窃盗映画「あの日のように抱きしめて」とクルト・ヴァイル
評価:C-
ドイツ映画である。監督は「東ベルリンから来た女」でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞したクリスティアン・ペツォールト。公式サイトはこちら。
ナチスのアウシュヴィッツ強制収容所から生還した女。顔に大怪我を負い、整形手術をして夫の元に帰るが彼は気が付かない。この導入部は映画化もされた安部公房「他人の顔」を髣髴とさせる。
「三文オペラ」で名高いクルト・ヴァイルの名曲「スピーク・ロウ」が冒頭からジャズ・アレンジで流れる。実に心地よい。ヴァイルは1900年にドイツに生まれたユダヤ人。彼が音楽を担当した舞台作品の上演や音楽会は、ナチス当局による暴力的な干渉のため中断せざるを得なくなり、1933年遂に亡命した。パリ経由でニューヨークに渡った彼はミュージカルを手掛けるようになる。「スピーク・ロウ」は1943年に初演されたミュージカル「ワン・タッチ・オブ・ヴィーナス」のナンバー。宝塚花組がバウホールで上演したこともある。
ただその後の映画の展開がヒッチコックの「めまい」そっくりで呆れ果てた。デヴィッド・フィンチャーの「ゴーン・ガール」も「めまい」へのオマージュだったが、こちらはオマージュというレベルじゃない。猿真似・窃盗である。「めまい」をダグラス・サーク風メロドラマに仕立てましたよという体(てい)だ。因みにダグラス・サークはドイツの映画監督。ユダヤ人だった彼はナチスの弾圧を逃れ1937年にアメリカに亡命、ハリウッドで活躍した。
また本作の主人公はアメリカ兵相手のクラブ「Phoenix(=不死鳥、これが映画の原題)」で夫に再開を果たすのだが、そこのショーの雰囲気はボブ・フォッシーの「キャバレー」(舞台はナチス・ドイツ政権下のベルリン)そっくり。借り物ばかりで、一体この監督の個性は何処にあるの??と頭の中が疑問符だらけになった。
あ〜あ、予告編で期待していたのにがっかりだよ。
唯一収穫だったのはロケット発射時にするカウント・ダウンの起源がフィリッツ・ラング監督のドイツ映画「月世界の女」(1929)だと判ったことかな。
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