細田守と宮﨑駿〜「バケモノの子」
細田守は1967年、富山県に生まれた。中学生の時「ルパン三世 カリオストロの城」を観て衝撃を受け、学校の文集に「将来は宮﨑駿さんや、りんたろうさんみたいなアニメの演出家になりたい」と書いた。大学卒業後、スタジオジブリの研修生採用試験を受けるが不合格。宮﨑駿から自筆の不採用通知を貰い、それを額に飾って今でも大切に保管している。その後東映動画に入社。短編アニメ「劇場版デジモンアドベンチャー」が高い評価を受け、「ハウルの動く城」の監督に抜擢されて2000年8月にスタジオジブリに出向した。準備を始めたが絵コンテが行き詰まり、プロデューサーから「細田君、これもう無理だね」と言い渡された。2002年4月21日、細田はその日のことを決して忘れない。「いま考えたらあの時、宮崎(駿)さんや高畑(勲)さんに相談しておけばよかった。東映でやって来たという薄っぺらな自負心が邪魔をして孤立してしまった」と本人の弁。
以上が先日NHKで放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」の内容である。
ジブリを去る際、細田は「もう俺は終わりだ!」と思ったという。その後3年間、企画を出せども出せども全く通らないという辛酸を嘗めて、漸くチャンスを掴んだ。「時をかける少女」である(2006年公開)。上映館は全国で21館のみと非常に少なかった。僕はテアトル梅田で観たが、大阪でも単館上映だった(その時の感想はこちら)。しかし口コミ効果で徐々に上映館が増えていった。最終興行収入は2.6億円だった。
「サマーウォーズ」(2009年)は全国のシネコンを中心に拡大公開され興行収入16.5億円、「おおかみこどもの雨と雪」(2012年)が42.2億円。細田守(スタジオ地図)は宮﨑駿(スタジオジブリ)と並ぶ日本テレビの顔となった。そして「バケモノの子」ではバジェットが1.5倍に膨れ上がった。映画公開直前に日テレで「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」が3週連続放送されたわけだが、これはもう社運を賭けた全面的バックアップ体制と言えるだろう。
こうして一作ごとにステップアップし、今や押しも押されぬメジャー作家になったわけだが、細田作品というのは昔も今も一貫して実にパーソナルなことを語っている。
「時をかける少女」は同名の大林映画の続編であり、共通の登場人物である芳山和子の声を細田は原田知世に依頼し、断られている(どうもその当時、知世としては映画デビュー作のことに触れられたくなかったらしい。←大林監督談)。細田は大学生の時、学園祭で「大林宣彦ピアノ・コンサート」を企画したという過去があり、大林監督は細田を「映画の血を分けた息子」と呼んでいる。つまり「時かけ」は《僕は大林映画が大好きなんだ!》というラブレターであった。
「サマーウォーズ」は《おばあちゃん、バンザイ!》であり、「おおかみこどもの雨と雪」を製作中に細田夫人は妊娠しており、《母は強し》がテーマとなった。公開後に息子が生まれ、さしずめ「バケモノの子」は細田版「そして父になる」だと言えるだろう。
公式サイトはこちら。
評価:A
お見事!の一言である。渋谷の雑踏からバケモノの棲む異界へ入っていく過程なんかすごく自然で、観ていて実に心地いい。「千と千尋の神隠し」の導入部を想い出した。クライマックスでは渋谷の街に《鯨》が出現するが、この描き方は「崖の上のポニョ」を彷彿とさせる。またチコというマスコット的キャラクターが登場するのだが(主人公・久太の、亡き母の化身説あり)、これは「風の谷のナウシカ」におけるテトに似ている(物語に全く絡んでこない点においても)。しかし決して宮﨑駿のマネと言っているのではなくて、ちゃんと細田流に消化され、自分のものにしている。やっぱり彼は《宮﨑駿の息子》なんだなと、つくづく想った。清々しい。余談だがチコは通常、久太の髪の毛の中に隠れているので、目玉おやじ(鬼太郎の父)的だとも言えるだろう。
映画の最後に次のような会話がある。
九太「俺のやることを、そこで黙って見てろ!」
熊徹「おうっ、見せてもらおうじゃねぇか」
本作の核となる場面だが、「プロフェッショナル 仕事の流儀」では《亡き父への想い》と説明されていた。それもあるだろうけれど、僕には長編作品からの引退を表明した宮﨑駿への熱いメッセージのように聞こえた。熊轍の台詞は今の細田が、宮さんからどうしても言ってもらいたい(承認の)言葉なんだろうね。宮さんが「バケモノの子」を観て何を語るのか、僕も非常に興味がある。
なお九太の少年時代が全然男の子の声ではなく、宮崎あおいが喋っているようにしか聞こえなかったのは些か残念であったことを申し添えておく。
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