女性劇作家/演出家のフロントランナー、彗星の如く現る!〜早霧せいな(主演)宝塚雪組「星逢一夜」「La Esmeralda」
8月15日(土)宝塚大劇場へ。宝塚雪組「星逢一夜(ほしあいひとよ)」作・演出/上田久美子 と、「La Esmeralda」 作・演出/齋藤吉正を観劇。
出演は早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗ほか。
上田久美子は2013年5月のバウホール公演「月雲の皇子(つきぐものみこ)」で演出家デビュー、2014年シアター・ドラマシティ「翼ある人々」に続く新作が「星逢一夜」である。小規模な劇場公演の経験が2本で大劇場デビューというのは、宝塚の演出家の中でも最速だそう。それだけ劇団での評価が高いということだ。因みに咲妃みゆは「月雲の皇子」でもヒロインを務めている。
上記レビューでも絶賛したが、今回改めて上田久美子は天才座付き作家・演出家だと確信した。1998年に女性として初めてトニー賞のミュージカル演出賞を受賞した「ライオンキング」のジュリー・テイモアや「コンタクト」「プロデューサーズ」を手がけたスーザン・ストローマンに匹敵する、傑出した才能だと断言出来る。
まず台本の素晴らしさについて語ろう。このホンが藤沢周平の小説「蝉しぐれ」を土台にしていることは間違いない。宝塚歌劇でも「若き日の唄は忘れじ」というタイトルで舞台化されている(けだし名作だった)。両者の共通点を挙げておく。
- 参勤交代制が確立した江戸時代で貧しい藩が舞台となる(「蝉しぐれ」は東北の庄内藩がモデルであり、「星逢一夜」は熊本藩に隣接する架空の”三日月藩”のお話)。
- 主人公とヒロインの幼少期から物語が始まり、ふたりは愛し合っているのに運命に翻弄され(身分の差から)結ばれることなく、長じて別々に家庭を持つことになる。
- 幼き日のふたりが一緒に過ごした、村の夏祭りが重要な役割を果たす(後々までの心の拠り所となる)。
上田久美子が非凡なのは、藤沢周平をベースに、冲方丁の小説「天地明察」(本屋大賞受賞)を掛け合わしたところにある。まさかの天文学、日本暦の登場である。《泥だらけの足元(=日々の暮らし)ばかり見ずに、夜空を見上げよう、理想を夢見よう》というテーマが高らかに奏でられるのである。ここぞという場面で時系列を入れ替える手法も上手い。すげ〜よ!もう脱帽だ。恐れ入りました。
演出についてだが、冒頭の無数のホタルが舞う場面からその美しさに心奪われた。また舞台の奥行きを最大限に利用した遠近感の効果、盆(回り舞台)や迫(=せり、昇降床装置)の使い方が卓越している。観せ方/魅せ方を熟知しているのだ。これが大劇場デビューなんて到底信じられない。
「La Esmeralda」については(コンセプトがはっきりしない)バラエティ・ショーという感じ。可もなく不可もなし。腹も立たないし、その華やかさをそこそこ愉しめる。それより何より今回の公演の肝は上田久美子だ、それに尽きる。客席のすすり泣きの多さは尋常ではなかった。こんな経験はトップスターのサヨナラ公演ですらない。連日リピーターが続出し当日券に列をなし、立ち見もびっしり。劇場内は異常な熱気に包まれた。
宝塚歌劇団に伏してお願いする。どうか彼女の演出家デビュー作「月雲の皇子」DVDを発売してください!!タカラヅカ・スカイ・ステージで放送した映像記録があるでしょう。絶対売れるよ。みんな観たい筈。
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コメント
雅哉さんこんにちは。星逢一夜行きましたが号泣でした。。。
舞台セットが青もみじや草花で囲まれててキレイだし、ちぎさんのことが一気に好きになったというか、すごくあの役に合ってて、裃が似合ってて所作も文句なかったですね!
投稿: ちかちか | 2015年8月17日 (月) 16時48分
ちかちかさん、こんにちは。「星逢一夜(ほしあいひとよ)」しみじみ良い作品でした。早霧せいなは(明日海りおみたいな)華がある男役ではないし、声も綺麗とは言えませんが、誠実で優しい人柄が滲み出る印象ですね。嫌いじゃないです。
投稿: 雅哉 | 2015年8月17日 (月) 19時04分