ミュージカル「スコット&ゼルダ」(千秋楽)と村上春樹
11月8日(日)新歌舞伎座へ。「スコット&ゼルダ」を鑑賞。東京に続く大阪公演は2回のみで、この日が大千秋楽だった。
小説「グレート・ギャツビー」を書いたスコット・フィッツジェラルドとその妻ゼルダ・セイヤーを描くミュージカル。作曲はフランク・ワイルドホーン(「ジキル&ハイド」「スカーレット・ピンパーネル」「ルドルフ 〜ザ・ラスト・キス〜」「モンテ・クリスト伯」「MITSUKO 〜愛は国境を超えて〜」「デス・ノート」)、台本・作詞はジャック・マーフィ(「ルドルフ」「モンテ・クリスト伯」「MITSUKO」「デス・ノート」)。
"Waiting for the Moon"というタイトルで2005年ニュー・ジャージー州で初演され、2012年に"Zelda"というタイトルに変えられノース・カロライナで再演された。今回の日本初演が3番目のプロダクションということになる。
ウエンツ瑛士は1994年劇団四季のミュージカル「美女と野獣」チップ役で役者デビューを果たした。当時9歳。その同じ舞台でヒロイン・ベルを演じていたのが濱田めぐみ。20年ぶりの共演となった。
スコット・フィッツジェラルド夫妻の話なんか、一体誰が興味あるんだ?と想ったが、意外にもよく客が入っていた。考えてみればアメリカ人よりも日本人の方が彼らに関心があるのかも知れない。それは村上春樹の存在が大きいだろう。僕自身、「グレート・ギャツビー」の真の面白さを知ったのは村上春樹の翻訳を読んだからだし、短編「バビロンに帰る」など村上の「ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック」には随分お世話になった。バズ・ラーマン監督がレオナルド・ディカプリオ主演で「華麗なるギャツビー」最映画化を企画した際、スタジオ首脳部は「なんで今さらスコット・フィッツジェラルドを?」と難色を示したが、ラーマンが「日本ではあのハルキ・ムラカミが翻訳を手がけているんだぞ」と説得したというのは余りにも有名な話である。
スコットとゼルダは「痛いふたり」である。狂騒の1920年代《ジャズ・エイジ》に時代の寵児となり、《ロスト・ジェネレーション》の旗手に祭り上げられた彼らは「痛いアメリカ人」を象徴する存在だ。だからアメリカ人の観客としては自分たち恥部をわざわざ好き好んで見たくないという気持ちがあるのではないか?故に本作はブロードウェイに進出することが叶わず、地方都市(片田舎)での上演に甘んじてきた。それが我が国に受け入れられたことの不思議。だって天下のトニー賞で最優秀ミュージカル作品賞を受賞しながら日本で上演されていない作品って沢山有るんだぜ(「ビリー・エリオット/リトル・ダンサー」とか「The Book of Mormon」「Fun Home」などなど)。
スコットとゼルダのソロとデュエット、そしてアンサンブルの合唱/群舞の繰り返しで、構成がいささか単調なのが弱点だが、それでもなんだか切なくて味わい深い愛すべき作品である。楽曲も良い。話が重たいので繰り返しの鑑賞はしんどいけれど。再演があればまたぜひ観たい。
ウエンツは容姿からしていかにもフィッツジェラルドではまり役。歌も及第点。濵田のパフォーマンスに文句はないのだが、「アメリカで最初のフラッパー」と呼ばれたゼルダにしては地味な印象を拭えない。ウエンツとの歳の差も気になったし、この役はもっと若い娘のほうが好ましい。
あと何役もこなした中河内雅貴がイケメンで、ダンスもダイナミックで切れがあった。いいね!
余談だが僕は村上春樹(訳)の「夜はやさし」(Tender Is the Night)が出版されることを長らく待ち続けている(現在どういう状況かはこちらのブログに詳しい)。
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