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2015年1月

2015年1月31日 (土)

いずみシンフォニエッタ大阪「リズムの秘法〜世界の創造」

1月24日(土)いずみホールへ。

板倉康明/いずみシンフォニエッタ大阪で、

  • コープランド:アパラチアの春
  • ディアナ・ロタル:シャクティ
    〜サクソフォンと室内オーケストラのための協奏曲
  • リゲティ:ピアノ協奏曲
  • ミヨー:世界の創造

独奏は西本淳(サクソフォン)、福間洸太朗(ピアノ)。

開演前にロビー・コンサートもあり、佐藤一紀高木和弘のヴァイオリンで、

  • ミヨー:ヴァイオリンのための二重奏曲より第1楽章
  • モーツァルト:4つのシュピーゲル・カノンより
  • モーツァルト:トルコ行進曲

シュピーゲル・カノンは日本語で「鏡」「鏡カノン」と訳され、楽譜は上下どちらからでも読む事が可能。二人のヴァイオリニストが向き合って一つの楽譜を奏者の間に置き、各々の目線から演奏していくことで二重奏になるというユニークな趣向。いわゆる音楽の冗談だ。ケッヘル番号はK.Anh C10.16。Anh.Cは偽作、あるいは偽作と疑わしいものを示すらしい。愉しいものを聴かせてもらった。

「アパラチアの春」でコープランドはピューリッツァー賞を受賞した。今まで聴いた実演はフル・オーケストラ(初演後に作曲者自身が2管編成に書き直したもの)だったが今回は12人による小編成オリジナル版。スッキリとした響きで清々しい演奏。ときおり鋭い解釈も。

ディアナ・ロタルはルーマニアの若手作曲家(1981〜)。彼女の母ドイナ・ロタルも同業だという。「シャクティ」は国際作曲家コンクール・入野賞受賞作。冒頭はソプラニーノ・サクソフォンのマイスピースを外して吹き、パンフルート(ルーマニアにはそれに似たナイという民族楽器があるという)みたいな音色がした。更にソリストはバリトン、アルトとどんどん楽器を持ち替えてゆく。爆発するエネルギー、新しい響きを求めた模索の旅。面白い!

リゲティはポリリズムを駆使した複雑な曲。でもゲンダイオンガクに有りがちな難解さはない。すんなり受け入れられた。ピアノは淡々、粛々と進行。まぁショパンとかシューマンみたいにロマン派じゃないんだから感情を込められても仕方ないだろう、この曲は。

アフリカを舞台にしたミヨーの「世界の創造」は色彩感が豊かで、タヒチで描かれたゴーギャンの絵を連想した。両者は根源的なところで繋がっていると感じられた(どっちもフランス人だし)。

Ware
ポール・ゴーギャン「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」

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がらんどうの交響曲〜秋山和慶/大阪フィル定期 with ダン・タイ・ソン

大阪フィルハーモニー交響楽団は創設以来最大の危機に直面している。

首席指揮者の井上道義は定期演奏会で年2回しか指揮台に立たない。他にマチネ・シンフォニー、兵庫芸文でのブルックナー・シリーズ、年末の第九などを入れても7-8回。リハーサルは各3日間。本番をカウントしても指揮者とオケが共に過ごす日数は年間たった30日前後である。さらに現在、大フィルには専任のコンサートマスターがいない。他所との兼任である。こんな状況で果たしてオーケストラは育つ(向上する)だろうか?

昨年12月、欧米の評論家を招いて東京国際フォーラムで開催されたシンポジウム「世界における我が国オーケストラのポジション」において英国のアンドリュー・クレメンツは次のように述べた。

「日本のオーケストラの課題としては、(外国人の)首席指揮者には日本に在住してもらうくらいでないと駄目だと思います。1シーズンにつき、今の3倍の時間をかけてリハーサルをする。それだけの機会を持つべきです。ロンドン交響楽団ではゲルギエフを迎えてから最悪の時代を迎えました。彼は多忙で、いつも不在だからです」

同様に大フィルの指揮者には大阪に住んでもらうべきである。少なくとも朝比奈隆はそうだった。

朝比奈は大フィルの常任指揮者/のち音楽総監督を50年以上務めた。ストコフスキー/フィラデルフィア管弦楽団は27年、続くオーマンディ/フィラデルフィア管が43年、カラヤン/ベルリン・フィルが35年、ジョージ・セル/クリーヴランド管弦楽団が25年、ショルティ/シカゴ交響楽団が23年、そしてデュトワ/モントリオール交響楽団の蜜月は26年続いた。じっくり時間を掛けてオケと向き合う。”オーケストラ・ビルダー”とはかくあるべきであろう。それに比べ現代の指揮者は飛行機で世界中を駆けまわり、忙しすぎる。

さて、秋山和慶を迎えた今回のプログラムは、

  • ヴォーン=ウィリアムズ:劇付随音楽「すずめばち」序曲
  • ショパン:ピアノ協奏曲 第2番(独奏:ダン・タイ・ソン)
  • R.シュトラウス:家庭交響曲

「すずめばち」は矍鑠(かくしゃく)たる解釈。オケはきりりと引き締まる。

ダン・タイ・ソンは2010年に兵庫芸文で聴いている。

彼のショパンの特徴はタメ(テンポ・ルバート)が少なく、潔いところ。さらっとしてあっさりだが、淡白ということはない。繊細なタッチで一音一音が粒立っている。マズルカも登場する第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェは正確無比、勢いと瞬発力があった。アンコールはショパンの夜想曲 第2番

僕は「ばらの騎士」「サロメ」「アラベラ」などオペラ作曲家としてのR.シュトラウスは高く評価するが、彼のオーケストラ曲は退屈で唾棄すべき代物だと考えている。特にアルプス交響曲と家庭交響曲のオーケストレーションは華麗だが、中身は空っぽ。がらんどうの交響曲と呼んでいる。交響曲といいながら中身はライトモティーフ(示導動機)を駆使した標題音楽。交響詩と変わらない。またそのプロットがくだらない。アルペン・シンフォニーなんか山を登って降りてくるだけの話だぜ!?バカみたい。水商売で金持ちの男と懇意になって玉の輿に乗り、派手な毛皮のコートを身にまとってブランド店を闊歩する成金のおばちゃんみたいな曲。同趣旨の作品ならグローフェの「グランド・キャニオン」の方がよっぽどいい。彼が33歳の時に作曲した「英雄の生涯」なんか自分をヒーローに見立てているわけで、不遜な若者の過剰な自意識の産物と言えるだろう。

家庭交響曲もなんだかなぁ。自身の家族を描く管弦楽曲としてはエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの「ベイビー・セレナーデ」の方が断然ウィットに富み、粋で好きだ。はっきり言ってワーグナーが生み出したライトモティーフの手法を引き継いだ標題音楽作曲家としてはコルンゴルトやジョン・ウィリアムズ(「スター・ウォーズ」「ハリー・ポッター」)の方がR.シュトラウスより格が上であると僕は確信している。

さて初めて生で聴いた家庭交響曲だが、やはり僕の耳には空疎に響いた。クライマックス(第4部「終曲」)のフーガはうるさくて単なる騒音。秋山の指揮ぶりは生真面目で見通しがよく分かりやすいが、一方で面白みがない。まぁ、この人はいつものことだ。オケの方は高橋首席率いるホルン軍団が咆哮し、清々しい(逆に高橋が登場しないプログラム前半は頼りなかった)。あといつも足を引っ張るトランペットが今回は健闘。なんだ、やればできるじゃない。

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2015年1月30日 (金)

映画「そこのみにて光輝く」と「海炭市叙景」

映画「そこのみにて光輝く」(2014、キネマ旬報ベストテン第1位、米アカデミー賞外国語映画賞日本代表)の公式サイトはこちら佐藤泰志が書いた唯一の長編小説が原作で三島由紀夫賞候補になった。彼は5回、芥川賞候補になったが一度も受賞できず、41歳で自ら命を断った。映画を監督したのは呉 美保(お みぽ)、女性である。

評価:F

大嫌い。生理的に受け付けられない。貧乏臭くて不潔だし、男が女に暴力を振るって顔をボコボコにしても女は泣いて耐える(訴えない)って1970年頃の日本映画かよ!?いわゆるATG(日本アート・シアター・ギルド)映画、例えば「祭りの準備」(1975)とか、東映実録シリーズを思い出した。古過ぎる。こんなシロモノを評価する人たちの気が知れない。案の定、米アカデミー賞にはノミネートされず。そりゃそうだよね、アカデミー会員は上品な映画が好みなんだ。本作を日本代表に決めた選者が不見識。

海炭市叙景」(2010、キネマ旬報ベストテン第9位)の公式サイトはこちら。監督は北海道帯広市出身の熊切和嘉(「私の男」)。

評価:B+

佐藤泰志の短篇集が原作で、「海炭市」という架空の都市に暮らす市井の人々18組の生きざまを描く。映画もオムニバス形式だが、登場人物はスッキリと整理されている(短編5編を中心に構成されている)。「そこのみにて光輝く」同様、原作者の故郷、北海道函館市でロケされている。こちらは良かった。監督のセンスの差かな?人生どん詰まり。でも生きていくしかない。谷村美月、小林薫ら出演者たちのアンサンブルがいい味出している。彼らの背中に哀愁を感じたよ。

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2015年1月21日 (水)

世界初演!ティンパニ交響曲〜三ツ橋敬子/大響定期

1月16日(金)、ザ・シンフォニーホールへ。

三ツ橋敬子/大阪交響楽団で、

  • ニコライ:歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
  • カヴァッリーニ:ティンパニ交響曲
  • エルガー:交響的習作「ファルスタッフ」

今年度はシェイクスピア生誕450周年記念ということで大響定期はシェイクスピアに因んだ楽曲が必ず入っている。「ウィンザーの陽気な女房たち」は後にヴェルディの歌劇「ファルスタッフ」となるが、エルガーの「ファルスタッフ」で描写される物語は同じシェイクスピアの「ヘンリー四世」(第2部)に基づいている。

ニコライの序曲は冒頭の静謐なサウンドから魅了された。スコアの隅々にまで目が行き届いた、ウィットに富む演奏。ただ三ツ橋の指揮は生真面目すぎて、もうすこし余裕というか、遊び心があってもいいんじゃないかと惜しまれる。どうしてもウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートでのカルロス・クライバーの伝説的指揮と比べちゃうんだよね、この曲は。

クラウディオ・カヴァッリーニは1970年イタリア生まれの作曲家。パルマ音楽院でパーカッション・ティンパニを専攻している。現在もヴェネツィアのフェニーチェ劇場オーケストラで打楽器奏者を務める。今回のソリストはローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団のエンリコ・カリーニ。とにかくティンパニ協奏曲というジャンルは珍しいし、ダイナミックで面白かった。5台のティンパニが使用され、弦はヴァイオリンなしという編成もユニーク。不協和音の「ゲンダイオンガク」という感じではなく、親しみやすかったしね。アンコールはカヴァッリーニの「二人のティンパニ奏者」を来日していた作曲家との共演で披露。

エルガーはしなやかな推進力があり、流麗な歌謡性を持つ解釈。

総じて行って良かった演奏会だった。

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2015年1月20日 (火)

樫本大進×エリック・ル・サージュ/フランス&ベルギー音楽の夕べ

1月13日(火)、いずみホールへ。

樫本大進(ヴァイオリン)、エリック・ル・サージュ(ピアノ)で、

  • ォーレ:ヴァイオリン・ソナタ 第1番
  • プーランク:ヴァイオリン・ソナタ
  • フォーレ:ロマンス
  • フランク:ヴァイオリン・ソナタ
  • フォーレ:子守唄(アンコール)
  • マスネ:タイスの瞑想曲(アンコール)

ベルリン・フィル第1コンサートマスターである樫本の演奏を生で聴くのはこれが2回目。

上記ブログにも書いたが、ピリオド・アプローチを無視した彼のベートーヴェンは何だかぼんやりした印象で、全く感心しなかった。しかし今回は違った。

フォーレは夢見るような、花の香がした。上品かつ清廉。そしてピアノの柔らかいタッチ、しなやかな響きにも魅了された。さすがレ・ヴァン・フランセでも活躍する名手である。

スペイン内戦で殺された詩人ガルシア・ロルカに捧げられたプーランクのソナタ(1944年ドイツ占領下のフランスで作曲された)には熱気と色気があった。

ベルギー人フランクの作品は「フランス文化圏」ということで無理やり「フランス音楽」に分類されているが、それじゃ坂本龍一がニューヨークで作曲したものはアメリカ音楽なのか?ヘンデルがイギリス移住後に作曲した「水上の音楽」や「メサイア」は?馬鹿げている。ベルギー人に対して失礼だ。

樫本は淡い色彩でそこはかとない情感を描く。衣の肌触り。幽き世界。しかしそこには確かな一本の芯が通っている。お見事!

樫本とフランス&ベルギー音楽の意外な親和性に驚嘆した夜であった。

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鈴木秀美/OLCのモーツァルト(グラン・パルティータ&ミサ曲ハ短調)

1月17日(土)鈴木秀美/オーケストラ・リベラ・クラシカ(OLC)をいずみホールで聴いた。このコンビが関西にやって来るのは実に7年半ぶりである!

鈴木雅明・秀美兄弟は神戸市出身だが現在は東京を中心に音楽活動をしており、もう少し関西音楽文化の成熟に貢献してほしいとここで苦言を呈しておく(バッハ・コレギウム・ジャパンの定期演奏会@神戸松蔭女子学院大学チャペルだけでは物足りない)。

今回はオール・モーツァルト・プログラムで、

  • セレナード 第10番「グラン・パルティータ」
  • ミサ曲 ハ短調 K.427

合唱は今回新たにプロの声楽家で結成されたコーロ・リベロ・クラシコ。OLCも同様だが、バッハ・コレギウム・ジャパンと兼任している人が多いように見受けられた。

「グラン・パルティータ」は13管楽器(うちコントラバス1)のためのセレナードであるが、古楽器ということもあり途中でお折れ曲がったバセットホルン(クラリネット属の木管楽器)や、ホルンもピストンのないナチュラル管が使用された。以前同曲をモダン楽器で聴いたことがあるが、古楽器は高いアンサンブル精度を保つのが難しい印象を受けた。

日本は「弦の国」と言われ弦楽奏者の質が高いが、管楽器では欧米諸国の後塵を拝している。OLCも弦楽奏者は日本人のみだが管楽器はその多くを外国人に頼っている。「グラン・パルティータ」は4人が外国人で、ホルンパートの2人の日本女性は音に芯がなく頼りなかった。クラリネット・トップはNHK交響楽団や、なにわ《オーケストラル》ウィンズで活躍する山根孝司。さすがの名手・山根氏も手強い相手に悪戦苦闘していた。

古楽器の鄙びた音色は心が落ち着いて大好きだが、テクニック的には些か残念な演奏だった。

ミサ曲はハ短調という調性だが、例えばト短調の交響曲(25,40番)のような悲劇性はなく、2曲目グローリアからハ長調に転じ、どちらかというとむしろ明るい。本作はコンスタンツェとの婚礼の記念として作曲され、初演のソプラノは新妻が歌ったという。そういう沸き立つ歓び、幸福感溢れる作品であった。

鈴木の指揮は冒頭キリエから鋭く開始され、清新な演奏。合唱には透明感があり、特に弱音の美しさは筆舌に尽くしがたい。改めて人の声は世界でもっとも美しい楽器だなぁと想った。心洗われる体験であった。

1月17日は阪神淡路大震災から丁度20年という特別な日であり、鈴木秀美はきっとアンコールをするだろうし、それならこの曲しかない!と確信していたモーツァルトの最高傑作、アヴェ・ヴェルム・コルプスが最後に歌われた。

鈴木&オーケストラ・リベラ・クラシカのみなさん、次は7年も間を空けず近いうちにまた来てくださいね。そしてプログラムは十八番のC.P.E.バッハ&ハイドンで是非。

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2015年1月16日 (金)

イン・テンポで弾けないピアニストは勘弁してくれ!~寺岡清高/大阪交響楽団 定期

12月15日、ザ・シンフォニーホールへ。

寺岡清高/大阪交響楽団で

  • ハンス・ロット:「ジュリアス・シーザー」への前奏曲
  • フランツ・シュミット:交響曲 第1番
  • ブラームス:ピアノ協奏曲 第2番

ピアノ独奏はオーストリア生まれのクリストファー・ヒンターフーバー。

ロットをこのコンビで聴くのは2回目。シュミットは恐らく今回が日本初演だろうとのこと。交響曲第4番(名曲!)になると、ブルックナーとマーラーの間をたゆたうような作風となるが、25歳の時に完成された本作はブルックナーの影響が色濃い。なお彼はウィーン宮廷歌劇場管弦楽団(現在のウィーン国立歌劇場管弦楽団、すなわちウィーン・フィル)にチェロ奏者として入団し、そこで指揮者マーラーに出会うことになる。第4楽章はコラール(賛美歌)風旋律が登場し、フーガになる。ちなみにシュミットもブルックナーもオルガン奏者だった。

ブラームスのコンチェルトはとにかくソリストがお粗末。下手な奏者の特徴で難しいパッセージになるとテンポが落ちる。つまりイン・テンポで弾けないのだ。音楽は停滞し、ミス・タッチも目立つ。日本のピアニストでもっとマシな人は沢山いるだろうに。大好きな曲なのに全く愉しめなかった。

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2015年1月14日 (水)

ミュージカル「モーツァルト!」2015

1月12日(祝)梅田芸術劇場へ。

Mo3

ウィーン生まれのミュージカル「モーツァルト!」を観劇。

Mo1

ダブルキャストだが、僕が観たのは山崎育三郎がタイトルロールを演じた。

Mo2

前回観た時の感想は下記。詳しい作品解説も書いているのでご覧あれ。

僕は2002年の日本初演から今までに【ヴォルフガング:中川晃教、井上芳雄、山崎育三郎】、【コンスタンツェ:松たか子、西田ひかる、島袋寛子(SPEED)、平野綾】【ヴァルトシュテッテン男爵夫人:久世星佳、香寿たつき、涼風真世、春野寿美礼】で観たことになる。

山崎のヴォルフガングは歌が安定していて危なげがない。ただ、ベスト・キャストとしては「ロックンロールしている」という点で、僅差で中川晃教に軍配を上げる。

平野は顔が庶民的でルックスという点では松や西田に負けるが、ただモーツァルトの妻コンスタンツェという役どころは「あばずれ」なので、はまり役だと思う。彼女は歌唱が素晴らしく、歌に気持ちを込める才能を持っている。ヴァルトシュテッテン男爵夫人で僕が一番好きなのは香寿たつきだが、春野も毅然とした雰囲気があって悪くなかった。

モーツァルトの姉ナンネール役として初参加の花總まりは初演キャストの高橋由美子より断然歌が上手く、なにより気品がある。ナンネールのナンバーに感銘をうけたのは今回がはじめて。

完全無欠のミュージカル「エリザベート」に対して、「モーツァルト!」には瑕がある。ソロ・ナンバーがやたらと多く、構成が何だか緩い。しかし楽曲の完成度は高く、捨てがたい魅力があることも確か。

本作で描かれる主人公は「神の子」であり、彼の父やコロレド大司教、コンスタンツェの母らは彼を抑圧する存在である。ヴォルフガングはそれに抗い、自由を希求する。しかし一方で、彼には天賦の才能神から与えられた使命があり、完全な自由を得られることは生涯ない。その逃れられない宿命を象徴する存在が彼の分身であり、一言も喋らない子役が演じるアマデ(と彼が持つ小箱)である。そういった作品の構造が漸く見えてきた。観れば観るほど味が出るスルメのような作品である。

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2015年1月13日 (火)

三谷幸喜版「オリエント急行殺人事件」

フジテレビで二夜連続放送された三谷幸喜(脚本)「オリエント急行殺人事件」を観た。公式サイトはこちら。CMをカットすると第一夜:2時間28分、第二夜:2時間17分の放送時間であった。まず、筆者とアガサ・クリスティの接点について語ろう。

僕は小学校低学年の頃から推理小説が大好きで、シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、江戸川乱歩の「明智小五郎と少年探偵団」シリーズなどを学校の図書館から借りてよく読んでいた。小学校4,5年生位の頃、新潮文庫でクリスティの「アクロイド殺人事件」を読んでそのトリックの凄さに衝撃を受けた。次に出会ったのが「オリエント急行殺人事件」で、これも驚天動地の犯人で「推理小説って凄い!」と感銘を受けた。その後ポアロものはすべて読破したが、アクロイドとオリエントを超える作品はなかった。丁度その頃、映画館でジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」が封切られ、父親にせがんで観に連れて行ってもらった(ニーノ・ロータの音楽=ほぼ遺作が大好きで、サントラLPレコードも小遣いで買った)。当時は未だDVDはおろかビデオも一般家庭に普及していない時代だったので、シドニー・ルメット監督の映画「オリエント急行殺人事件」を観ることが出来たのは大学生以降である。

三谷版「オリエント急行殺人事件」第一夜を観て、まずびっくりしたのは日本に舞台を移した以外はほぼ原作に忠実だったことである。ポアロ=勝呂が過去に解決した事件というのが「いろは殺人事件」というのには爆笑(「ABC殺人事件」のパロディ)。またオース・スター・キャストであるとか、野村萬斎の扮装がアルバート・フィニーに、八木亜希子のヘアメイクがイングリッド・バーグマンのそれにソックリだとか、シドニー・ルメット版を相当意識した演出になっていた。さて、そして第一夜で事件解決まで一気に行き、つまり映画のラストまで辿り着き、第二夜で過去に何が起こったかというオリジナルな展開となるという大胆な構成に唸った。

警告!!以下ネタバレあり!!




「オリエント急行殺人事件」は復讐劇であり、こうして再構成されるとな、な、なんと!忠臣蔵に繋がっていることに気付かされる(松嶋菜々子が大石内蔵助の役回り)。復讐に参加する同士(義士)を集める過程はさながら「オーシャンと十一人の仲間」や黒澤明監督「七人の侍」の如し。次第に仲間が集まってくる様子は観ていてワクワクする。そして犯人のひとりが陪審員を象徴する「12」という傷口の数にこだわる件はシドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」であり、それをパロディにした東京サンシャインボーイズ時代の三谷の代表的芝居「12人の優しい日本人」に繋がっている。チーム・プレイの愉しさ。

第一夜(本編)は幼女誘拐殺人事件という痛ましい悲劇(リンドバーグ事件をモデルにしている)であるが、第二夜は殺人をめぐる喜劇に変容する妙。このユーモアのセンスはアルフレッド・ヒッチコック監督作品の雰囲気を彷彿とさせ、さらに言えば三谷が敬愛するビリー・ワイルダー監督「情婦(原作はクリスティーの「検察側の証人」)」へのオマージュでもある。本作の持つこの多重構造に僕は感服した。大傑作、必見。

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2015年1月11日 (日)

雪深い奥飛騨温泉郷への旅〜宮﨑駿との意外な接点

正月休暇で岐阜県の奥飛騨温泉郷へ旅をした。一泊目は新穂高温泉・槍見舘。日本秘湯を守る会に所属する宿である。

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内風呂以外に露天風呂が7つ(うち、貸切露天風呂4)もあり、蒲田川を眺めながら掛け流しの温泉にゆったり浸かることが出来る。

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山の日暮れは早く、午後4時になると夕方の薄ぼんやりした風景となった。

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夜は露天風呂の上空にオリオン座がくっきりと輝き、月明かりが雪に映え山の頂上まで見えた。

毎朝、宿でお餅つきがあるのも嬉しい。

槍見館を発って訪れたのが新穂高ロープウェイ。日本唯一の2階建てゴンドラを有する。頂上で雪の中に立つと、周りは完全な無音の空間が広がる。雪が音を吸収するということもあるし、虫や鳥が一切いない「死の世界」であると言い換えることも出来るだろう。

二日目の宿は福地温泉・孫九郎へ。ここで連泊。

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鄙びた宿の槍見舘と違って何の変哲もない一般的客室で、食事も素朴な内容だが美味しい。朴葉味噌焼きとか飛騨牛とか、この地域は食文化が豊かだ。

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孫九郎の何が素晴らしいって、泉質だ。僕は、北は北海道・知床半島のカムイワッカ湯の滝から南は鹿児島県・屋久島まで数多くのお温泉に入ってきたが、ここは最高レベルであると断言出来る。4つの源泉を持ち、循環でないのは無論のこと(湯をブレンドすることで)加水すらしない源泉100%の湯に入れるというのが魅力。すべてのお風呂の泉質が違うのも面白い。「のくとまり入湯手形」を利用して孫九郎の向かいにある長座の湯にも 入ってみたが、なんだか「薄い」気がした。

孫九郎のフロントには宮﨑駿の色紙が飾られていた。

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しかも3枚とも日付が違う!息子の吾朗や孫と写った写真も。よっぽどお気に入りなんだね。

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雪景色の散策は愉しい。

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萬葉館の手打ち蕎麦やコーヒー、五平村で囲炉裏に炙った五平餅も美味しかった!

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「アナと雪の女王」がお気に入りで「ありのままで」を歌ったりもする3歳の息子に、本物の雪の冷たさ、その感触を味わってもらいたい。それが今回の旅の目的のひとつであった。

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「青だる」である。滴り落ちる水が凍りついて、青い水の帯のように見える現象のことをいう。

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命の洗濯をした4日間であった。また来たい。新緑の奥飛騨にも興味があるが、やっぱり次も冬がいいな。

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