007 スペクター
評価:B+
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監督にサム・メンデスが就任した前作「スカイフォール」は紛れもなくシリーズ最高傑作だった。僕のレビューはこちら。だから監督続投で期待した本作だが、些か肩透かしの感は否めない。
盛り沢山ではあるが、構成が緩い。しかしそれは本来007シリーズの特徴であり、揺り返しと言えないこともない。むしろ人間ドラマが濃密でシリアスな「スカイホール」の方が異色だったのだ。
本作で、美女と列車で移動中に敵に襲われるというエピソードは明らかに「ロシアより愛をこめて」へのオマージュである。過去の作品への目配りは色々とある。
スペクターの首領オーベルハウザーをタランティーノ映画で2度アカデミー賞に輝いた名優クリストフ・ヴァルツが演じているのだが、残念ながら少しも怖くない。むしろ大らかで愛嬌がある。これはシナリオに責任があるだろう(「イングロリアス・バスターズ」のヴァルツには凄みがあった)。例えばオーベルハウザーがボンドに選択を迫る場面がある。ビルに爆弾を仕掛けた。制限時間は3分。それまでに退避するか、それとも建物内の何処かに捕えている女を探し出すか?……これって実は「ダークナイト」でジョーカーがバットマンを試す手法と全く同じなんだよね。でもジョーカーの方が圧倒的に悪魔的であり、結果も悲劇的だ。オーベルハウザーは詰めが甘すぎ、はっきり言ってマヌケである。敵に魅力がないと萎える。
ボンド・ガールについて。「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」では殺し屋(呆気なく直ぐ死んでしまう)役を演じたレア・セドゥは美人だし文句なし。ただ、モニカ・ベルッチはどうよ!?いや、確かに妖艶な熟女だけれど、今年51歳だぜ。シリーズ史上最高齢では?何事にも限度というものがある。「マレーナ」の頃は良かったけれど、15年前の映画だからね。
あと「スカフォール」の撮影監督はロジャー・ディーキンスでターナーの絵を彷彿とさせる芸術的仕上がりだったのに対し(アカデミー賞で撮影賞にノミネート)、ホイテ・ヴァン・ホイテマに交代した「スペクター」はイマイチだった。
メンデスは映画冒頭、メキシコの「死者の日」の演出が見事だった。非常にミュージカル/オペラ的なんだよね。「オペラ座の怪人」のマスカレード(仮面舞踏会)の場面を想い出した。いきなりの長回しには度肝を抜かれた。
ちなみに彼はブロードウェイ・ミュージカル「キャバレー(再演)」をロブ・マーシャル(映画「シカゴ」「イントゥ・ザ・ウッズ」)と共同演出している。この舞台を観たスピルバーグが「アメリカン・ビューティ」のメガホンを託した(初監督作品となった)。ミュージカル「スウィーニー・トッド」はティム・バートンの手に渡る前にメンデスが映画化を模索していたし、同じソンドハイム(作詞・作曲)のミュージカル「フォーリーズ」も何年も前から映画化企画を温めている。早く彼が監督するミュージカル映画を観たい!
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