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2015年3月11日 (水)

映画「フォックスキャッチャー」あるいは、アメリカ人のマッチョ信仰についての考察

 評価:A+

Foxcatcher_2

アカデミー賞で監督賞、主演/助演男優賞、オリジナル脚本賞など5部門にノミネートされた。映画公式サイトはこちら。面白いのは8本ノミネートされる作品賞に落選したのに、5人しかノミネートされない監督賞に入っているって一体どういうこと??理解不能。監督はベネット・ミラー。フィリップ・シーモア・ホフマンがアカデミー主演男優賞を受賞した「カポーティ」は傑作だった。

大富豪とオリンピックの金メダリスト(レスリング)との物語。実話である。描かれるデュポン財閥は名前から分かる通りフランス系である。南北戦争と2つの世界大戦で火薬を売り、巨万の富を築いた。

本作のシナリオがクレバー(巧妙)だなぁと想うのは歴史を踏まえたアメリカ人論になっていることである。財閥の御曹司のレスラーへの偏愛(執着)はアメリカ人のマッチョ信仰鍛えぬかれた肉体への崇拝と密接に結びついている。

例えばマーベルに代表されるアメコミにもマッチョ信仰が窺い知れる。スーパーマン然り、超人ハルクやキャプテン・アメリカ、マイティ・ソーなんかもそう。シルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーがハリウッドでスターになれたのもマッチョ信仰のおかげであると言える。考えてもご覧。シュワちゃんはオーストリア出身だけれど、ヨーロッパ映画に彼の持ち味を活かす役どころなんてある?マーベルに似たヒーローって他の国に存在する?鉄腕アトムに端を発する日本のマンガやアニメのヒーローって、その多くはロボット/人造人間 萌えでしょ?アメリカとは根本的に違うんだ(「ロボコップ」は石ノ森章太郎の漫画「ロボット刑事」の模倣である)。アメフトもマッチョだよね。ジョージ・W・ブッシュ元大統領がホワイトハウスでNFL(アメフト)のゲームを観戦中に、興奮のあまりプレッツェルを喉につまらせたという事件もあった。

話を元に戻そう。御曹司がマッチョ信仰なのに対して、彼の母(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は名馬のコレクターであり、レスリングを「野蛮で下等なスポーツ」と嫌悪している。そもそもfoxcatcherとは「キツネ狩り」をする猟犬や馬を指した言葉である。キツネ狩りといえばイギリスやフランスの貴族に流行ったスポーツであり、つまり母と息子の確執はヨーロッパ文明とアメリカ文明の衝突を象徴している。息子の屈折した愛情表現はアメリカ人のヨーロッパに対する憧れと嫉妬、劣等感にイコールなのである。

深い映画だ。結末が「銃社会」でしか成立しないのと同様、本作の根幹は独立戦争から西部開拓史(先住民の掃討、奴隷売買)を経て、逞しい肉体を賛美する「宗教」を発展させて行ったアメリカという国家固有の物語なのだ。

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