5月4日(月)ザ・シンフォニーホールへ。
年に一回、日本のオーケストラの選り抜きの管楽器奏者(+コントラバス、打楽器)が一堂に会するなにわ《オーケストラル》ウィンズを聴く。指揮は淀川工科高等学校吹奏楽部顧問の丸谷明夫先生と熊本県・玉名女子高校吹奏楽部顧問の米田真一先生。玉名女子は昨年のコンクール全国大会において酒井格:森の贈り物を自由曲で演奏し、それが大変な名演で話題になった。今回も昼の部で演奏されたのだが、僕が聴いた夜の部ではなかった。プログラムは下記。指揮者については次のように表記した。丸:丸谷、米:米田、金:なにわのボス=金井信之(クラリネット)。
- グレイアム:大学祝典ファンファーレ 丸
- オリヴァドーティ:林檎の谷 丸
- 朴 守賢:暁闇の宴 吹奏楽コンクール課題曲V 金
(第7回全日本吹奏楽連盟作曲コンクール第1位作品)
- リード:アルメニアン・ダンス・パートII 丸
- アッペルモント:交響詩「エグモント」 米
(休憩)
- バーンズ:交響曲 第3番 米
(以下アンコール)
- 佐藤邦宏:マーチ「春の道を歩こう」 丸
吹奏楽コンクール課題曲II
- 西村朗:秘儀III -旋回舞踊のためのヘテロフォニー 米
吹奏楽コンクール課題曲III
- スパーク:メリー・ゴー・ラウンド なし
プレコンサートとして、榎田雅祥(フラウト・トラヴェルソ)、佐野健二(リュート)、内藤謙一(ヴィオラ・ダ・ガンバ)でオトテール:組曲 ト長調 op2-3よりアルマンド(サン・クールの滝)、クーラント、ジーグが演奏された。古楽器演奏が聴けてラッキー!また休憩時間には8人のホルン奏者+打楽器3人でマッコイ:アフリカンシンフォニーあり。
ブラームス「大学祝典序曲」をもじったグレイアムの曲は金管の輝かしいファンファーレに魅了された。
オリヴァドーティといえば僕は中学生の時に「バラ肉(薔薇の謝肉祭)」を演奏したことがあるが(大好き)、「林檎の谷」は初耳。オーボエの浦丈彦氏(読売日本交響楽団)は40年前、中学1年生の時に初めて吹いたのがこの曲だったという(当時はバスクラリネットだったそう)。演奏難度はeasyだが、gentle & lovely musicだった。
朴 守賢(パク・スヒョン)は大阪生まれの作曲家。「暁闇の宴」は冒頭、龍笛や能管の音色を思い起こさせ、アジア的響きがした。因みに調べてみると作曲家本人は巴烏(バーウー。中国雲南省を中心に演奏される横笛)を嗜(たしな)むそうだ。そして曲が中盤に差し掛かるとフリージャズ風に。実にユニークだ。
「アルメニアン・ダンス」は丸ちゃんが「吹奏楽の第九に!」(それくらい誰もが知っていて、一般市民も参加する曲になるように)と目指している楽曲。パートIは僕も丸ちゃんの指揮で演奏したことがある。
僕が知るかぎり、淀工はパートIIを演奏会で取り上げたことがない筈。丸ちゃんは「いつか淀工でもパートI & IIを通して演りたい」と抱負を述べた。I.農民の訴え(風よ、吹け)は情感豊か。II.婚礼の踊りは農村の情景が目に浮かぶよう。III.ロリ地方の農耕歌はハチャトゥリアンのバレエ音楽「ガイーヌ」とかホラ・スタッカートを彷彿とさせる。ちなみにハチャトゥリアンはアルメニア人。またホラ・スタッカートを作曲したディニクはルーマニア生まれのロマの作曲家。アルメニアとルーマニアは黒海を挟んで対岸に位置する。丸ちゃんらしくカチッとした演奏。作品への深い愛着が感じられた。
アッペルモントの「エグモント」は一糸乱れぬ緊密なアンサンブルが展開された。I.婚礼、II.フェリペII世とエグモントはギターがカッケー!スペイン情緒溢れる。III.処刑は沈鬱な葬送行進曲。IV.ネーデルラント諸州対スペインは情熱的。
バーンズの交響曲第3番は1996年にザ・シンフォニーホールにおいて大阪市音楽団の演奏で世界初演された。作曲家も同席し、丸ちゃんも聴きに来ていたという。僕は秋山和慶/市音による再演を同ホールで体験している。幼い娘の死を悼んだ第3楽章「ナタリーのために」が白眉。最早、古典とも言える作品だが、改めて聴いてこれは交響曲というジャンルの長い歴史で培われた伝統に則っているのだということをつくづくと感じさせられた。つまり「苦悩を乗り越えて歓喜へ!」というプロット(プログラミング)のことである。これはまずベートーヴェンが交響曲第5番で発明し、ブラームスの第1番、チャイコフスキーとマーラー、ショスタコーヴィチの第5番などで踏襲された。また終楽章の副主題としてナタリーを送るときに捧げられた聖歌《私は神の子羊》が引用されているが、これはまさしくアルバン・ベルクがヴァイオリン協奏曲で用いた手法である。ベルクの協奏曲は「ある天使の思い出のために」と副題が付いており、アルマ・マーラーと彼女の2人目の夫ワルター・グロピウスとのあいだに生まれ、18歳で夭逝した娘マノン・グロピウスに捧げられている。その第2部後半にバッハの《カンタータ第60番「おお永遠よ、いかずちの声よ」》中のコラール《われは満ち足れり》の旋律が登場するのである。またバーンズの3番の特徴はソロが非常に多いこと。それもバスクラとかアルト・フルート、バリトン・サックスなど通常ソロがない低音楽器にも光が当てられている。
第1楽章は悲痛な想いに満ちている。ユニゾンが目立つ点ではショスタコーヴィッチを彷彿とさせる。第2楽章スケルツォは百鬼夜行が跋扈する不気味な世界。マーラーの交響曲第7番「夜の歌」(特に第3楽章)の雰囲気に近い。第3楽章「ナタリーのために」は泣きたくなるくらい美しいハーモニー。そして息子ビリーという新しい生命を授かった第4楽章は生命力に溢れ、爆発するエネルギー!会心の名演だった。なお「ナタリーのために」前半と後半のオーボエ・ソロを別の奏者が吹いたので驚いた(市音の演奏は同一奏者だったように記憶していたので)。そこでTwitterで加瀬孝宏さん(東京フィルハーモニー交響楽団)にお尋ねしてみると、バーンズの楽譜自体がそうなっているそうである。とても勉強になった。
アンコールは今年の課題曲から客席の挙手によるリクエストを募る。課題曲IIとIIIが双璧で、丸ちゃんの判断で2曲することに。マーチ「春の道を歩こう」は可愛らしく爽やか。”マーチの丸谷”の本領発揮で引き締まった演奏。西村朗「秘儀」について丸ちゃんは「どこがよろしいいの?」と会場の笑いを誘う。会場から「ティンパニが格好いい」との声が。「私は全くやる気がありません」と指揮は米田先生に。けったいだけれど、聴いていて面白い。西村さんはやはり、一筋縄ではいかない人だ。
アンコールで期待していた「森の贈り物」が聴けなかったのは残念だったが、久しぶりにバーンズ究極の名曲を生で聴けたので嬉しかった。
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