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2015年9月 7日 (月)

映画「ふたつの名前を持つ少年」とパンドラの匣

評価:A

ドイツ・フランスの合作。公式サイトはこちら

2

第2次世界大戦中、ナチス・ドイツ支配下にあったポーランドが舞台となる。8歳でゲットーから脱走したユダヤ人少年の物語であり、作品内ではポーランド語、ドイツ語、イディッシュ語、ヘブライ語、スラブ語の5か国語が話される。まぁこれがハリウッド映画なら(例えば「シンドラーのリスト」)全編英語で押し通されるわけで、さすがヨーロッパは律儀だなと感心した。

A

原題はLAUF JUNGE LAUF(英題:RUN BOY RUN)、原作の日本語訳が「走れ、走って逃げろ」(岩波少年文庫)。実話である。主人公のモデルとなった人物が映画の最後に登場する。原作を書いたウーリー・オルレブは1931年ポーランド・ワルシャワ生まれのユダヤ人。“小さなノーベル賞”とも言われる国際アンデルセン賞作家賞を受賞している。

ペペ・ダンカート監督はドイツ生まれで「Schwarzfahrer」(黒人の乗客)(93)で米アカデミー賞短編実写賞を受賞した。

実は主役の少年は双子が分担して演じている。ドイツでは子役がセットに居られるのは5時間、撮影は3時間までと定められていたからだ。僕がこの事実を知ったのは観終えてからであり、入れ替わりに全然気が付かなかった!

前評判は何も知らずに映画館に足を運んだ。予告編(公式サイトをご覧あれ)がとても美しかったからである。自分の直感を信じて大正解だった。

映画冒頭、倒木の横に寝ている少年の映像からたちまち魅了された。枯れ葉散る情景の俯瞰ショットや、少年が教会の鐘を鳴らす場面も詩情溢れていて実に素晴らしい。過酷な状況下に、それでも必死に生きようとする彼の姿に心打たれた。

僕は本作を観ながら、ギリシャ神話のパンドラの匣(=はこ、本来は壺)のことを想い出した。パンドラが蓋を取ると、中から疾病、戦争、貧困、憎悪、嫉妬、飢餓、瀆神(とくしん)、残虐、好色……ありとあらゆる悪が飛び散った。第二次大戦中のドイツやポーランドの状況が正にそれに該当する。諸悪が飛び散るのを見て慌ててパンドラは蓋を閉じた。辛うじて箱の底に一つのものが残った。すなわち希望であった。……その希望とは、少年がユダヤ人であると気が付きながらも危険を犯して助けてくれた、数多くの人々のことである。ヒトラーやナチス・ドイツの連中は犬畜生にも劣るならず者たちだが、人間捨てたもんじゃない。そう想った。

小学校4年生以上、そして中学生の少年少女達にこそ、是非観てもらいたい映画である。

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