ヴァンスカ/読響のシベリウス
11月21日(土)ザ・シンフォニーホールへ。オスモ・ヴァンスカ/読売日本交響楽団で、
- シベリウス:交響詩「フィンランディア」
- ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番
(独奏:リーズ・ドゥ・ラ・サール) - シベリウス:交響曲 第2番
ヴァンスカといえばスウェーデンのBISレーベルに夥しいシベリウスの交響曲・管弦楽曲(ほぼ全て?)をラハティ響とレコーディングしたことで知られている。特に交響曲第5番(1915年原典版)とヴァイオリン協奏曲(1903-04年初稿版)のCDは衝撃的だった。
東京では3日間で交響曲1・2・5・6・7番が聴けるプログラムが組まれており、大阪は「名曲コンサート」仕様になっていることが非常に残念だ。どうせなら後期の作品が聴きたかった。シベリウス・イヤーの今年、関西で演奏されるのは1・2番ばかり(唯一の例外が藤岡/関西フィルの6番)。もうウンザリ。
「フィンランディア」でヴァンスカはファゴット・チューバなど低音部を強調。ロシアからの抑圧を描く重々しい序奏は音をグッと押し付ける感じ。それが後半になると開放される。
ラフマニノフはピアノが力強い打鍵でロシアの土の匂いがする。リーズは二の腕が逞しい。第1楽章はゆったりしたテンポでじっくり弾き、第3楽章は一転して快速球で爽やかだった。アンコールはドビュッシー:亜麻色の髪の乙女。粒だった音が美しい。
シベリウスは1900年に三女キルスティをチフスで亡くし、若い頃からの飲酒癖・浪費癖がますます深刻となっていった。そんな中、1901年のイタリア旅行中に交響曲第2番は作曲された。シベリウス一家が豊かな自然に囲まれたアイノラ荘に転居するのは1904年のことである。
第1楽章は丁寧で明朗。イタリアの陽光が感じられる。第2楽章は全休止(ゲネラルパウゼ)をたっぷりとり、行間に語らせるという印象。僕はそこに作曲家の慟哭を聴いた。第3楽章の荒々しいスケルツォはキレキレの演奏で作曲家の心の葛藤を描く。オーボエが静かに歌うトリオは慰めに満ち、その対比が鮮明。そして第4楽章で漸くpositive thinkingとなり、最後は波のうねりとなった。やっぱり餅は餅屋(シベリウスの交響曲はフィンランドの指揮者)だなと想った。
今回聴きながらつくづく感じたのは、この第2番はシベリウスの「人間臭さ」が如実に現れた作品だということ。《苦難を乗り越えて歓喜へ!》というコンセプトはベートーヴェンの5番を髣髴とさせる(第3、4楽章が切れ目なく続くのも一緒)。吹奏楽作品で言えばジェイムズ・バーンズの交響曲第3番も曲想(構成)が同じだ(第3楽章は幼くして亡くなった娘を追悼する「ナタリーのために」)。つまり物語性があって「判り易い」。だから7つある交響曲の中で一番人気なのだろう。これが第3番以降になるとフィンランドの自然が中心となり、第7番に至っては人間の姿が完全に消えてしまう。真のシベリウス・ファン(例えば作曲家・吉松隆)は後期交響曲の方を好む人が圧倒的に多いんだけどね。一般のクラシック音楽愛好家との間には深い溝がある。
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