シリーズ《映画音楽の巨匠たち》第4回/追悼ジェームズ・ホーナー
シリーズ《映画音楽の巨匠たち》第4回をお届けする。
2015年6月22日、小型飛行機がアメリカ・カリフォルニア州のサンタバーバラ近郊で墜落し、操縦していたジェームズ・ホーナーが死亡した。彼は映画「タイタニック」とその主題歌”マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン”でアカデミー作曲賞及び歌曲賞を受賞したことで広く知られている。享年61歳だった。
映画音楽、特にオーケストラ・サウンドが好きなファンで一番人気が高い作曲家は間違いなくジョン・ウィリアムズであろう。何と言っても「ジョーズ」「E.T.」などスピルバーグ映画の殆どを担当し、他にも「スター・ウォーズ」「スーパーマン」「ハリー・ポッター」シリーズなどブロックバスター作品を一手に引き受けているのだから当然だ。次がジェリー・ゴールドスミス。ただジェリーの場合はB級映画が多く、アカデミー賞もウィリアムズの5回受賞に対して「オーメン」1回きりだから地味な印象は拭えない。日陰の身なのでファンの方も屈折していて、何かにつけジョンに難癖をつける傾向がある。攻撃的なのだ。このように犬猿の間柄のジョンとジェリーのファンだが、唯一意見が一致している点がある。「ジェームズ・ホーナーなんか!」と小馬鹿にしているところである。それにはちゃんとした理由があって、彼は昔から「パクリのホーナー」とか「使い回しのホーナー」と呼ばれて来たのだ。
例えばホーナーが作曲した映画「グローリー」の合唱曲はオルフ「カルミナ・ブラーナ」そっくりである。「ウィロー」のテーマはシューマンの交響曲 第3番「ライン」に瓜二つ。「ミクロキッズ」の音楽がレイモンド・スコットの"Powerhouse"やニーノ・ロータの「アマルコルド」に酷似していると問題になり、訴訟問題にまで発展したこともある。また僕は、かの有名な「タイタニック」の音楽が大嫌いなのだが、その理由はエンヤのパクリだからである。ジェームズ・キャメロン監督は元々、「タイタニック」の音楽をジョン・ウィリアムズにしてもらいたかったのだが、断られた。次にエンヤに白羽の矢を立てた。彼女はアイルランド出身でケルト音楽をベースに音楽制作をしているからである(タイタニック号3等客の大半はアイルランド移民だった)。しかし映画の劇伴音楽を担当した経験したことがないエンヤは無理だと断った。困り果てていたキャメロンにホーナーはこう言った。「じゃぁ、僕が引き受けようか。要するにエンヤみたいな曲を書けばいいんだろう?」こうして「タイタニック」の音楽は生まれた。ちなみに若いころ二人はロジャー・コーマンの下で働いており、「エイリアン2」で既にコンビを組んでいる間柄だった。
使いまわしについてだが、ホーナーはしばしば過去に自分が作曲した映画音楽を別の映画に流用していた。あれは確か僕が映画館で「パトリオット・ゲーム」か「今そこにある危機」を観ていた時だと思うが、突如スクリーンに「エイリアン2」の音楽が流れ始めたので椅子からずり落ちそうになった。ただ使い回しはニーノ・ロータもしていたことなので(例えば「ゴッドファーザー」)一概にホーナーだけを責めることは出来ない。
こんな風に映画音楽ファンから軽蔑の眼差しで見られ、色々問題があるホーナーだったが、いざその訃報を聞くと動揺を抑えられない自分に戸惑っている。結局、なんだかんだ言っても彼の音楽が好きだったんだなぁ。という訳で僕が考える彼のベスト10を発表しよう。
- ブレイブハート
- ビューティフル・マインド
- アポロ13
- フィールド・オブ・ドリームス
- スター・トレックII カーンの逆襲
- 銀河伝説クルール
- レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い
- ロケッティア
- ボビー・フィッシャーを探して
- アメリカ物語
- アバター
ホーナーの最初期の作品はロジャー・コーマン製作の「The Lady in Red」(1979、日本未公開)や「宇宙の七人」(1980)だが、広く知られるようになるのは「スター・トレックII カーンの逆襲」(82)が切っ掛けだった。アレクサンダー・カレッジ「宇宙大作戦」やジェリー・ゴールドスミス「スター・トレック」のモティーフを継承しながら、ちゃんと独自性を打ち出している辺り、中々したたかである。神秘的なスポックのテーマもいい。余談だが「宇宙の七人」のサントラ、オケが少人数で音がペラペラ、しかも技量が低くてトランペットなんか音を外しまくり。低予算スペース・オペラの悲哀が感じられて笑える。
1996年に開催された第68回アカデミー賞授賞式でホーナーは「アポロ13」と「ブレイブハート」の2作品で作曲賞にノミネートされていた。しかし受賞したのはイタリア映画「イル・ポスティーノ」のルイス・バカロフだった。僕は今でもこれはミス・ジャッジだったと断言できる。ホーナーはパクリの「タイタニック」ではなく、「アポロ13」か「ブレイブハート」で受賞するべきだった。後2者こそ彼の真の代表作である。「ブレイブハート」はバグパイプをフィーチャーし、スコットランド・テイストが耳に心地いい。しんみりする。「アポロ13」は特に発射シーンの音楽が好き。気高くて、思わず姿勢を正してしまう雰囲気がある。
やはりアカデミー作曲賞にノミネートされた「ビューティフル・マインド」は短いフレーズを繰り返すミニマル・ミュージック/オスティナートの手法を駆使して数学的美しさを見事に音楽で構築した。この方法論は同じく数学者や理論物理学者を主人公とする映画「博士と彼女のセオリー」や「イミテーション・ゲーム」でも応用されている。またシャルロット・チャーチの歌声は透明感があって美しいことも特筆に値する。
「フィールド・オブ・ドリームス」は映画自体も音楽も爽やかな風が通り抜けるような清々しさがあって、静かに涙が流れてくる。そんな印象。
「銀河伝説クルール」は壮大なロマンが感じられる。映画は未見だが、風のうわさによるとしょーもないらしい。サントラの演奏はロンドン交響楽団とアンブロジアン・シンガーズ。無駄に豪華である。
「レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い」は雄大な大自然を連想させる。エッ?ジョン・バリー作曲の映画音楽「愛と哀しみの果て(Out of Africa)」に似てるって?まあまあ、許してあげて。僕はこの作品を映画館で観たのだが、余りにも詰まらなくて、ブラッド・ピットが出ていたということ以外、内容はすべて記憶から消えている。
先日ブラッド・バードの「トゥモローランド」を観ていて、無性に「ロケッティア」のことが想い出された。空への憧れが感じられる音楽で好きなんだよね。少年の日の夢に立ち返るというか。
「ボビー・フィッシャーを探して」は静謐な叙情。一部「ビューティフル・マインド」に似た旋律が登場するのはご愛嬌ということで。まぁ、ホーナーだし。
スピルバーグ製作総指揮のアニメ「アメリカ物語」はなんと言っても主題歌“Somewhere Out There”がいい!心に滲みる。アカデミー歌曲賞にノミネートされ、グラミー賞最優秀楽曲賞を受賞。エッ、「オズの魔法使い」の"Over the Rainbow(虹の彼方に)"にそっくりだって?シーッ!!
次点の「アバター」(2009)は、「ビューティフル・マインド」(2001)以降パッとしなかったホーナー起死回生の一撃となった。”マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン”に似た旋律が出てくるのが気になるが、パーカッションがいいし合唱の使い方に独特のセンスを感じる。アカデミー作曲賞ノミネート。
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