「バクマン。」こそ、米アカデミー外国語映画賞日本代表に選ぶべき。
評価:A+
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時めいた。青春映画の大傑作。今年の日本映画ベストワンは本作か、「幕が上がる」にするか悩むところだ。
原作・大場つぐみ、作画・小畑健という「DEATH NOTE」コンビの漫画を基に「モテキ」の大根仁が監督を務めた。僕はTV版&映画版「モテキ」が大好きなんだけど、「バクマン。」はモテキを超えたね(自身を持って断言)。
大根作品の常連、新井浩文(漫画家)やリリー・フランキー(週刊少年ジャンプ編集長)が相変わらずいい味出しているが、ジャンプの編集者を演じる山田孝之や主人公の死んだ叔父さんを演じる宮藤官九郎らも秀逸。適材適所。大根監督って脇役(サブキャラ)を生き生きと、魅力的に描くことに長けている。あとライバルの天才高校生漫画家・新妻エイジ役の染谷将太が猫背で、喋り方も完全に映画「デス・ノート」でLを演じた松山ケンイチのパロディになっていて可笑しかった。
バクマン。はオレにとってのマルサの女です。みたいな話を今度聞いてくださいー。RT @itoi_shigesato: いまツイートしたけど、「バクマン」最高でした。若いときに「真夜中のカウボーイ」を観たときくらいドスーンと感じてます!
— 大根仁 (@hitoshione) 2015, 10月 3
「マルサの女」は国税局査察部とはどんな部署で、査察のやり方はどうか、脱税する人間の手口とは?といったことを事細かく見せる映画である。この方法論は周防正行監督の「ファンシイダンス」「しこふんじゃった。」「それでもボクはやってない」などで生かされている(周防監督は「マルサの女をマルサする」「マルサの女IIをマルサする」というメイキング映画を撮っている)。で「バクマン」は2人で漫画を書く時、どういう役割分担をするか、ネームとは何か、ペンはどう使い分けるか、編集者の役割は何か、編集会議ではどんな内容が話し合われるのかといった通常我々が知り得ない、様々な情報を教えてくれる。とても勉強になる。
冒頭で「東宝」のマークが出てくると、サッ、サッという音が聞こえてくる。やがてこれが紙に鉛筆を走らせる音だと判る。本作は「音の映画」である。ペン入れの音、それが次第にリズミカルになって音楽となる。まるでオフ・ブロードウェイ・ショー"STOMP"だ。豪快な音 vs. 繊細な音、ペン入れの音も漫画家によって個性が様々だ。また主人公の高校生二人組(佐藤健、神木隆之介)とライバルの染谷将太が等身大のペンを持ち、書いた漫画を次から次へと相手に投げ飛ばすバトル・シーン(イメージ)が iPhoneのスワイプみたいでクール!格好いい。「ペンは剣よりも強し」という格言(17世紀フランスのリシュリュー枢機卿の言葉)を想い出した。この映画にはワクワクするような躍動感がある。
あと「新人漫画家が集まったらキャベツの炒めものを食べるのがトキワ荘以来の伝統だ」という台詞が痺れた(出典は藤子不二雄A「まんが道」)。きっちりと漫画史への目配りがある。
ところで今年、米アカデミー外国語映画賞日本代表に選ばれたのは「百円の恋」。選考委員に申し上げる。アホか。お前らの目は節穴か?
賭けてもいい。「百円の恋」はノミネート5本にすら残れない。昨年のキネマ旬報ベスト・テンでは第8位だぜ!?日本でテッペン取れない映画が国際舞台で勝負できるはずないだろう?そんなことはサルでもわかる。大体、この映画を観た日本人って何人いる?殆どの人が知らない筈だ。
外国語映画賞を受賞した「おくりびと」やノミネートされた「たそがれ清兵衛」には日本固有の文化が息づいていた。描かれていることが外国人にとっては新鮮だったろう。その目新しさが「バクマン。」にはある。漫画週刊誌に穴を開けることなく連載することの大変さ、毎週アンケートで作品の順列が決められ、トップテンから外れると瞬く間に連載終了となる厳しい世界。「バクマン。」こそクール・ジャパンの真髄であり、こういう映画こそどんどん海外に紹介してゆくべきだ。僕はそう確信する。
ただ本作唯一の欠点はヒロイン役の小松菜奈があまりにも綺麗すぎて、声優を目指しているという設定に些かのリアリティも感じられなかったということかな。
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