映画「この国の空」
評価:B+
芥川賞作家・高井有一による原作小説は谷崎潤一郎賞を受賞している。この映画を観たいと想った切っ掛けは、滅法面白かった「さよなら歌舞伎町」を書いた荒井晴彦が脚色/監督だったからである。荒井がメガフォンを取るのは18年ぶりだそう。公式サイトはこちら。
荒井晴彦はそもそもシナリオライターとしてのデビューが日活ロマンポルノである。その後も「ひとひらの雪」「ヴァイブレータ」など、性愛と切っても切れない作品を書き続けてきた。
「この国の空」の前半部は第二次世界大戦下の東京を舞台に、極めて淡々とした日常生活が丁寧に描かれる。「エッ、これって本当に荒井のホン?」と肩透かしを食らった印象。柄にもなく生真面目なのだ。ところが!上映時間の2/3を過ぎた辺りから荒井の本性が明らかになってくる。映画が濡れてきた。それまでは観客をアッと言わせるための前振り、仕込みだったのである。
主演は二階堂ふみと長谷川博己。二階堂の母を工藤夕貴、叔母を富田靖子が演じている。で工藤夕貴が川で沐浴するシーンがあり、彼女はカメラに背中を向けているのだが、ワキ毛が見えてそれが何ともエロい。これぞ荒井晴彦の真骨頂。
そして二階堂が庭先の桶の水で体を洗い流すシーンが登場し、一糸まとわぬ姿のバックショットが映し出される。「週刊ポスト」によると、ここで荒井晴彦が「付けワキ毛」を指示したところ、二階堂が猛烈に拒否したそう。監督としては“終戦直前にワキ毛処理をしているわけがない”というリアリティを追求したかったのだが、二階堂が“あんまりだ”と頑なに拒んだらしい。
いや、観客の立場から言わせてもらうなら、20歳の二階堂にその要求はあまりに酷というもの。いくらなんでも可哀想。美しい場面だし、そんなものは不要だと想った。ベテランの工藤が大人のエロスの部分を担ってくれているのだから、それで十分じゃないか。ムキになるなよ荒井。まぁネタ(ウラ話)としては可笑しいけれど。
二階堂は少女から女へ変貌してゆく過程を巧みに演じた。あと本作では意図的に彼女のセリフ回しが楷書的(棒読み口調)で、1950年代の、例えば成瀬巳喜男監督の映画における高峰秀子とか原節子などを想い出した。
また二階堂演じるヒロイン里子の最後のモノローグが効いている。ドキッとした。エンドロールで茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」が朗読されるのも作品の雰囲気に馴染んでいて、違和感はなかった。
CM「お湯をかける少女」でブレイクした工藤夕貴を初めて映画で観たのが「台風クラブ」(1985)、彼女が14歳の時。それから三谷幸喜が脚本を書いたフジテレビの深夜ドラマ「子供、欲しいね」(1990)も大好きだった。今はDVD-BOXを持っている。富田靖子は彼女のデビュー作「アイコ16歳」(1983、撮影当時14歳)を映画館で観てときめいた。僕が高校生の時だった。そして僕が大学1年生の時、彼女の代表作「さびしんぼう」が公開された。映画でふたりを見るのは本当に久しぶりで(工藤は「SAYURI」以来)、とても懐かしかった。大人になったね。それから工藤は今井正監督「戦争と青春」(1991)で主演しているから、東京大空襲を題材にした映画はこれで2本目となる。
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