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向田邦子への挑戦状〜三谷幸喜「紫式部ダイアリー」

12月11日(木)森ノ宮ピロティホールへ。三谷幸喜 作・演出、斉藤由貴長澤まさみの二人芝居「紫式部ダイアリー」を鑑賞。

清少納言 vs. 紫式部のバトルというからてっきり十二単で登場するのかと思いきや、現代のホテルのバーが舞台になっているので意表を突かれた。彼女らの著作が「枕草子」と「源氏物語」(連載中)という設定はそのままだが、紫式部(長澤)はパープル色のMacBook Airを使っている。またふたり以外に、一言も喋らないバーテンダーが登場する。

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観ていて、「これって三谷幸喜宮藤官九郎の話だよね?」と感じた。自分より若くて美人で才能がある紫式部に清少納言が嫉妬する図式は、劇作家としてだけではなく役者やパンク・バンド(グループ魂)でも活躍するクドカンに対して三谷が抱いているであろう感情を想起させる。三谷が映画「みんなのいえ」で日本アカデミー賞脚本賞にノミネートされた年、最優秀賞を受賞したのはクドカンの「GO」だった。また三谷は「王様のレストラン」で向田邦子賞を打診された時、第1回目受賞者が「寂しいのはお前だけじゃない」の市川森一だったことから「自分は未だあのレベルに達していない」と辞退している(倉本聰「北の国から2002 遺言」が代わりに受賞)。結局この賞もクドカンに先を越された(「うぬぼれ刑事」2010)。

劇中、清少納言は紫式部に「ブログとかツイッターとかに”オワコン”とか”才能が枯れた”とか書かれているのを読むと落ち込むから、自分の名前でインターネット検索をするのはやめた方がいい」と助言する。これには爆笑。実際僕も三谷の才能が枯渇したんじゃないかと過去に書いている。

結局この芝居は自分のことを書いているんだね。だから赤裸々で切実で面白い。ここ10年位パッとしなかった三谷作品の中で、ずば抜けた完成度である。

冒頭からトルコ軍楽隊の音楽が聴こえてきて、僕は向田邦子脚本、和田勉演出のテレビ・ドラマ「阿修羅のごとく」で使用された「ジェッディン・デデン」 (Ceddin Deden、祖先も祖父も)のことを想い出した。すると途中からその曲ズバリが登場し、最後もCeddin Dedenで締めくくられた。

女の業とか醜い部分を描かせたら向田邦子の右に出るものはいなかった。つまり本作は「女を描けない」と言われ続けた三谷の、向田に対する大胆不敵な挑戦状だったのだ。そういえば森田芳光が監督した映画版「阿修羅のごとく」(筒井ともみ 脚色)にも長澤まさみは出演していたではないか!!(映画版でCeddin Dedenは使用されず)。その意図は明白である。今回の三谷の気迫には凄みすら感じられた。

長澤まさみが素晴らしい。無邪気で残酷な小悪魔。僕は彼女が東宝「シンデレラ」グランプリに選ばれ銀幕デビューした「クロスファイア」(2000)から映画館でリアルタイムに観ている。撮影当時まだ12歳(小学6年生)の少女だった。初主演の映画「ロボコン」(2003)なんか本当にスクリーンで輝いていた。その彼女も現在27歳。初めて生で見たが本当に美人でセクシーで、そしてなによりその卓越した演技力に刮目した。劇中で「美人だと周りからちやほやされるけど、中々才能を認めてもらえないんです」と悩みを打ち明ける場面があるが、それはまさみの本心だろうと想った。

余談だが「全然大丈夫です」と言うまさみに対し、斉藤由貴が「肯定文に『全然』は日本語として間違っているんじゃない?」という場面がある。それに対してまさみが「夏目漱石も使っています」と答える。そこで興味を持ったので帰宅して調べてみた。

夏目漱石『坊っちゃん』(明治39年 1906年)の職員会議の場面で主人公が「一体生徒が全然悪るいです。どうしても詫まらせなくっちゃあ、癖になります」と言うと、これに対して数学教師の山嵐が「私は教頭及びその他の諸君の御説には全然不同意であります」と反論する。芥川龍之介は『羅生門』(大正4年 1915年)で「これを見ると、下人は初めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されてゐると云ふことを意識した」と記述している。また森鴎外は『灰燼』(大正元年 1912年)の中で「好色家が女がうるさいと伝ふと、全然同じ事である」と書き、山本周五郎の『青べか物語』(昭和35年 1960年)には「三人とも全然まるはだかであった」とある。

肯定文で使っても全然大丈夫なんだね。日本語の勉強になった。

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