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2015年5月22日 (金)

《宝塚便り》手塚治虫の足跡/未完の大作「森の伝説」

宝塚大劇場のすぐ近くに手塚治虫記念館がある。「リボンの騎士」が幼少期における宝塚歌劇体験から生まれたことは余りにも有名であり(=少女漫画の誕生。それが「ベルサイユのばら」へと繋がってゆく。共通項は男装の麗人)、治虫が宝塚生まれだと思っている人は多いかも知れない。実は彼が生まれたのは現在の大阪府豊中市で、宝塚に引っ越してきたのは5歳の時である。当時は未だ宝塚市ではなく、兵庫県川辺郡小浜村だった(昨年宝塚歌劇は100周年で、宝塚市は市政60周年、手塚治虫記念館は20周年だった)。その後、治虫は宝塚で約20年間過ごした。父は宝塚ホテル(阪急宝塚南口駅前)内に作られた宝塚倶楽部の会員であり、ときどき父に連れられてホテルのレストランで食事をし、クリスマス・パーティも毎年行ったという。また治虫の結婚式も宝塚ホテルで行われた。

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JR宝塚駅北口を出て御殿山側へ7−8分歩いた所に千吉神社(猫神社)がある。

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ここは治虫が当時住んでいた家から歩いて直ぐの場所にあり、アゲハチョウやノコギリクワガタを採集していたという。

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現在は有志の手で「手塚治虫 昆虫採集の森」という碑が立てられている。

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森閑として素敵な雰囲気なので僕は大いに気に入り、しばしば散歩で訪れる。

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森のなかで鳥の鳴き声に耳を傾けながら静かに佇み、虫網とカゴを持って駆ける治虫少年の姿をそっと想像してみる。

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晩年の大傑作「アドルフに告ぐ」の冒頭で、芸者・絹子の殺害現場が「兵庫県川辺郡小浜村の御殿山」となっており、この辺りが舞台となっている。

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旧・手塚邸にはいまでも大きなクスノキがそびえ立っている。これは手塚作品「新・聊斎志異 女郎蜘蛛」(講談社版手塚治虫漫画全集『タイガーブックス4』に収録)に登場する。

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また旧・手塚邸から、さらに坂を登った所にある蛇神社は手塚漫画「モンモン山が泣いてるよ」に登場する。この祠は阪神淡路大震災の時に倒壊したが、その後再建された。しかし鳥居(写真左)は倒れたままの姿である。

今年2月に手塚治虫記念館の映像ホール(アトムビジョン)で「森の伝説」を観た。チャイコフスキー:交響曲第4番の音楽に乗せて描くアニメーション作品である。第1楽章と第4楽章のみ完成し、1988年に上映されたが、手塚の死で未完に終わった。その後息子の手塚眞が第2楽章を完成させ、そのお披露目上映だったのである。

クラシック音楽を使用し台詞のないアニメーションといえば、そのコンセプトがディズニーの「ファンタジア」へのオマージュであることは明白である。ただ完成度は「ファンタジア」に遠く及ばない。手塚が天才であり「漫画の神様」であることは論をまたないが、アニメーション作家としては2流だったというのが僕の見解だ。多くの雑誌連載を抱え、片手間にアニメーションをしていたのだから詮無いことである。宮﨑駿みたいに絵コンテを手がけ、原画チェックまで全てこなすということは物理的に不可能だ。

「森の伝説」第1楽章は静止画の連続(紙芝居風)に始まり、次第に絵が動き出し、さらに白黒が途中からカラーになって……というアニメーションの歴史を辿る旅になっており、アイディアとしては面白い。第4楽章ははっきり言って退屈。テレビ用のリミテッド・アニメで描かれた森の破壊者たち(ヒトラー登場)が、ディズニー風フル・アニメで描かれた森の妖精たちを追い散らして行く、という物語。説教臭くて鼻につくし、そもそもリミテッド・アニメは「鉄腕アトム」で虫プロが毎週のテレビ局への納期に間に合わせるために生み出した手法なのだから、自虐ギャクみたいなものだ。全く評価出来ない。一方、新作の第2楽章は先端技術であるCGの手法も盛り込まれ、非常に丁寧に美しく仕上げられている。親子共作という趣向も一見の価値があるだろう。第3楽章の完成が待ち遠しい。

なお、僕が一番好きな手塚のアニメーション作品は短編「人魚」(1964)である。ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲に乗せて描かれる哀しい物語。手塚のペシミズム、ここに極まれり!と胸を打たれる。

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コメント

はじめまして。
手塚治虫が好きで、Eテレでこの森が放送されて以来行ってみたいと思っていたので、このサイトを拝見できてうれしいです。

投稿: Silk Degrees | 2017年3月26日 (日) 13時14分

Silk Degrees さま、コメントありがとうございます。

宝塚に来られたらまず手塚治虫記念館にお越しください。そうすれば手塚治虫ゆかりの地が記されたMapを手に入れられますので。

投稿: 雅哉 | 2017年3月27日 (月) 00時46分

雅哉さま 情報をありがとうございます!
来月大阪へ行く予定なので、是非寄りたいと思います(^^)

投稿: Silk Degrees | 2017年3月28日 (火) 21時39分

ちなみにこちらで言及されている「手塚治虫のたからづかワンダーマップ」です。

投稿: 雅哉 | 2017年3月28日 (火) 22時12分

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