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2015年9月 2日 (水)

我が生涯、最愛の映画(オールタイム・ベスト)について語ろう。(その2)

僕のオールタイム・ベストの一覧は(その1)に書いた。こちらをご覧あれ。

今回は16位以降について語ろう。


冒険者たち」 仏

A

フィルム・ノワール(虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画)なのに青春映画でもあるという不思議なバランスを保った作品。原作・共同脚本をジョゼ・ジョヴァン二が担当しているが、この人は第二次世界大戦中レジスタンス運動を支援し、戦後はギャングに加わって投獄され死刑宣告を受けるも恩赦を受けて免れたという経歴を持つ。ヒロイン:レティシアを演じたジョアンナ・シムカス(シドニー・ポアチエと結婚し若くして芸能界を引退)の代表作でもある。監督のロベール・アンリコは本作の翌年にシムカス主演で「若草の萌えるころ」を撮っており、これも詩情あふれる佳作。好きだなぁ。しかしアンリコが1975年に撮った「追想」は陰惨な映画で、映画評論家・町山智浩氏の著書「トラウマ映画館」に取り上げられている。僕も中学生の頃これを観て衝撃を受けた。もう一生観たくない。閑話休題。

それからフランソワ・ド・ルーベが作曲した口笛による「レティシアのテーマ」が最高!ホンダの車「シビック」のCMで使用され、映画ファンの間で話題になったこともある。またサントラEPのB面は「愛しのレティッシア」をアラン・ドロンが唄っている!なおこのヴァージョン、映画では使用されていない。

Laetitia

 

シベールの日曜日」 仏

Cybele

静謐な抒情。孤独で純粋な魂と魂との、ほんの束の間の邂逅。しかし周囲の曇った目にそれは不純と映る。悲劇の季節。水墨画のような白黒ワイドスクリーンの映像が美しい。心が震えるよう。本作の後でナタリー・ポートマンの出世作、リュック・ベッソン監督の「レオン」をご覧あれ。話が同じだから。


恋のエチュード」 仏

Otona

フランソワ・トリュフォーの映画を1本選ぶのは難しい。孤独な少年の魂の彷徨を描く、痛ましい「大人は判ってくれない」も素敵だし、感受性豊かな処女短編「あこがれ」も大好き。「恋のエチュード」は男1人と女2人の三角関係を描くが、これは「突然炎のごとく」の男2人女1人と対になっている。原作者も同じ。15年が経過したエピローグでロダン美術館を訪ねた主人公がタクシーの窓ガラスに映る自分の姿を見て言うモノローグが心に突き刺さる。

トリュフォーが役者として出演したスティーヴン・スピルバーグ監督「未知との遭遇」も是非お勧めしたい。あれは壮大な宗教映画である。旧約聖書「出エジプト記」を下敷きにしており、劇中にセシル・B・デミル監督の「十戎」も登場。つまりマザーシップ(UFO)=神なのである。


禁じられた遊び」 仏

Jeux_interdits

小学生の頃から観ていて、深い感銘を受けた。学校の道徳の先生とのやりとりは《私家版ナショナル・ストーリー・プロジェクト》に書いた。下の記事をどうぞ。

あと有名なギターのテーマは公開当時、演奏しているナルシソ・イエペス作曲と謳われていた。現在ではスペイン民謡「愛のロマンス」として知られている。このミスリードはイエペス本人が意図的に行ったのかどうか、非常に興味深い点である。


甘い生活」 伊

La_dolce_vita

この映画を初めて観たのが高校生のころ。さっぱり意味が判らなかった。3時間が苦痛で苦痛でしょうがなかった。それは多分、「桐島、部活やめるってよ」に戸惑う、現代の高校生たちに似ているだろう。40歳くらいになって、漸く描かれていることの意味が全て理解出来た。映画を観る「適齢期」というのは確かにあるのだ。

ローマを舞台に描かれる生きることの意味を見失った富裕層の人々の浮かれた、虚無的な日々。「…次第に滅びつつあるんですよ。生気というものがない。あるのは退屈です。倦怠です。無為です。ただ時間を使い果たしていくだけです。…人間も町も滅びて行くんですね。廃市という言葉があるじゃありませんか、つまりそれです」(福永武彦の小説「廃市」より)

映画の終盤で主人公のマルチェロは天使のような少女に出会う。浜辺に打ち上げられる、腐敗し悪臭を放つ怪魚はマルチェロたちの暮らしそのものを象徴する。川向うから少女が何か叫ぶ。しかしマルチェロには何も聞こえない。彼(ら)は天国から隔絶された世界(=地獄)に生き続けるしかないのである。

パパラッチという言葉はこの映画から生まれた。そしてクリスチャン・ディオールからは「甘い生活」(原題:La dolce vita)という香水が発売された。

フェリーニではあと、「道」と「カビリアの夜」がお勧め。


赤い靴」 英

映画史上、もっとも美しいカラー映画を5本挙げろと言われたら、僕は「赤い靴」「天国の日々」「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」「ライアンの娘」を選ぶ。ジャック・カーディフの撮影が素晴らしい。因みに白黒映画なら「第三の男」「シベールの日曜日」「マンハッタン」かな。

Red

あと芸術家として生きる道の厳しさをこの映画から学んだ。

「コーラスライン」はブロードウェイでオーディションを受ける若者たちを描いたミュージカルだが、そのうち数人がダンスを始める切っ掛けとなったのが幼い頃「赤い靴」を観たことだと語る場面が非常に印象深い。

 

E.T.」 米

封切りの映画館で観たのは僕が高校生の時だった。試写会を含めて7回映画館で観た。家庭用ビデオが漸く普及し始めた時代で、レンタル店なんか存在しなかった。因みに日本ビデオ協会が正式にビデオ・レンタル制度をスタートさせたのが1983年4月21日、「E.T.」の公開が1982年12月である。あれから33年、ビデオ(VHS vs. β) → 8mmビデオ → レーザーディスク vs. VHD → DVD → ブルーレイ vs. HD-DVDを経てブルーレイの完勝 と時代は目まぐるしく変遷してきた(遠い目)。映画自体もフィルム上映からデジタル上映に完全に切り替わってしまったので、大画面という以外映画館で観るメリットが完全に無くなってしまった。今後「E.T.」鑑賞回数の記録が塗り替えられることはないだろう。ちょっと寂しいね。

《20周年記念特別版》では少年たちを追う警官たちが持つ拳銃やショットガンをトランシーバーに置き換える画像処理がされている。そりゃないぜ!?僕は断固、オリジナル版を支持する。

ジョン・ウィリアムズの音楽が素晴らしい。あとエリオット少年の妹を演じたドリュー・バリモアが可愛い。スティーヴン・スピルバーグは子供の演出が際立って上手い。それはトリュフォーに言わせれば、「彼自身が少年だから」である。少年の心を忘れないーこれがキーワードである。

初期のスティーヴンは「父親不在」の映画ばかり撮ってきた。「E.T.」もそうだし、「未知との遭遇」は父(リチャード・ドレイファス)が家族を捨て、マザーシップに乗って宇宙に飛び立つお話である。彼がハイスクールの頃に両親は離婚した。「父親に捨てられた」という気持ちが強かったのだろう。電気技師だった父アーノルドとの想い出(6歳の頃、真夜中に叩き起こされ車で大流星群を見に連れて行かれたこと)は「未知との遭遇」に色濃く反映されている。その後、父と和解(離婚の真の原因は母親の浮気だった。そのことについて父は長らく口を閉ざしていた)を経て、スティーヴンが描く父親像は優しいものに変化していった。「インディー・ジョーンズ/最後の聖戦」のショーン・コネリー、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のクリストファー・ウォーケンがそれに該当する(追いつ追われつのトム・ハンクスとデカプリオの関係も「擬似親子」と言えるだろう)。このことはスティーヴン自身が父親になったということも無関係ではあるまい。

また「E.T.」には空を飛ぶことへの憧れが描かれているが、アーノルド・スピルバーグは第二次世界大戦にインドで米爆撃隊の通信隊長を務めていた。「太陽の帝国」では零戦に心酔する少年(クリスチャン・ベール!)が主人公となり、「1941」では戦闘機のコックピットでしか欲情できない女(←はっきり言って変態!)が登場するのも、父親への思慕の情からであろう。


初恋のきた道」 中

Road

兎に角、チャン・ツィイーが可愛い!それに尽きる。映画館で観た時、滂沱の涙を搾り取られた。悔しい……。チャン・イーモウ監督の「」を意識した絵作りも見事である。コン・リー主演の初監督作品「いコーリャン」の時からそうだよね。

 

ジェニーの肖像」 米

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幻想映画の大傑作。白黒映画なのだけれど、一瞬カラーになる。正に奇跡の瞬間で、涙なしには観られない。プロットは詳しく述べないが、山田太一の小説(映画化もされた)「飛ぶ夢をしばらく見ない」は「ジェニーの肖像」の真逆パターンである。勿論、パスティーシュだ。

P2_3

アカデミー賞で特殊効果賞を受賞。また撮影賞(白黒)にノミネート。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」「亜麻色の髪の乙女」「アラベスク第1番」などをアレンジしたディミトリ・ティオムキンの手腕も卓越している。

製作をした大プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニック(「キング・コング」「風と共に去りぬ」「レベッカ」)はこの映画が公開された翌年、ヒロインを務めたジェニファー・ジョーンズと結婚している。


フィールド・オブ・ドリームス」 米

If you build it, he will come.


素晴らしき哉、人生!」 米

Itsawonderfullife

アメリカではクリスマス・シーズンに必ずこの映画がテレビ放送され、家族で観る習慣が定着している。心温まるフランク・キャプラ監督の名作。人生、いつからだってやり直しがきくんだよと教えてくれる。


雨に唄えば」 米

Singinintherain

タップダンスの雄(ゆう)といえばエレガントなフレッド・アステアとアクロバティックでダイナミックなジーン・ケリーの二人に止めを刺す。で振付・監督もこなすジーン・ケリーの代表作が「雨に唄えば」と「巴里のアメリカ人」である。「雨に唄えば」の妙味は可笑しなドナルド・オコナーと、活きがよくてキュートなデビー・レイノルズとケリー3人のアンサンブルの見事さにあると言えるだろう。

因みにデビーは「スター・ウォーズ」レイア姫こと、キャリー・フィッシャーのお母さん。

またハリウッドがサイレント(無声)からトーキーに移行する時期のスタジオの混乱ぶりをコミカルに描いた脚本(ベティ・コムデンとアドルフ・グリーンの名コンビ)がパーフェクトな面白さである。


太陽の少年」 香港・中

In

夏、少年たち、彼らがあこがれるひとりの少女……岩井俊二監督「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」と共通項が多い青春映画の傑作である。文化大革命下の北京が舞台なのに、イタリア・オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲が何と似合うことだろう!


殺人の追憶」 韓

Tsuioku

紛れもない韓国映画の金字塔。ヒリヒリとして、背筋が凍りつく。岩代太郎の音楽も出色の出来。ポン・ジュノ監督は「ほえる犬は噛まない」「グエムル」「スノーピアサー」も大好き。彼のことを”韓国の黒澤明”と評したのは、恐らく世界で僕が最初である(→2004年5月8日「エンターテイメント日誌」)。2006年にはこの呼称が一般的となった(→映画.comの記事へ)。


ゼロ・グラビティ」 米

公開時に書いたレビューがあるのでご覧あれ→こちら


さらば、我が愛 /覇王別姫 香港・中

H

「ドクトル・ジバゴ」や「風と共に去りぬ」もそうだけど、僕はどうも歴史の大きな流れ(特に戦争)に翻弄される人間たちの物語が好きみたいだ。カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)受賞。コン・リーの美しさ。そしてマンダリン・オリエンタル香港から飛び降り自殺した(享年46歳)レスリー・チャンの代表作でもある。京劇という未知の世界が垣間見れるのも興味深い。

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