21世紀に誕生した青春映画の金字塔「幕が上がる」
評価:A+
映画公式サイトはこちら。
僕はももいろクローバーZに全く興味がない。メンバーの名前も誰一人知らないし、彼女たちの歌も一切聴いたことがない。それでもどうしてもこの映画を観たいと想った。その理由はキネマ旬報誌で大林宣彦監督が本作を絶賛していたからである。
またAKB48のMVやドキュメンタリー映画を撮っている高橋栄樹監督も次のようにツィートされている。
さぬき映画祭・アイドルサミットに出演しました。大林宣彦監督が鮮やかに、 AKBとももクロの違いについて看破されていたのが、驚きでもあり嬉しくもありました。アイドルや新人の女優さんの演出というのは、かくも深いものなのかと、随分考えさせられました。今も考えてます。
— 高橋栄樹 (@eikitakahashi) 2015, 2月 22
そして本広克行監督ももクロ主演の『幕が上がる』。部活、田園での自転車、制服のまま飛び込むプールなどなど、アイドル映画の王道の映像(僕も撮ったことある)が、ことごとくアップデートされていく様が心地いい。演技と演出、カメラワークが一体となって、今迄のアイドル映画を刷新していく。
— 高橋栄樹 (@eikitakahashi) 2015, 2月 22
間違いなくアイドルの演技・演出において『幕が上がる』は一つの到達点だと思うし、今後は『幕が上がる』前・後という言い方がされることになるだろう。
— 高橋栄樹 (@eikitakahashi) 2015, 2月 22
ここまで言われたらもう、観るしかないでしょう。他の選択肢はない。
本広克行監督は大林監督との対談で本作を順撮り(シナリオ通りの順番で撮影すること)したと語っている。正にその効果が覿面(テキメン)で、当初は芝居に対してズブの素人だったももクロたちが、次第に演技に目覚めどんどん輝いていく姿がまるでドキュメンタリーのように捉えられ、フィルムに封じ込められている。彼女たちは原作者であり劇作家・演出家でもある平田オリザのワークショップに参加したそうだが、その功績も大いにあっただろう。
本広監督は元々演劇に対する関心が深い人だ。監督の故郷・香川県で撮られ、僕が大好きな映画「サマータイムマシーン・ブルース」は劇団ヨーロッパ企画の代表作であり、舞台の台本を書いた上田誠が映画のシナリオも執筆している。そして「幕が上がる」の冒頭で演劇部の部員が焼却する台本が何と、「ウィンタータイムマシーン・ブルース」なのである!
で「幕が上がる」の誰が凄いって、ももクロじゃない。美術教師役の黒木 華(くろき はる)、彼女に尽きる。何なんだ、あの強烈な存在感は!彼女が登場した途端に画面がキュッと引き締まる。そして突然の不在にも残り香が薫るのだ。間違いなく今年の助演女優賞は彼女が総なめするだろう。黒木 華演じる教師はかつて「学生演劇の女王」と呼ばれたという役どころだが、彼女自身も(大阪府の進学校)追手門学院高等学校演劇部時代に1年生の時から主役を務めていたそうで、大学時代に野田秀樹の演劇ワークショップに参加し、オーディションに合格してNODA・MAPの公演「ザ・キャラクター」でデビューしたという経歴を持つ。
本作の「発明」は未だ映画で一度も描かれたことがなかった高校演劇の世界をテーマにしたことにある。全国高等学校演劇大会の様子もダイジェストで登場するのだが、何と熱い空間だろう!驚きの連続であり、背筋が伸びる想いがした。アイドルと演劇の世界の融合という点では、恐らく薬師丸ひろ子主演、澤井信一郎・荒井晴彦脚色による映画「Wの悲劇」を参考にした側面もあるのではないか?「幕が上がる」の主人公が見る悪夢の中で演劇部の顧問から罵倒され灰皿を投げつけられる場面があるが、あれは蜷川幸雄がモデルであり、「Wの悲劇」にも蜷川幸雄が演出家役として登場するのである。
そして特筆すべきは「幕は上がる」のカーテンコール。ミュージカル仕立て、そしてメイキング映像も織り込むという手法は明らかに大林宣彦監督「時をかける少女」(1983)へのオマージュである。おまけにラストはももクロのメンバーがフィックス(固定)されたカメラに向かって走ってきて微笑むというカットなのだが、これも「時かけ」の原田知世とそっくりに仕上げているという念の入れよう。恐れ入った。
本広監督は本作を撮るにあたり、大林宣彦と山田洋次が若手の監督を呼んで語り合う「渋谷シネマ会」に参加し、アイドル映画を撮る極意について指南を仰いだそうである(詳細はこちら)。大林監督からの助言は「(被写体を)愛すればいいんだよ」だったという。そしてそれが結実したのが「幕が上がる」なのである。
本作は紛れもなく「桐島、部活やめるってよ」に拮抗する、21世紀に生まれた青春映画の金字塔である。読者諸君、直ちに映画館に駆けつけ、この世紀の大傑作を目撃せよ!
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