花とアリス殺人事件
評価:B+
岩井俊二監督が初めてアニメーションに挑むということで、どこまでの完成度が期待出来るのか不安要素が多く、当初は観に行くつもりがなかった。 ところが新海誠監督やスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー(業界関係者)が褒めるものだから、コロッと気が変わった。結論として足を運んで正解だった。
映画公式サイトはこちら。ロトスコープという技法が用いられているそうで、この用語は知らなかった。モデルの動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにする手法だそうだ。岩井監督はこれに3DCGを組み合わせるという新しい試みをしている。美術監督は新海誠監督「言の葉の庭」の滝口比呂志。
僕が大好きな新海誠監督のアニメ「秒速5センチメートル」は岩井俊二作品から多大な影響を受けている。例えば図書館の場面は「Love Letter」だし、踏切で明里が言う台詞は明らかに「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」における、なずな(奥菜恵)のそれを意識している。面白いことに「花とアリス殺人事件」では逆に岩井監督が新海アニメや細田守監督作品を徹底的に研究したようで、エンド・クレジットにSpecial Thanksとして「新海誠」が登場する。作家って互いに刺激を受けるんだね。
鈴木杏・蒼井優が主演した映画「花とアリス」(2004)の前日譚である。実写映画になる前にショートフィルム版「花とアリス」(2003)があって、キットカットの日本発売30周年を記念してネスレが運営するウェブサイト「ブレイクタウン」でネット配信された(僕はそちらも観ている)。「花とアリス殺人事件」にキットカットが登場するのはそういう経緯による。
岩井俊二は少女が最高に輝く瞬間をすくい取り、フィルムに永遠に封じ込めることに長けた作家である。天才的とも言える。「Love Letter」の酒井美紀しかり、「打ち上げ花火」の奥菜恵しかり。そして「花とアリス」で最後に蒼井優(アリス)がバレエを踊る場面の神々しいまでの美しさに、僕は目眩を覚えた。あの瞬間が彼女のピークだったと確信を持って言える。「花とアリス殺人事件」もアリスのバレエ・シーンから始まる。そして最後は「花とアリス」の冒頭に繋がり、懐かしいテーマ音楽が鳴り響く。至福の時であった。
取り立てて大した出来事(事件)は起こらず、ほのぼのとした映画なのだけれど、結局僕は岩井監督が醸し出す「空気感」が大好きなんだなぁと改めて自覚した次第である。
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