三谷幸喜版「オリエント急行殺人事件」
フジテレビで二夜連続放送された三谷幸喜(脚本)「オリエント急行殺人事件」を観た。公式サイトはこちら。CMをカットすると第一夜:2時間28分、第二夜:2時間17分の放送時間であった。まず、筆者とアガサ・クリスティの接点について語ろう。
僕は小学校低学年の頃から推理小説が大好きで、シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、江戸川乱歩の「明智小五郎と少年探偵団」シリーズなどを学校の図書館から借りてよく読んでいた。小学校4,5年生位の頃、新潮文庫でクリスティの「アクロイド殺人事件」を読んでそのトリックの凄さに衝撃を受けた。次に出会ったのが「オリエント急行殺人事件」で、これも驚天動地の犯人で「推理小説って凄い!」と感銘を受けた。その後ポアロものはすべて読破したが、アクロイドとオリエントを超える作品はなかった。丁度その頃、映画館でジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」が封切られ、父親にせがんで観に連れて行ってもらった(ニーノ・ロータの音楽=ほぼ遺作が大好きで、サントラLPレコードも小遣いで買った)。当時は未だDVDはおろかビデオも一般家庭に普及していない時代だったので、シドニー・ルメット監督の映画「オリエント急行殺人事件」を観ることが出来たのは大学生以降である。
三谷版「オリエント急行殺人事件」第一夜を観て、まずびっくりしたのは日本に舞台を移した以外はほぼ原作に忠実だったことである。ポアロ=勝呂が過去に解決した事件というのが「いろは殺人事件」というのには爆笑(「ABC殺人事件」のパロディ)。またオース・スター・キャストであるとか、野村萬斎の扮装がアルバート・フィニーに、八木亜希子のヘアメイクがイングリッド・バーグマンのそれにソックリだとか、シドニー・ルメット版を相当意識した演出になっていた。さて、そして第一夜で事件解決まで一気に行き、つまり映画のラストまで辿り着き、第二夜で過去に何が起こったかというオリジナルな展開となるという大胆な構成に唸った。
「オリエント急行殺人事件」は復讐劇であり、こうして再構成されるとな、な、なんと!忠臣蔵に繋がっていることに気付かされる(松嶋菜々子が大石内蔵助の役回り)。復讐に参加する同士(義士)を集める過程はさながら「オーシャンと十一人の仲間」や黒澤明監督「七人の侍」の如し。次第に仲間が集まってくる様子は観ていてワクワクする。そして犯人のひとりが陪審員を象徴する「12」という傷口の数にこだわる件はシドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」であり、それをパロディにした東京サンシャインボーイズ時代の三谷の代表的芝居「12人の優しい日本人」に繋がっている。チーム・プレイの愉しさ。
第一夜(本編)は幼女誘拐殺人事件という痛ましい悲劇(リンドバーグ事件をモデルにしている)であるが、第二夜は殺人をめぐる喜劇に変容する妙。このユーモアのセンスはアルフレッド・ヒッチコック監督作品の雰囲気を彷彿とさせ、さらに言えば三谷が敬愛するビリー・ワイルダー監督「情婦(原作はクリスティーの「検察側の証人」)」へのオマージュでもある。本作の持つこの多重構造に僕は感服した。大傑作、必見。
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