がらんどうの交響曲〜秋山和慶/大阪フィル定期 with ダン・タイ・ソン
大阪フィルハーモニー交響楽団は創設以来最大の危機に直面している。
首席指揮者の井上道義は定期演奏会で年2回しか指揮台に立たない。他にマチネ・シンフォニー、兵庫芸文でのブルックナー・シリーズ、年末の第九などを入れても7-8回。リハーサルは各3日間。本番をカウントしても指揮者とオケが共に過ごす日数は年間たった30日前後である。さらに現在、大フィルには専任のコンサートマスターがいない。他所との兼任である。こんな状況で果たしてオーケストラは育つ(向上する)だろうか?
昨年12月、欧米の評論家を招いて東京国際フォーラムで開催されたシンポジウム「世界における我が国オーケストラのポジション」において英国のアンドリュー・クレメンツは次のように述べた。
「日本のオーケストラの課題としては、(外国人の)首席指揮者には日本に在住してもらうくらいでないと駄目だと思います。1シーズンにつき、今の3倍の時間をかけてリハーサルをする。それだけの機会を持つべきです。ロンドン交響楽団ではゲルギエフを迎えてから最悪の時代を迎えました。彼は多忙で、いつも不在だからです」
同様に大フィルの指揮者には大阪に住んでもらうべきである。少なくとも朝比奈隆はそうだった。
朝比奈は大フィルの常任指揮者/のち音楽総監督を50年以上務めた。ストコフスキー/フィラデルフィア管弦楽団は27年、続くオーマンディ/フィラデルフィア管が43年、カラヤン/ベルリン・フィルが35年、ジョージ・セル/クリーヴランド管弦楽団が25年、ショルティ/シカゴ交響楽団が23年、そしてデュトワ/モントリオール交響楽団の蜜月は26年続いた。じっくり時間を掛けてオケと向き合う。”オーケストラ・ビルダー”とはかくあるべきであろう。それに比べ現代の指揮者は飛行機で世界中を駆けまわり、忙しすぎる。
さて、秋山和慶を迎えた今回のプログラムは、
- ヴォーン=ウィリアムズ:劇付随音楽「すずめばち」序曲
- ショパン:ピアノ協奏曲 第2番(独奏:ダン・タイ・ソン)
- R.シュトラウス:家庭交響曲
「すずめばち」は矍鑠(かくしゃく)たる解釈。オケはきりりと引き締まる。
ダン・タイ・ソンは2010年に兵庫芸文で聴いている。
彼のショパンの特徴はタメ(テンポ・ルバート)が少なく、潔いところ。さらっとしてあっさりだが、淡白ということはない。繊細なタッチで一音一音が粒立っている。マズルカも登場する第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェは正確無比、勢いと瞬発力があった。アンコールはショパンの夜想曲 第2番。
僕は「ばらの騎士」「サロメ」「アラベラ」などオペラ作曲家としてのR.シュトラウスは高く評価するが、彼のオーケストラ曲は退屈で唾棄すべき代物だと考えている。特にアルプス交響曲と家庭交響曲のオーケストレーションは華麗だが、中身は空っぽ。がらんどうの交響曲と呼んでいる。交響曲といいながら中身はライトモティーフ(示導動機)を駆使した標題音楽。交響詩と変わらない。またそのプロットがくだらない。アルペン・シンフォニーなんか山を登って降りてくるだけの話だぜ!?バカみたい。水商売で金持ちの男と懇意になって玉の輿に乗り、派手な毛皮のコートを身にまとってブランド店を闊歩する成金のおばちゃんみたいな曲。同趣旨の作品ならグローフェの「グランド・キャニオン」の方がよっぽどいい。彼が33歳の時に作曲した「英雄の生涯」なんか自分をヒーローに見立てているわけで、不遜な若者の過剰な自意識の産物と言えるだろう。
家庭交響曲もなんだかなぁ。自身の家族を描く管弦楽曲としてはエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの「ベイビー・セレナーデ」の方が断然ウィットに富み、粋で好きだ。はっきり言ってワーグナーが生み出したライトモティーフの手法を引き継いだ標題音楽作曲家としてはコルンゴルトやジョン・ウィリアムズ(「スター・ウォーズ」「ハリー・ポッター」)の方がR.シュトラウスより格が上であると僕は確信している。
さて初めて生で聴いた家庭交響曲だが、やはり僕の耳には空疎に響いた。クライマックス(第4部「終曲」)のフーガはうるさくて単なる騒音。秋山の指揮ぶりは生真面目で見通しがよく分かりやすいが、一方で面白みがない。まぁ、この人はいつものことだ。オケの方は高橋首席率いるホルン軍団が咆哮し、清々しい(逆に高橋が登場しないプログラム前半は頼りなかった)。あといつも足を引っ張るトランペットが今回は健闘。なんだ、やればできるじゃない。
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