インサイド・ヘッド(3D日本語吹替版)あるいは、宮﨑駿へのオマージュ
映画本篇が始まる前にピート・ドクター監督からの挨拶があり、ドリカムの「日本版主題歌」プロモーション映像が流れ、併映の短編「南の島のラブソング」が続く。なげーよ!今やピクサーは確固としたブランドなのだから、意味不明なタイアップは止めて欲しい。本当はドリカムの歌をどうしても聴きたくなかったので(大嫌い!)、字幕版を観たかった。ところが!関西では字幕版3D上映はなく、2Dのみ。3Dは外せないので仕方なく日本語版を鑑賞。しかし風の便りにふ聞くと字幕版でも強制的にドリカムMVを観せられたそう。やれやれ……。それにしても「カールじいさんの空飛ぶ家」の時もそうだったのだけれど、余りこの作品が3Dである必然性はないように感じた。あ、あと日本語版の竹内結子と大竹しのぶは凄く良かった。
「南の島のラブソング」はイマイチ。初期の頃からそうなのだがピクサーの短編って面白みに欠けるんだよね。ユーモアが足りないというか。このジャンルに関してはやはりディズニーに一日の長あり。因みにピクサーで僕のお気に入りは最初期の「ルクソーJr.」(1986)とアカデミー短編賞を受賞した「for the birds」(2001)かな。
さて、「インサイド・ヘッド」だ。
評価:A+
僕は「トイ・ストーリー」第1作目(1995)から映画館でピクサーの長編を観てきた。言うまでもなくこのスタジオはCGアニメーションの先駆者であり、他の追随を許さない存在だった(過去形)。しかし「メリンダとおそろしの森」(2012)辺りから雲行きが怪しくなる。はっきり言う。「メリンダ」は技術的に目新しい物がないし、作品としても駄作である。どうしてこれがアカデミー賞の長編アニメーション部門を制したのか、僕にはさっぱり理解出来ない。
毎年コンスタントに新作を発表していたピクサーだが、製作が遅れ(→2013年のニュース「ピクサーの新作が公開延期、2014年は公開作なし」)「モンスターズ・ユニバーシティ」(2013)から「インサイド・ヘッド」まで2年経った。その間にピクサー及びディズニー・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼務することになったジョン・ラセターは鮮やかにディズニーを立ち直らせ、「アナと雪の女王」「ベイマックス」というスマッシュヒットを立て続けに飛ばす(両者ともアカデミー長編アニメーション賞受賞)。
その一方で「ピクサー、本当に大丈夫?」という不安があったのが、今回はそんな杞憂を一気に吹き飛ばす会心作となった。
まず脳内の様々な感情(ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカ)を擬人化するというアイディア自体がアヴァンギャルドだよね(日本の漫画にも「脳内ポイズンベリー」があるが……)。よくこの企画が通ったなと感心する(ちなみに「脳内ポイズンベリー」実写映画版は国内興行ランキングで初登場7位。お世辞にもヒットしたとは言えない)。「抽象観念」という危険地帯にヨロコビたちが迷い込む場面ではピカソのキュビズムみたいな立体→平面(二次元)→線(一次元)と形態が変化し、とってもシュール!僕は「不思議の国のアリス」を想い出した。他にも「イマジネーション・ランド」とかハリウッドのスタジオを彷彿とさせる「ドリーム・プロダクション」など魅力的なエリアが次々と登場、人格島(おふざけの島etc.)の崩壊とかもあって飽きさせない。あと主人公のライリーが3歳の頃創りだした想像上の友達ビンボンにヨロコビとカナシミが冒険の途中で出会うのだが、この彼が泣かせるんだよね。正にイマジネーションの飛翔!
11歳の女の子(ライリー)が両親と車でミネソタからサンフランシスコに引っ越してくるところから物語は始まる。しかし、これってまんま「千と千尋の神隠し」だよね!?脳内に思考を運ぶ列車が走っているのも「千と千尋」を彷彿とさせるし。そして「家族の島」崩壊に巻き込まれて線路が弾き飛ばされ、列車から投げ出されたヨロコビたちが潜在意識の深淵に落ちていくのは「天空の城ラピュタ」だ!ジョン・ラセターが「すべてのピクサー映画は宮崎作品へのオマージュである」と豪語するのも宜なるかな。
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