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ソンドハイムのミュージカル「パッション」日本初演

11月14日(土)兵庫県立芸術文化センター中ホールへ。ミュージカルの巨匠スティーブン・ソンドハイムの「パッション」日本初演を観劇。

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この作品は1994年のトニー賞で最優秀ミュージカル賞、脚本賞(ジェームズ・ラパイン)、楽曲賞、主演女優賞(ドナ・マーフィー)の4部門に輝いた。因みにこの年にミュージカル作品賞の候補になっていたのは「シラノ・ザ・ミュージカル」や「美女と野獣」などで、最優秀ミュージカル演出賞を受賞したのは「回転木馬」(リヴァイヴァル)のニコラス・ハイトナーだった。

ここで僕が今までに生の舞台で観たソンドハイム作品を整理しておこう。作詞のみを担当した「ウエストサイド物語」を劇団四季と宝塚星組(1999)で、作詞・作曲を担当した「リトル・ナイト・ミュージック」を1999年に近鉄劇場で(出演:細川俊之、麻実れい、安寿ミラ、演出:ジュリア・マッケンジー、訳詞:湯川れい子、音楽監督・指揮:宮川彬良)、「カンパニー」を1999年にシアター・ドラマシティで(出演:山口祐一郎、鳳蘭、麻乃佳世、石川禅、シルビア・グラブ、演出:小池修一郎)、「太平洋序曲」を2000年(初演)、2002年に新国立劇場で(出演:国本武春ほか、演出:宮本亜門)、「Into the Woods」を2004年(初演)に新国立劇場(魔女:諏訪マリー、赤ずきん:神田沙也加、シンデレラ:シルビア・グラブ、演出:宮本亜門)、2006年7日2日に兵庫芸文で、「スウィーニー・トッド」を2007年、11年13年にシアターBRAVA !で(出演:大竹しのぶ、市村正親、演出:宮本亜門)、「メリリー・ウィー・ロール・アロング」初演を2013年にシアター・ドラマシティで(出演:小池徹平、柿澤勇人、演出:宮本亜門)観ている。他にDVDやBSで観たことがあるのが「ジョージの恋人(サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ)」(84)とアンソロジー「Putting It Together」(93/99)。今考えると2009年に石丸幹二、戸田恵子、諏訪マリーらが出演し、宮本亜門が演出した「サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ ~日曜日にジョージと公園で~」は東京まで観に行くべきだったと後悔している(関西での上演はなかった)。

「パッション」は1980年のイタリア=フランス合作映画「パッション・ダモーレ」に基づいたミュージカルである。これにはさらに原作があり、1869年にミラノの雑誌に連載されていた「フォスカ」という小説。作者のタルケッティは連載中の29歳で亡くなっており、肺結核とチフスに罹患していた。その病の影・死の恐怖が作品に反映されている。美しい愛人もいる若い兵士ジョルジオが、転属先で上官の従兄弟の醜女フォスカに追い掛け回されるというお話。Passion(情熱/受難)のみならず、Obsession(妄執)の物語でもある。フォスカの行為はある意味ストーカー的であり、僕は映画「危険な情事」のグレン・クローズのことを想い出した。

ジョルジオを井上芳雄、その愛人クララを和音美桜、フォスカをシルビア・グラブが演じた(考えてみれば上述したようにシルビア・グラブは何度もソンドハイム作品に出演している)。演出は新国立劇場芸術監督の宮田慶子、音楽監督は島健(CHESS THE MUSICALも担当)。

新国立劇場のプロダクションなのでパンフレットが800円と安く、僕としては珍しく購入した。普段ミュージカルのパンフって1500円以上するからバカバカしくて手を出さないんだよね。閑話休題。

よく「男は顔じゃない、中身だ」と言われる。少女漫画が原作で現在映画が公開中の「俺物語!!」もそういう話だ。しかし「女は顔じゃない、中身だ。気心だ」という人は誰もいない。逆は成り立たないのである。世界は残酷だ(by ミカサ・アッカーマン)。「ロミオとジュリエット」を筆頭に、古今東西《一目惚れ》の物語は数限りなくある。しかしそれって《見た目だけ》だよね?要するに《容姿原理主義者》が世の中(特に男たち)の大勢を占めているのである。この問題に鋭く切り込み、《真実の愛》とは何か?を問いかけるのが「パッション」の奥深さなのだ。

今回つくづく感じたのはソンドハイム作品における台本の完成度の高さだ。これは誰と組んだ時も変わらない。やはりソンドハイムの審美眼がどの作品にも浸透しているからだろう。そして「パッション」や、殺人鬼を主人公にした「スウィーニー・トッド」、《本当は恐ろしいグリム童話》的な「Into the Woods」など、内容が極めてユニークである。一見ミュージカルに相応しくないだろうというものを取り上げる冒険心が天晴だ。

「パッション」の楽曲は時にイタリア・オペラのように甘美で、時にアルバン・ベルクのように無機質で奇っ怪な様相を呈する。変幻自在、これぞ匠のなせる技。

観劇中に「パッション」はソンドハイムの最高傑作ではなかろうか?と想ったのだが、考えてみれば同じことを「太平洋序曲」や「スウィーニー・トッド」、「メリリー・ウィー・ロール・アロング」の時にも感じたのだった。

宮田慶子の演出は奥行きの使い方が上手い。舞台手前/中ほど/奥の三層に分かれて芝居が展開され、くっきりとした遠近法が浮かび上がる。宝塚歌劇団の上田久美子に匹敵する、女性演出家のフロントランナーだと認識した。

井上芳雄は彼がデビューした東宝「エリザベート」から観ているが、最初は「なんだかナヨナヨしていてゲイっぽいな。声量もないし」と余り好印象ではなかった。女性たちが彼を《ミュージカル界のプリンス》ともてはやす心情が、僕には全く理解不能だった。「モーツァルト!」もダブル・キャストの中川晃教(アッキー)と比べると、見劣り/聴き劣りがした。その彼が、今回は逞しい青年に成長しており、ちょっと驚いた。歌も力強く、進化している。そして意外にも(?)軍服姿が格好良かった。

和音美桜はそもそも役柄が個性的ではないので損しているが、歌が上手く、過不足なし。

シルビア・グラブはさすがベテランの味わい。クセのある偏執狂的役どころを不気味に、しかし嫌悪感を感じさせる一歩手前の絶妙なさじ加減で抑え、最後はフォスカの純真な想いが観客にひたひたと伝わる最高のパフォーマンスであった。今年の最優秀ミュージカル主演女優賞(私選)は彼女で決まりだね。ちなみに最優秀ミュージカル作品賞は「デス・ノート」、最優秀楽曲賞は「デス・ノート」のフランク・ワイルドホーン、最優秀主演男優賞は「デス・ノート」の浦井健治、最優秀助演女優賞は「デス・ノート」の唯月ふうか、最優秀助演男優賞は「スコット&ゼルダ」の中河内雅貴、最優秀台本賞は宝塚歌劇「星逢一夜」の上田久美子、最優秀演出賞は「パッション」の宮田慶子に贈りたい。

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