ラストショー」を真似た感傷的(自慰的)デビュー作「さらば映画の友よ インディアンサマー」(1979)とか、悪名高き巨大ロボットSF「ガンヘッド」(1989)とか(映画館で観て絶望的気持ちになり、頭を抱えた)、どうしようもない駄目監督だと想っていた。ところが!「突入せよ!あさま山荘事件」「クライマーズ・ハイ」辺りから良質の作品を撮るようになり、「わが母の記」(2012)や本作を観ると、堂々たる巨匠の風格さえ漂うようになった。恐れいりました。見直しました。文句ありません。最早、日本を代表する映像作家の一人と言えるだろう。

男尊女卑が公然とまかり通っていた江戸時代を舞台に、女たちの哀れに優しい眼差しを向け、彼女たちを慈しむような、繊細で時に大胆な演出に心を打たれる。四季折々の自然描写も美しい。

女優になるために生まれてきたような満島ひかりが素晴らしいのは当たり前として、東慶寺(駆け込み寺)の院代・法秀尼(ほうしゅうに)役の陽月華が凛とした佇まいで目を惹く。彼女は元・宝塚宙組トップ娘役。映画は本作が初出演らしい。戸田恵梨香は「熱演」。ベテランの樹木希林は年輪から滲みだす深い味わいがあり、女優陣がすこぶる充実している。見応えがある「女性映画」だ。

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2015年12月14日 (月)

I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE

評価:A

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リトルプリンス 星の王子さまと私」に続き、4歳の息子と鑑賞。公式サイトはこちら

漫画「ピーナッツ」は1950年から2000年まで連載された。アニメのテレビ放送が開始されたのは1965年である。

今回はCGアニメーションということで、原作の持ち味が保たれるのか非常に懐疑的だったのだが、顔や体の輪郭はポリゴンだけれど眉や口、目尻のシワなどは手書きの感触をそのまま残していて全く違和感がなかった。

冒頭に20世紀フォックスのロゴが現れ、アルフレッド・ニューマンが作曲した20世紀フォックス・ファンファーレ(「スター・ウォーズ」でもお馴染み)が演奏されるのだが、スネアドラムに続いて本来はトランペットが高らかと鳴り響くはずのところ、同じ旋律がピアノで奏でられる。すると引きの画面となり、シュローダーがおもちゃのピアノを弾いている。洒落た導入部である。

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スヌーピーはタイプライターを叩くのだが、今の子供達はタイプライターなんか当然知らない。そこで最初にスヌーピーとウッドストックのドタバタ劇を交えながら機械の仕組みをサラッと説明してしまう手法は鮮やかだった。懐かしき黒電話も登場。

またチャーリ・ブラウンの妹サリーが学芸会の劇で馬乗りを披露する場面でロッシーニ作曲「ウィリアム・テル」序曲が流れる。実はこれ、「ローン・レンジャー」(テレビ放送1949−58)のテーマ曲なんだよね。そした「ピーナッツ」が書かれた時代への目配せが実に心地よい作品だった。

あとスヌーピーとレッド・バロンの空中戦が愉しかったなぁ。第一次世界大戦で活躍した、実在するドイツ軍の撃墜王マンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵の異名である。ツェッペリン飛行船も登場し、燃えたね(←僕が。ヒンデンブルク号みたいに爆発炎上するわけじゃないよ)。観終わった息子は「面白かった」と言ってくれたけど、レッド・バロンは少し怖かったそう。

最後にトリビアを一つ。スヌーピーの恋人フィフィという、ピンクのプードルの役でクリスティン・チェノウスが声を担当しているのだが、彼女はブロードウェイ・ミュージカル「君はいい人チャーリー・ブラウン」のサリー役で、トニー賞を受賞している。また2015年のトニー賞授賞式では司会を務めた。ちなみに「君はいい人チャーリー・ブラウン」は2000年に日本でも上演されていて、チャーリー・ブラウンを小堺一機、スヌーピーを市村正親!!、ルーシーを土居裕子、サリーを池田有希子が演じた(僕はこの舞台を観ている)。

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2015年12月10日 (木)

プリンス・オブ・ブロードウェイ

12月8日(火)梅田芸術劇場へ。「プリンス・オブ・ブロードウェイ」を観劇。

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ブロードウェイの伝説的な演出家ハロルド・プリンスの偉業を振り返る作品である。いわば「ジェローム・ロビンス・ブロードウェイ」や「フォッシー」(どちらもトニー賞で作品賞を受賞)みたいなアンソロジー。プリンスとの共同演出、及び振付を担当するのはスーザン・ストローマン。これがワールドプレミアであり、いずれ幾つかのトライアウト(試演)を経てブロードウェイに上陸するだろう。

因みに僕が今まで観たことがあるプリンス演出のミュージカル作品は「オペラ座の怪人」(日本/ウエストエンド/ブロードウェイ/ラスベガス)と「蜘蛛女のキス」(日本)。またプリンスがオリジナル演出を担当し、別の演出家で観たのが「シー・ラヴズ・ミー」(出演:市村正親、涼風真世)、リトル・ナイト・ミュージック」(麻実れい、細川俊之)、「エビータ」(浅利慶太演出)、「キャバレー」(サム・メンデス&ロブ・マーシャル共同演出版/小池修一郎演出版/松尾スズキ演出版)、「カンパニー」(小池修一郎演出)、「太平洋序曲」(宮本亜門演出)、「スウィーニー・トッド」(宮本亜門演出)、「メリリー・ウィー・ロール・アロング」(宮本亜門演出)。またスーザン・ストローマンが振付や演出を担当した作品は「クレイジー・フォー・ユー」「コンタクト」(以上、劇団四季)「オクラホマ!」(ヒュー・ジャックマン主演!BSにて)「プロデューサーズ」「ザ・ミュージックマン」(以上、ブロードウェイ)を観ている。

さて、今回の出演者を列挙しよう。

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まず「オペラ座の怪人 25周年記念ロンドン公演」でファントムを演じ、続編「ラブ・ネバー・ダイ」でも主演を務めたラミン・カリムルー。彼はブロードウェイ(BW)の「レ・ミゼラブル」でジャン・バルジャンを演じ、トニー賞候補になった。

「オクラホマ!」でトニー賞を受賞したシュラー・ヘンズリーは僕が観た日は残念ながら休演で、アンダースタディが務めた。

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トニー・ヤズベックは「オン・ザ・タウン」で2015年トニー賞主演男優賞ノミネート。

ケイリー・アン・ヴォーヒーズは現在、BW「オペラ座の怪人」でクリスティーヌを演じている。

エミリー・スキナーシャム結合)双生児のヒルトン姉妹を描いた「サイド・ショウ」でトニー賞主演女優賞候補となった。

他にジョシュ・グリセッティナンシー・オペルブリヨーナ・マリー・パーハムマリアンド・トーレス、そして宝塚歌劇の元トップ・スター、柚希礼音が出演した。また声のみで市村正親がハロルド・プリンスを演じた。正にオール・スター夢の共演である。

歌われた作品は、《第1幕》「フローラ、赤の脅威」「くたばれ!ヤンキース」「ウエスト・サイド物語」「シー・ラヴズ・ミー」「イッツ・ア・バード…イッツ・ア・プレイン…イッツ・スーパーマン」「フォーリーズ」「リトル・ナイト・ミュージック」「屋根の上のヴァイオリン弾き」「キャバレー」「オペラ座の怪人」《第2幕》「カンパニー」「ローマで起こった奇妙な出来事」「エビータ」「フォーリーズ」「フィオレロ!」「メリリー・ウィー・ロール・アロング」「パレード」「蜘蛛女のキス」「スウィーニー・トッド」「ショウ・ボート」そして最後はジェイソン・ロバート・ブラウン(「パレード」「ラスト・ファイヴ・イヤーズ」「マディソン郡の橋」)が書き下ろした新曲"WAIT 'TIL YOU SEE WHAT'S NEXT"で締め括られる。

眩いばかりの作品群である。ちょっと反則だなと想ったのは「ウエスト・サイド物語」や「屋根の上のヴァイオリン弾き」の演出・振付はジェローム・ロビンスでプリンスの役割はプロデューサーのみなんだよね。いいとこ取りでずるいなぁ。

ラミンの「オペラ座の怪人」は勿論、「ウエストサイド物語」のトニー(どちらもお相手はケイリー)や「カンパニー」のロバート("BEING ALIVE" !!)、さらにクラーク・ケント(スーパーマン)まで観ることが出来て、こんな贅沢な話はない。彼は僕が知る限り歴代最高のファントムだし、その朗々たる歌唱に痺れた。

トニー・ヤズベックが「フォーリーズ」で見せたソング・アンド・ダンス、「パレード」のナンバー"THIS IS NOT OVER YET"の歌も素晴らしかった。ジョシュのMC(キャバレー)も◯。

シュラーの代役エリック・ヴァン・ティーレンは「屋根の上のヴァイオリン弾き」も「スウィーニー・トッド」も物足りない。声が出ていない。

柚希礼音は流石にブロードウェイの役者と比べると歌がいただけなかったけれど、ダンスは健闘。見劣りしなかった。特に「くたばれ!ヤンキース」の魔女ローラ役がセクシーで魅力的だった。

ナレーションで「興行的に失敗しても素晴らしい作品はある」と語られたのはソンドハイムの「メリリー・ウィー・ロール・アロング」のことを指しているのだろう。なんとプレビュー公演52回、本公演はたった16回でクローズとなった。凄く良い作品なんだけどね。僕はソンドハイムの中でも1,2を争うぐらい好き。日本公演の感想はこちら

「パレード」は1913年に実際にアメリカ南部で起きた冤罪事件を描くミュージカル。13歳の少女の強姦殺人事件の犯人に仕立てられたユダヤ人の青年。しかし裁判で次第に彼の無実が明らかとなり、釈放も間近というときに根強い人種偏見を持つ男たちの手で留置場から連れ出され、首を括られる。映画「死刑台のメロディ」(サッコ&バンゼッティ事件)のテーマに近い。題材が題材なだけに日本での上演は難しそうだが、是非観てみたい!ジェイソン・ロバート・ブラウンの音楽も心に残った。

あと「シー・ラヴズ・ミー」が懐かしかった。チェコの劇作家ニコラウス・ラズロの戯曲が原作でエルンスト・ルビッチ監督「街角 桃色の店」(THE SHOP AROUND THE CORNER)という映画にもなっている。「恋人たちの予感」「めぐり逢えたら」の脚本を書いたノーラ・エフロンは少女時代、毎年クリスマスになると両親(どちらもシナリオ・ライターで映画「回転木馬」「あしながおじさん」を脚色した)に連れられて劇場に「シー・ラヴズ・ミー」を観に行っていたという。その想い出がメグ・ライアン、トム・ハンク主演「ユー・ガット・メール」に結実した。文通が電子メールという手段に置き換わって。そんなことどもを想い出した。心暖まる素敵な小品。また再会したいな。

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2015年12月 8日 (火)

鈴木秀美のJ.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲(連日公演)

12月3日(木)、4日(金)、大阪倶楽部へ。

鈴木秀美(バロック・チェロ)で、

  • J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 全曲
    (1日目:1,3,5番 /2日目:2,4,6番)

何度も書いてきたが念のため。モダン楽器とバロック楽器の違いは、まず弦がスチール弦か、裸のガット弦を張っているかにある。スチール弦が真っ直ぐな単音(pure tone)を奏でるのに対し、ガット弦には雑みや掠れがある。それが木目のような肌触りを感じさせる。また弓の形もモダン・ボウとバロック・ボウでは異なり、後者の方が短い(故にボウイング=運弓が変わってくる)。またバロック・チェロには床に固定するエンドピンがない。チェリストの膝に挟まれて宙に浮いた状態で演奏される。

鈴木秀美は当然、ピリオド・アプローチ(時代奏法)なので、基本的にはノン・ヴィブラート。装飾的に一瞬(ほぼ1秒以内、長くて2秒)、掛けることがたまにあり。

大バッハのオルガン曲や受難曲、ミサ曲などは基本的に教会音楽であり、神への捧げ物である。また無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータも「シャコンヌ(パルティータ 第2番)」に代表されるように、崇高で、神の御座す高みを目指したものと言えるだろう。

ところが一方、無伴奏チェロ組曲はのびやかで軽快な舞曲集であり、鈴木の演奏も弾んでスキップするような印象を受ける。こちらはむしろ「人間賛歌」だなと想った。バッハの他の作品で言えば「農民カンタータ」「コーヒー・カンタータ」のような世俗カンタータに近い感じ。

しかし短調の第2番、第5番はちょっと様子が違っていて、思索的かつ瞑想的。夜更け、ひとりコーヒーでも飲みながら自らの人生を振り返っているような雰囲気を醸し出す。

また5弦で演奏することを指示された(通常のチェロは4弦)第6番は18世紀に製作されたチェロ・ピッコロで弾かれた。楽器はやや小さめで、甲高い声を持つ。これを聴きながら草原の輝きとか空の青みをイメージした。トルーマン・カポーティの小説「草の竪琴」や宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」に通じる世界だなと感じた。

ただ現在、この無伴奏ソナタ集は肩掛け(小型)チェロヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの為に作曲されたと考えられていて、僕も寺神戸亮の生演奏を聴いたことがあるのだけれど、少なくとも第6番に関してはチェロ・ピッコロよりも肩掛けチェロの音色の方が楽想に合っているなと感じた。

2日目のアンコールはチェロ・ピッコロで弾く無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番の第3楽章だった。

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2015年12月 4日 (金)

今井信子(提供)ブラームスのクラリネット&ヴィオラ・ソナタ

12月1日(火)ザ・フェニックスホールへ。

ヒェン・ハレヴィ(クラリネット、イスラエル出身)、今井信子(ヴィオラ)、キム・ソヌク(ピアノ、韓国出身)で、

  • モーツァルト:ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲「ケーゲルシュタット」
  • ブラームス:クラリネット・ソナタ 第1番
  • クルターグ:R. シューマンへのオマージュ
  • シューマン:おとぎ話
  • ブラームス:ヴィオラ・ソナタ 第2番
  • ミレーナ・ドリノヴァ(採譜)クリストフ・マラトカ(編曲):チャルダッシュ 第4番 (アンコール)

モーツァルトはのびやかで、ふくよかな演奏。

ブラームスのクラリネット・ソナタは深い音色で劇的。寂寞とした暗い情感から夢心地の極彩色まで変幻自在。

クルターグ(1926- )はルーマニア出身のハンガリー人作曲家。現代音楽なのだけど、和声の妙があって面白い。

シューマンの「おとぎ話」は微睡むメルヘン。「トロイメライ」に近い内容だと想った。滋味溢れるヴィオラと陰影に富むクラリネットの音がまろやかにブレンドされ、得も言われぬ趣があった。

ヴィオラ・ソナタはクラリネット・ソナタを作曲家自身の手で編曲したもの。渋いブラームスの曲想とヴィオラの響きがぴったり合っていた。

アンコールで演奏されたクリストフ・マラトカは1972年、プラハ生まれの作曲家。ピアノがツィンバロム(ハンガリーなど中欧・東欧地域に見られる打弦楽器を彷彿とさせる和音を奏で、民族色豊か。丁々発止のやり取りがスリリングで愉快な音楽だった。

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2015年12月 2日 (水)

007 スペクター

評価:B+

Spe

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監督にサム・メンデスが就任した前作「スカイフォール」は紛れもなくシリーズ最高傑作だった。僕のレビューはこちら。だから監督続投で期待した本作だが、些か肩透かしの感は否めない。

盛り沢山ではあるが、構成が緩い。しかしそれは本来007シリーズの特徴であり、揺り返しと言えないこともない。むしろ人間ドラマが濃密でシリアスな「スカイホール」の方が異色だったのだ。

本作で、美女と列車で移動中に敵に襲われるというエピソードは明らかに「ロシアより愛をこめて」へのオマージュである。過去の作品への目配りは色々とある。

スペクターの首領オーベルハウザーをタランティーノ映画で2度アカデミー賞に輝いた名優クリストフ・ヴァルツが演じているのだが、残念ながら少しも怖くない。むしろ大らかで愛嬌がある。これはシナリオに責任があるだろう(「イングロリアス・バスターズ」のヴァルツには凄みがあった)。例えばオーベルハウザーがボンドに選択を迫る場面がある。ビルに爆弾を仕掛けた。制限時間は3分。それまでに退避するか、それとも建物内の何処かに捕えている女を探し出すか?……これって実は「ダークナイト」でジョーカーがバットマンを試す手法と全く同じなんだよね。でもジョーカーの方が圧倒的に悪魔的であり、結果も悲劇的だ。オーベルハウザーは詰めが甘すぎ、はっきり言ってマヌケである。敵に魅力がないと萎える。

ボンド・ガールについて。「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」では殺し屋(呆気なく直ぐ死んでしまう)役を演じたレア・セドゥは美人だし文句なし。ただ、モニカ・ベルッチはどうよ!?いや、確かに妖艶な熟女だけれど、今年51歳だぜ。シリーズ史上最高齢では?何事にも限度というものがある。「マレーナ」の頃は良かったけれど、15年前の映画だからね。

あと「スカフォール」の撮影監督はロジャー・ディーキンスでターナーの絵を彷彿とさせる芸術的仕上がりだったのに対し(アカデミー賞で撮影賞にノミネート)、ホイテ・ヴァン・ホイテマに交代した「スペクター」はイマイチだった。

メンデスは映画冒頭、メキシコの「死者の日」の演出が見事だった。非常にミュージカル/オペラ的なんだよね。「オペラ座の怪人」のマスカレード(仮面舞踏会)の場面を想い出した。いきなりの長回しには度肝を抜かれた。

ちなみに彼はブロードウェイ・ミュージカル「キャバレー(再演)」をロブ・マーシャル(映画「シカゴ」「イントゥ・ザ・ウッズ」)と共同演出している。この舞台を観たスピルバーグが「アメリカン・ビューティ」のメガホンを託した(初監督作品となった)。ミュージカル「スウィーニー・トッド」はティム・バートンの手に渡る前にメンデスが映画化を模索していたし、同じソンドハイム(作詞・作曲)のミュージカル「フォーリーズ」も何年も前から映画化企画を温めている。早く彼が監督するミュージカル映画を観たい!

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2015年12月 1日 (火)

井上道義/大フィルのレニングラード

11月27日(金)フェスティバルホールへ。

井上道義/大阪フィルハーモニー交響楽団で

  • ベートーヴェン:序曲「コリオラン」
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」

僕がクラシック音楽に親しみ始めたのは小学生の頃である。しかし当初、ショスタコーヴィチは退屈だった。ユニゾンの多用も稚拙(単純)なオーケストレーションだと想った。僕にとって20世紀最高の作曲家はジョン・ウィリアムズだと信じて疑わなかったし、それは今でも些かも変わりない(「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」でジョンが6度目のアカデミー賞に輝きますように。May the Force be with him !)。

しかし後にオペラ「ムツェンクス郡のマクベス夫人」でスターリンを激怒させ、以降ソビエト共産党政府と戦い続けたショスタコの生き様を知り、次第に彼の音楽に対する見方は変化していった。

一筋縄ではいかない作曲家である。芯の部分にソビエト政府への批判があるのだが、それが表面に出ると命の危険があるのでバレないように徹底的な擬装をしている。だから分かり辛い。上っ面を漫然と聴いていただけでは絶対に真理に到達出来ない。その特徴は「アイロニー(皮肉)」「パロディ精神」「虚無感」に集約されるだろう。実にひねくれ、屈折している

「レニングラード」第1楽章半ばから登場する軍楽隊の行進はレハールのオペレッタ「メリー・ウィドウ」のパロディである。「メリー・ウィドウ」を愛したヒトラーをおちょくっているのだ。さらにラヴェル「ボレロ」のパロディにもなっている。単純なメロディの繰り返し、それが次第に大音響になることで「ナチス・ドイツは単細胞のアホ!」と哄笑している。

表面的に見ればこのシンフォニーはヒトラーのソ連への侵略、レニングラードでの攻防戦、そしてソ連の勝利を描いている。しかし、それに留まる作曲家であろうはずがない。

ベートーヴェンは変ホ長調の「英雄」交響曲でナポレオンを描き、皇帝になった彼に対する幻滅の想いを平行調のハ短調で序曲「コリオラン」に託した。民衆の英雄は権力を手に入れるやいなや豹変し、独裁者となる。「レニングラード」のドイツ軍も変ホ長調として登場し、終楽章はハ短調となる。これはヒトラーだけではなく、ソ連のレーニンやスターリンの姿をも暗示している。多層的で奥が深いのだ。

ミッキー率いる大フィルは大健闘。クラシカル・ティンパニが使用され、猛烈なテンポで荒れ狂うような激しい「コリオラン」、そして「レニングラード」では暴力的な第1楽章から、何かに駆り立てられるかのような焦燥感に満ちた終楽章まで、万全の演奏であった。

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