イチオシ!映画「はじまりのうた」
評価:A+
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「ONCE ダブリンの街角で」(2007)というアイルランド産の音楽映画があった。主題歌Fallying Slowlyはアカデミー歌曲賞を受賞。後に舞台ミュージカルとなり、トニー賞で最優秀作品賞、演出賞など8部門を受賞した。映画を監督/脚本したのはダブリン(アイルランド)生まれのジョン・カーニー。彼の新作が「はじまりのうた」である。
主演はキーラ・ナイトレイとマーク・ラファロ。ロックバンド「マルーン5」のボーカリスト、アダム・レヴィーンも重要な役割を果たす。アダムは実に演技がうまい、そしてセクシーだ(2013年、ピープル誌で「世界で最もセクシーな男性」にも選ばれたという)。
キーラ・ナイトレイ出演作は「スター・ウォーズ エピソード1」「パイレーツ・オブ・カビリアン」「プライドと偏見」「つぐない」「わたしを離さないで」「アンナ・カレーニナ」など沢山観ているが、今回の彼女が最高だった。びっくりした。やっぱり歌ったからだろうね。彼女が歌えることは知っていた。一時期、ミュージカル映画「マイ・フェア・レディ」リメイク版への出演が取り沙汰されていたので(記事は→こちら)。
本作は全面的にニューヨークで撮られた。キーラがあちこちの街角で歌う(バンドを伴いレコーディングする)情景はさながら「ニューヨーク散歩」であり、僕は「ロンドン散歩」が魅力的なキャロル・リード監督の愛すべき遺作「フォロー・ミー」のことを想い出した。
原題Begin Againが示している通り、本作は再生の物語である。と同時に音楽が持つ魔法の力についての映画でもある。何というヴィヴィッドな作品なのだろう!全編が魅力的な楽曲で溢れ、ミュージカルと言っても過言ではない。キーラ・ナイトレイとマーク・ラファロが1台のiPodが再生する音楽をイヤホンスプリッターで共有し、それを聴きながらNYの街を彷徨う場面がある。ふたりがタイムズ・スクエアに差し掛かった瞬間、フランク・シナトラが歌うLuck Be a Ladyが流れたのには痺れたね。これはブロードウェイ・ミュージカル「野郎どもと女たち(Guys and Dolls)」のナンバーで、正にタイムズ・スクエアが舞台の物語なのである。抜群の選曲センスだ。
また「(音楽を通じて)恋愛感情抜きの男女の友情は成立し得る」という力強いコンセプトに「我が意を得たり!」と首肯した。
ニューヨークを舞台にしたノーラ・エフロン脚本/ロブ・ライナー監督の「恋人たちの予感」(原題:When Harry Met Sally...)という名作がある(未だにビリー・クリスタルがアカデミー賞授賞式に登場する時にはこの映画の主題歌It Had to Be Youが流れる)。メグ・ライアンのキュートさが絶頂期に達した作品で、僕も大好きなロマンティック・コメディだ。しかし映画の冒頭で「セックス抜きの男女の友情は成り立つのか?」という問題提議を掲げておいて、最後はな、なんと「いや、成り立たない」という結論に達するのである。公開当時大学生だった僕は映画館の暗闇で「そりゃないぜ!?」と悶絶した。その後ノーラ・エフロンは監督業に進出し、メグ・ライアンと引き続き組んでニューヨーク三部作(「めぐり逢えたら」「ユー・ガット・メール」)を撮ることになる。「恋人たちの予感」から24年。「はじまりのうた」はそのアンチテーゼ、見事な返歌なのである。長い間の喉のつかえが取れた気がした。
音楽が好きな人は絶対に見逃すな。今すぐ映画館へ駆けつけろ!
最後に、アカデミー歌曲賞にノミネートされたLost Starsは地味だけれど、しみじみしたいい歌だ。ただし受賞は無理だろう。栄冠を勝ち取るのは「セルマ」のGloryで決まり!初めて聴いたとき、雷に打たれたような衝撃を受けた。
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