From Stage to Screen 〜映画「イントゥ・ザ・ウッズ」
評価:A+
ミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」は1987年にブロードウェイで初演された。作詩・作曲:スティーヴン・ソンドハイム、台本:ジェイムズ・ラパイン。2004年には演出:宮本亜門、魔女:諏訪マリー、赤ずきん:神田沙也加、シンデレラ:シルビア・グラブらというキャスティングで日本初演された。僕はこの初演@新国立劇場および、再演@兵庫県立芸術文化センター大ホール(2006年7月2日)を観ている。またバーナデット・ピータースが魔女を演じたブロードウェイ初演版DVDも所有している(北米版、日本未発売)。トニー賞では台本賞、楽曲賞(スティーヴン・ソンドハイム)、主演女優賞(パン屋の妻役;ジョアンナ・グリーソン)と3部門受賞。因みにこの年は作品賞、主演男優賞(マイケル・クロフォード)など7部門を「オペラ座の怪人」が制した。すなわち、スティーヴン・ソンドハイムはアンドリュー・ロイド=ウェバーに勝ったのである。
ロブ・マーシャル監督はミュージカル映画「シカゴ」でアカデミー作品賞を受賞。その前にディズニーが製作したテレビ映画「アニー」の監督・振付を担当し、こちらも掛け値なしの傑作であった(僕は北米版DVDで視聴。日本未発売)。「NINE」はお粗末な出来だったけれど、今回はすっかり復調。オリジナルの舞台を上回る完璧な作品に仕上がった。オープニングのロゴが「暗い」シンデレラ城なのも気に入った。公式サイトはこちら。
まず配役が素晴らしい。アカデミー助演女優賞にノミネートされたメリル・ストリープといい、狼役のジョニー・デップも嬉々として怪演。観ているこちらも愉快な心持ちになる。しっとり落ち着いたパン屋の妻:エミリー・ブラント(英語版「風立ちぬ」では里見菜穂子の声を担当)や、弾ける生命力を抑えきれないシンデレラ:アナ・ケンドリックなど適材適所である。アナの歌唱力も抜群。ちなみに彼女は6歳のとき舞台「アニー」でデビュー。12歳のとき出演したミュージカル「High Society」でトニー賞にノミネートされた。来月公開される主演映画「ラスト5イヤーズ」もミュージカルである。またジャック(ジャックと豆の木):ダニエル・ハットルストーンは映画「レ・ミゼラブル」でガブローシュを演じた逸材だ。
以前ソンドハイムはインタビューに答え、ディズニー向けにシナリオの手直しをしていると発言していた(映画の脚色もジェイムズ・ラパインが担当)。「イントゥ・ザ・ウッズ」は「本当は怖いグリム童話」みたいな側面があり、シンデレラの義理の姉たちがガラスの靴に足が入るように踵を切断したり、鳥たちが彼女たちの目を潰す残酷なシーンがあり、てっきりカットされているのだろうと僕は想っていた。ところが(直接描写はないものの)そっくりその設定が残っていたので驚いた。映画的なスピード感がありながらも、舞台との齟齬を感じさせない。見事なアレンジである。
映画を観て初めて気付いたのだが、本作の本当の主役は森(Woods)なんだね。森は人間の願いとか欲望、本能、深層心理のメタファーでありカオスを形成。一方で森の外はしきたりやモラル、建前、秩序を象徴している。実に奥深い。
公開初日にTOHOシネマズ@兵庫県西宮市で鑑賞。なんとレイトショーなのに映画館が満席で驚いた。こんな盛況は久しぶりだ。報道によると本作は今年公開された洋画の中でNo.1のオープニング興行収入を記録。さらに、国内で公開されたミュージカル映画史上歴代No.1の興収58億円をあげた「レ・ミゼラブル」のオープニング成績を抜き、2000年以降に公開された実写ミュージカル映画の中でもNo.1のオープニング記録を樹立したそうである。スゲェな!
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