映画「チャッピー」あるいは、キューブリックとスピルバーグ、手塚治虫へのオマージュ
評価:B+
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「第9地区」でアカデミー作品賞、脚色賞、編集賞、視覚効果賞にノミネートされたニール・ブロムカンプ監督の最新作「チャッピー」はロボットが警察官を務めるという「ロボコップ」(更に遡れば、石ノ森章太郎「ロボット刑事」に辿り着く)の大枠を借りながらデザインは機動警察パトレイバーで、中身はスタンリー・キューブリックが長年企画を温めスティーヴン・スピルバーグが完成させた「A.I.」への熱烈なラヴ・レターになっている。以下「A.I.」との共通項を列記してみよう。
- 「チャッピー」にも繰り返し、「人工知能=Artificial Intelligence=A.I.」という言葉が登場する。
- 「チャッピー」は南アフリカ市民から迫害を受け、スクラップになりかける。これは「A.I.」におけるジャンク・ショー(ロボットを破壊して楽しませる見世物小屋)の場面に重なる。
- チャッピーは(仮初の)《母親》に絵本「黒い羊」を読んでもらうが、A.I.の主人公デイヴィッドも養母に「ピノキオ」を読んでもらう。
- 2000年が経過し、「A.I.」のデイヴィッドは最後に手元に残った髪の毛から養母のクローンを未来人の手で再生してもらう。チャッピーも《母親》の記録……(以下ネタバレになるので自主規制)
故に「チャッピー」は手塚治虫の「鉄腕アトム」にも繋がっていることになる。「鉄腕アトム」はAstro Boyとして1963年からアメリカでもテレビ放送された。それを観たキューブリックから手塚の元へ「2001年宇宙の旅」の美術監督をして欲しいとオファーが来たのだが、当時数多くの連載と虫プロを抱えていた手塚は断らざるを得なかった。だから「A.I.」には「鉄腕アトム」が色濃く影を落としているのである(天馬博士は《トビオ=後のアトム》をサーカスに売り飛ばす。後にお茶の水博士に引き取られる)。
「第9地区」同様、犯罪多発都市ヨハネスブルグが舞台となっているのがいい。またヒュー・ジャックマンが意外にも完全な悪役で、過剰な爆撃シーンなんか完全にイッちゃっている。狂ってて最高だった。シガニー・ウィーバーの元気そうな姿を見られたのも嬉しかった。
無垢に生まれたチャッピーがギャング団の教育で次第に犯罪に手を染めていく姿は、過酷な環境に育ったストリートチルドレンの姿に重なる。ロボットを描いているようで実は人間について語っており、最後は生きるとはなにか?といった哲学的境域まで足を踏み込んでゆく。深い映画である。
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