映画「Mommy/マミー」
映画公式サイトはこちら。2014年カンヌ国際映画祭において、ジャン=リュック・ゴダール監督「さらば、愛の言葉よ」と並び審査員特別賞を受賞した。フランス語のカナダ映画である。
常に情緒不安定で攻撃的なADHD(多動性障害)の15歳の少年と、その母の物語。ADHDとは「不注意」「多動性」「衝動性」という症状のうち、少なくとも2つ以上が該当する状態。
グザヴィエ・ドラン(現在26歳)監督作品は初体験。カンヌで受賞という以外は全く予備知識がない状態で臨んだ。
……で、観始めて10分、僕は「この監督、きっとゲイに違いない」と確信を持った。映画にゲイは登場しない。しかし、「母親万歳!」というテーマといい、カラフルな色彩感といいい、1999年のアカデミー外国語映画賞を受賞したペドロ・アルモドバル監督・脚本のスペイン映画「オール・アバウト・マイ・マザー」そっくりなのである。アルモドバルがゲイであることは映画ファンなら誰でも知っている。またファッションデザイナー、トム・フォードの監督デビュー作「シングルマン」にも通じるものがある。男性のファッションデザイナーにゲイが多いのは周知の事実であり(ミュージカル「プロデューサーズ」の設定も然り)、僕はその独特の色彩感に創造性の秘密があるのではないかと考えている。
また主演の少年が、いかにもゲイ好みの容姿なのだ。そこで帰宅して調べてみると案の定、グザヴィエ・ドランはカミング・アウトしていた。
我々ストレートの立場から言うと、ゲイの母親に対する愛情・執着は尋常ならざるものがある。今から数十年前は彼らに対する世間の偏見も激しく、自らの性癖を隠している人が多かった。映画「イミテーション・ゲーム」の主人公、数学者アラン・チューリングなんかゲイというだけで1952年に逮捕され、同性愛の性向を矯正するための薬物療法を強要されたのだからもう無茶苦茶である(特に欧米の場合、キリスト教の影響が根強いせいもあるだろう)。そこで当時の彼らが「どうして結婚されなかったのですか?」と質問された時に、常套句として使った答えが「母が素晴らし過ぎたので(他の女性には食指が動かなかった)」。この回答は淀川長治、木下惠介(「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾年月」)、ニーノ・ロータ(「ゴッドファーザー」の作曲家)らが異口同音に発言している。恐らく唯一関心がある異性だからではないだろうか?
「Mommy/マミー」の評価はB。縦横比1:1の画面は閉塞感があって題材に合っているし、登場人物たちの心情の変化によって画面が伸び縮みする演出もユニーク。これを高く評価する人の気持ちは理解出来る。でも僕の好みじゃない、そういうことだ。ヒリヒリと神経をいたぶるような映画だし、まぁ観ていて辛いわな。でも、まるでトリュフォーの「大人は判ってくれない」みたいなラストは一寸だけ救いの光が垣間見れた。
「オール・アバウト・マイ・マザー」と「Mommy/マミー」という作品は、ゲイの人々には世界ってこういう風に見えているんだ、と学ぶために格好の教材だと想う。
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