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2015年3月22日 (日)

森が私に語ること〜「イントゥ・ザ・ウッズ」暗闇の奥へ

「イントゥ・ザ・ウッズ」のレビューは下記に書いた。

本作についてつい最近、ネット上で次のような感想文を読んだ。

おとぎ話というと教訓があるものだが、それがなんだか判らない。結局何が言いたかったの? 「願い事には気をつけて」ということ? それとも「言葉の力に気をつけて」ということ?

いやもうびっくりした!青天の霹靂である。僕にとっては舞台ミュージカルの頃から長年親しんできた作品であり、そもそもこれを観て何が言いたいか理解できない人が存在するという発想そのものがなかった。多分それは「桐島、部活やめるってよ」や「風立ちぬ」、そしてフェリーニの「甘い生活」が判らない人たちがいるのと同じ現象なのだろう。決して少ない数ではない、大体2−3割くらいだろうか?つまり主人公の心情が台詞で説明されないと理解出来ない人々のことである。

そこで「イントゥ・ザ・ウッズ」のテーマについて改めて考えてみた。

上記レビューにも書いたとおり、本作における森は《人間の本能・恐怖心・願い・欲望・潜在意識》などもろもろの感情の暗喩(メタファー)である。対する森の外は《しきたり・秩序・モラル・世間体》などを示している。一方、子どもたちにとって森は《誘惑や危険に満ちた、混沌とした世界》であって、森の外は両親に庇護された《安全な場所》である。しかし、永遠に子どもの時間に居続けることは出来ない。彼らは必ず《森の中へ(Into the Woods)》入っていかなければならない。それが《大人になること》なのだ。

おとぎ話は最後に決まり文句が必ず登場する。「そして彼らはいつまでも幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし(And they lived happily ever after.)」

「イントゥ・ザ・ウッズ」はこの慣用句に疑問を投げかける。「本当に彼らの末路は幸せだったの?人生ってそんなものじゃないでしょう。波風があって当たり前なんじゃない?」そしてさらに、「嘘と知っていて子どもたちにそんな作り話をしていいの?」「『願いはきっと叶う』とか、『努力すれば必ず報われる(by 高橋みなみ)』とかいった戯言を子どもたちに信じさせることは本当に有意義なの?」と本作は問うのである。

ここで物語の終盤、シンデレラが赤ずきんに歌う"No One is Alone"の歌詞を見てみよう。

Mother cannot guide you.
Now you're on you're own.
Only me beside you.
Still, you're not alone.
No one is alone, truly.
No one is alone.
Sometimes people leave you
Halfway through the wood.
Others may deceive you.
You decide what's good.
You decide alone.
But no one is alone.

(死んでしまった)お母さんは貴方を導けない。
貴方は今、自分自身の道を歩んでいる。
私だけが貴方のそばにいる。
でも、貴方はひとりじゃない。
誰もひとりぼっちじゃない。本当よ、
ひとりじゃないの。
時に人々は貴方から離れてゆくでしょう、
森(=人生)の中ばで。
またある人は貴方を騙そうとするかも知れない。
貴方は自分で何が正しいか決めなければならない。
ひとりきりでね。
でもひとりぼっちじゃないの。

また魔女歌う"Children will Listen"の歌詞はこうだ。

How do you say to your child in the night?
Nothing's all black, but then nothing's all white
How do you say it will all be all right
When you know that it might not be true?
What do you do?

貴方は夜、子供になんてお話を読み聞かせるの?
世界の全ては真っ黒(悪)じゃない、でも全て白(善)でもない。
貴方はどう言うの、万事めでたしめでたしと?
それが本当じゃないかもしれないと知っているのに?
貴方ならどうする?

Careful the things you say
Children will listen
Careful the things you do
Children will see and learn
Children may not obey, but children will listen
Children will look to you for which way to turn
To learn what to be
Careful before you say "Listen to me"
Children will listen

言葉に気をつけなさい、
子供達は真剣に耳を傾けている。
行いに注意しなさい、
子供達は貴方の振る舞いを見て学ぶ。
子供達は反抗するかも知れない、でも聴いている。
子供達は貴方を見守っている、どうしたら良いのか
そうありたい人になるために学ぼうとしている。
「お聞きなさい」と言う前に気をつけて、
子供達は耳を傾けているのだから。

Careful the wish you make
Wishes are children
Careful the path they take
Wishes come true, not free
Careful the spell you cast
Not just on children
Sometimes the spell may last
Past what you can see
And turn against you
Careful the tale you tell

願いをかけるときには気をつけて
願いとは子供達のこと。
どの道を選ぶか注意して
願いが叶う時、タダではない。
呪文を唱える時は気をつけて
子供達に唱えては駄目
時に呪文は貴方の目が届かない
(死後まで)効力を発揮するから。
そして貴方の意図に反する結果になる。
おとぎ話を語るときには気をつけて。

どうです?この作品のテーマが端的に表れているでしょう。

最後に、3歳の息子がいる僕の考えを述べたい。「進撃の巨人」でミカサ・アッカーマンが言うように、この世界は残酷だ。しかし、幼い子供にそんなことを教える必要はない。小学生、つまり12歳くらいまでは夢とかおとぎ話を信じさせておけばいい。そして中学生になったら世の中の暗い部分、人の悪意を描く物語や、映画を教えればいいのではないだろうか?

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