映画「さよなら歌舞伎町」
評価:A
映画公式サイトはこちら。
グランド・ホテル形式というジャンルがある。1932年に公開され、第5回アカデミー作品賞を受賞した映画「グランド・ホテル」がその由来である(ちなみに僕はアカデミー作品賞受賞作を第1回から全作品観ている)。要するにある場所に集まった、様々な人生を生きてきた人々を俯瞰的に描く群像劇である。この手法は後年様々なバリエーションで応用された。その代表例が1970年代のパニック映画だろう。「大空港(エアポート・シリーズ)」「ポセイドン・アドベンチャー」「タワーリング・インフェルノ」「大地震」などが該当する。ジェームズ・キャメロンが偉かったのはアカデミー作品賞・監督賞を受賞した「タイタニック」を敢えてグランド・ホテル形式にしなかった点である(トニー賞を受賞したミュージカル「タイタニック」はグランド・ホテル形式を踏襲している。因みにこれを作曲したモーリー・イェストンは「グランド・ホテル」のミュージカル版も手がけている)。閑話休題。
さて、「さよなら歌舞伎町」は完全にグランド・ホテル形式の映画だ。それを猥雑で欲望渦巻く新宿・歌舞伎町のラブホテルで展開したところが本作のユニークなところ。強烈な「グランド・ホテル」のパロディとも言えるし、秀逸なアイディアである。脚本は手練の荒井晴彦。「Wの悲劇」の大胆な脚色が鮮やかだったが、「赫い髪の女」「嗚呼!おんなたち 猥歌」など日活ロマンポルノを多く手がけ、「ひとひらの雪」など性愛を描かせたら彼の右に出るものはいない。
本作ではデリヘル嬢、AV女優、SM嬢、ホテトル嬢(古い!)、たちんぼ、枕営業などが次々に登場(警察官のカップルも!)。彼ら(彼女ら)が錯綜し、物語を紡いでいく光景は圧巻で、さながら性風俗の見本市の様相を呈している。
映画冒頭は前田敦子の歌声で始まるので意表を突かれる(そして最後も彼女の歌で〆られる)。意外と上手い(AKBにいた頃よりも格段に進歩している)。あっちゃんは3人組バンドのボーカルで、とあるプロデューサーからCDデビューの話を持ちかけられている。プロデューサーからは「後の2人はいらない」と言われているが、そのことを仲間には話せていないという設定。で結局、彼女は枕営業で件のラブホテルに入室するというわけ。ここでやはり観客としてはAKB48の公式ライバル乃木坂46の松村沙友理のスキャンダルを思い出さずにはいられない仕掛けになっているのだ。だから実に生々しくて映画館の暗闇でニヤニヤしてしまった。
東日本大震災の絡ませ方も実に巧みだ。さり気なく311号室だったりしてね。人生どん詰まり。でも最後は仄かな希望の光が垣間見られる。
これが3度目のタッグとなる荒井晴彦と廣木隆一監督は実に相性が良い。おぬしら、なかなかやるな。
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