映画「トゥモローランド」と鉄腕アトム & ロケッティア
評価:C+
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いや、前半は良かったよ。SF映画が大好きな人間の琴線に触れる展開だ。
ジョージ・クルーニー演じる主人公の幼少期は要するに「ロケッティア」少年で、そこに「ターミネーター」少女(T-1000)が忽然と現れる。で現代に話が移り、17歳の女の子(ブリット・ロバートソン)が登場。彼女はNASAがシャトル打ち上げを止めたことに怒り(まるで「インターステラー」のクリストファー・ノーランみたいだ)、「遠い空の向こうに」のジェイク・ギレンホール同様、宇宙に憧れを抱いている。ちなみに「遠い空の向こうに」と「ロケッティア」はどちらもジョー・ジョルストンが監督しており、ブラッド・バードは余程ジョルストンのことが好きなんだね。そこでふたりの関係を調べてみたらビンゴ!何とブラッド・バードが監督したアニメ「アイアン・ジャイアント」のロボットをデザインしたのはジョルストンだった!!
↑ロケットを見比べてみて!
物語の発端はディズニーが「イッツ・ア・スモールワールド」を提供した1964年のニューヨーク万博博覧会。この期間中、ブラッド・バードは6-7歳だった。つまり少年は間違いなく監督の分身である。後に彼は(短期間に終わったが)ウォルト・ディズニー・スタジオに入社することになる。
映画に描かれる未来都市トゥモローランドは流線型でタイヤのない乗り物が飛び交っている。正に手塚治虫が「鉄腕アトム」で描いた世界だ。で1964年というのが重要で、日本で「鉄腕アトム」の放送が開始されたのが1963年1月、Astro BoyとしてアメリカのNBCで放送が開始されたのが同年の9月なのである。つまり1964年の時点でブラッド・バード少年が「鉄腕アトム」を観ていた可能性は極めて高いのだ。
ブリット・ロバートソンがおもちゃ屋に行く場面ではR2-D2とか「帝国の逆襲」でカーボン凍結されたハン・ソロ、「禁断の惑星」(1956)のロビー・ザ・ロボット、「地球の静止する日」(1951)のゴート(ロボット)等が登場。SF愛に溢れていてニヤリとさせられた。
面白かったのはここまで。終盤は腰砕けだ。
本作のテーマは明確である。「夢を追う人(Dreamer)だけがトゥモローランドへの招待状を受け取れる」。地球温暖化で南極の氷が溶けてニューヨークが水没するとか、悲観的未来感を持つのはやめようよ。原子力の平和利用が出来ると信じ、明るい未来(ユートビア)を夢見ていた鉄腕アトムの時代(1960年代半ば)に戻ろう!という訳だ。
しかし1968年に「猿の惑星」が公開され、社会的には光化学スモッグとか川や海の汚染など公害問題が深刻化、1971年には映画「ゴジラ対ヘドラ」、同年「帰ってきたウルトラマン」第1話「怪獣総進撃」にヘドロ怪獣ザザーンが登場。そして81年に「マッドマックス2」82年には「ブレードランナー」が公開され、とどめを刺した。僕達はもう、アトムの時代に回帰することは不可能なのである。
本作のDreamerという単語の使い方を見て、僕はジョン・レノンの「イマジン」を連想した。なぁブラッド、僕はビートルズが好きだけど、アナーキスト(無政府主義者)のジョン・レノンは大嫌いなんだ!!「イマジン」を聴くと虫唾が走って反吐が出るんだよ。国境がなくて戦争がない世界なんて実現するわけ無いだろう?なに戯言をほざいているんだ。「人々は僕のことをとDreamer言うだろう」(←「イマジン」の歌詞)違うよ、関西ではお前みたいな奴をアホって言うんだ。レノンが夢見た社会を実現しようと目指した国家はいくつかあったけれど、結果はどうなった?無残なもんだよ。絵に描いた餅だ。
というわけで「トゥモローランド」のラストは尻すぼみでお粗末極まりなかった。
「アナと雪の女王」「ベイマックス」「シンデレラ」と快進撃を続けてきたディズニーだが、「トゥモローランド」は本国アメリカでも中国でもコケて、赤字が確実となった。批評家の評価も肯定派(fresh、新鮮)と否定派(rotten、腐った)の割合がフィフティ・フィフティで散々である。ブラッド・バードよ、実写の世界で散々暴れたのだからもういいんじゃない?そろそろアニメの世界に戻っておいでよ……という訳で、企画が動き出した「Mr.インクレディブル」の続編に期待したい。
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